前回からのつづきです。

いつも読んでくださる皆さん、「いいね」してくださる皆さん、どうもありがとうございます。

 

少しだけ私の現状について。

死産から3ヶ月がたっても精神状態はまだまだ不安定です。

でも体の調子はほとんど元通りで、日常生活は問題なく送れますし、仕事もしています。

その、心の不調と体の快調のギャップに苦しんでいます。

そのあたりはまた詳しく書きますね。

 

***

 

先生の説明を受けたあと、また夫と2人になりました。

先生は「みやこさんも旦那さんも少し眠ってください」とおっしゃいましたが、悲しみと体の痛みとで、とても眠れそうにありませんでした。

夫に「目をつむっているだけでも休むことになるから」と言われ、2人で目を閉じて横になりました。

 

やがて島への船が動く時間になりました。

夫は私の入院グッズを取りにいったん島へ。

入院グッズのリストは分娩予約をしたときに受け取ったテキストに書かれているから、わからないことがあったら連絡するように伝えました。

 

夫が出ていくと途端に寂しくなりました。

破水して陣痛を起こして死産をして…

壮絶な体験でしたが、夫がそばにいてくれるだけでかなり心の支えになっていたんだと実感しました。

 

シーンとした部屋に1人きり。

あまりに静かなので不安感に襲われました。

病棟のいちばん奥の部屋なので他の部屋からの音も聞こえません。

テレビはありましたが今は見る気分になれません。

妙に気分が落ち着かず、意味もなくソワソワと気が急いて、何かしなくてはいけないような気持ちになりました。

 

(そうだ、死産について調べてみよう。)

 

そう思い立って家をでるときに持ってきたバッグを漁ってスマホを探しました。

でも見つからない。

 

スマホはいつも必ずバッグの内ポケットに入れます。

だけど内ポケットは空っぽでした。

念のため他の場所も探しましたが見つかりません。

家から着てきた服のポケットを調べても、スマホはどこにもありませんでした。

 

(えっ…まさか、なくした?)

 

自分で言うのもなんですが、私は幼い頃から落とし物や忘れ物にはかなり慎重でした。

財布や鍵といった大切な物は入れる場所を決めているから失くしものもしません。

スマホをなくすなんてこの時がはじめてでした。

破水した後かなり焦っていたので、内ポケットにしまったつもりで、どこかに落としたのだと思います。

 

すごく焦りました。

落とし物をしたことがないので、こういう時どうしたらいいかわからなかったのです。

これじゃ夫からの連絡を受けることもできない。

死産について調べることもできない。

 

どうしよう…どうしよう…!!

 

心臓がものすごく早鐘を打っていました。

ドキドキして動悸がおさまりませんでした。

頭の中で「どうしよう」という思いだけがグルグルして、手が震えました。

息苦しさまで感じてきてうまく呼吸ができなくなる感じがしました。

 

「スマホをなくしたくらいで大げさだなぁ」と今なら笑えます。

でもこの時は本気で混乱していました。

ぴよちゃんを亡くした喪失感、そして夫が帰ってしまった不安感

そこに、スマホを失くすという失態を犯した自分への落胆が加わって、心がもたなくなったんだと思います。

あとから知ったのですが、パニック障害になりかけていました。

 

心臓の鼓動が尋常じゃなく、頭の混乱と手の震えと息苦しさ、さらに全身にびっしょりと汗をかきました。

このままじゃまずいと思ってナースコール。

ベテラン助産師さんが飛んできてくれました。

 

「みやこさん?どうしたの?」

 

「スマホが…

スマホがなくて…スマホをなくしてしまって…

これじゃ夫と連絡が取れないんです!

夫が帰ってしまって、夫が…。

どうしよう!夫から電話がくるのに!」

 

そんなことを口走っていたと思います。

ブルブル震える私の肩をベテラン助産師さんが何度もさすってくれました。

 

「大丈夫よ、大丈夫。

旦那さんにはこっちから電話しておくからね。

落ち着いて、深呼吸して」

 

ベテラン助産師さんになだめられて深呼吸していると、少しずつ頭が落ち着きました。

気がつくとボロボロ涙を流して泣いていました。

ベテラン助産師さんもいっしょに泣いていました。

 

「大変だったね。つらかったね。痛かったよね。

いろんなことが一気に起こって、気持ちがついていかないんだよね。

みやこさんも赤ちゃんもがんばったのに、残念だったね。

力になってあげられなくてごめんね…」

 

ベテラン助産師さんは、私を慰め、共感して、涙を流してくれました。

この時はそうしてもらえることが何よりも嬉しかった。

どん底に沈んでいる心が救われるようでした。

 

私は子どものように泣きました。

涙も鼻水も流しっぱなしで、恥も外聞もなく、わーわーと大声をあげました。

私は人前で泣くのが苦手です。

あんなふうに泣くのは本当に子どもの頃以来だったと思います。

 

しばらく泣くとなんだかスッキリして、少しずつですが涙が止まっていきました。

気がつくと呼吸の苦しさも動悸も戻っていました。

 

ベテラン助産師さんが「やだねーもう…」と言ってズビーッと豪快に鼻をかみました。

それがなんだかおかしくて、少し笑うことができました。

 

「悲しかったら泣いていいんだからね。

話も聞くよ。話したいことがあったらいつでも呼んで!

眠れないならお薬出すし、痛いのもお薬で治るからさ。

とにかくもう、心配することなんてないんだよ!」

 

最後は力強い言葉をもらって、私は「はい」と頷きました。

本当にベテラン助産師さんは私の支えになってくれました。

この人がいたおかげで本格的なパニックを起こさずに済んだと思っています。

 

 

その後、病院のPHSを借りて夫に電話をかけました。

スマホをどこかで落としたから連絡が取れないこと、

もし用事があるなら産科の番号にかけて取り次いでもらってほしいこと、

私の実家にも早めに連絡を入れてほしいことを伝えました。

夫と連絡が取れたこと、夫の声を聞けたことで、かなりホッとしました。

 

それから会陰を縫合した痛みがひどかったので痛み止めのお薬をもらいました。

飲んで30分くらいするとズキズキ響くように痛かったのが和らぎました。

痛みがなくなっても眠れないのは相変わらずでしたが…。

睡眠薬はなんとなく抵抗があったので、飲んでいません。

 

 

そして、これは火葬が終わってからの感想ですが…

スマホを落としたのは本当に痛かったです。

結局スマホが手元に戻ってきたのは退院してからになりました。

もっと早く天使ママさんたちのブログや体験談を読めていたら、入院中ぴよちゃんに色々してあげられたのになぁと思います。

 

たとえば…

・いっぱい抱っこする

・できるだけ同じ部屋で過ごす

・手作りのお洋服を縫ってあげる

・たくさん写真を撮る

などなど。

 

私はそんなことができるとは知る由もなく、ぴよちゃんにはほとんど何もしてあげられませんでした。

これは未だにものすごく後悔しています。

 

 

つづく