前回からのつづきです。
長い記事なのに読んでくださる方、いつもいいねしてくださる方、ありがとうございます。
たくさんの人に読んでもらえて嬉しいです。
死産されたママさんからのメッセージも嬉しいです。
どれもとても励みになります。
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「お力になれずすみません。
全力で蘇生にいどんだのですが…。
赤ちゃんの心臓は、動きませんでした」
先生の無情な言葉が静かに響きました。
目の前が真っ白になって、それから先の言葉が聞こえなくなりました。
頭がパニックのようになりました。
顔にカーッと血がのぼって熱くなり、喉がギュッと締まって、全身が冷たくなるような感覚です。
「やだ…やだやだ!!
やだあああー!!
なんでぇぇえーーー!!!」
自分の叫ぶ声すら耳に膜が張ったようになって、くぐもって聞こえました。
私はこんな事態になっても頭のどこかで「ぴよちゃんは助かる」と思っていたんです。
27週で破水してしまったけど。
病院にきて事態を説明されたけど。
陣痛がきて、お産がはじまって、吸引までされたけど。
でも、自分の赤ちゃんが死ぬわけない。
だって前回も流産したのに。
周りのみんなは妊娠したら無事に出産してるのに。
私ばっかり、流産して、さらに死産するなんて。
連続してそんな目に遭うわけない。
大変なことになったけどきっとぴよちゃんは助かる。
27週で産まれてしまったけど助かる。
後遺症も残らず健康に育ってくれる。
「母子ともに健康」って、みんなに報告できる。
そう思い込んでいたんです。
いや、そう思い込むことで自我を保っていたのかもしれません。
でもその思い込みは脆くも崩れ去りました。
自我が崩壊するというんでしょうか。
発狂するといっても間違いじゃないと思います。
私は我を忘れて叫びました。
そこから先のことはよく覚えていません。
記憶を失うなんてこの時が始めてです。
本当に発狂する寸前だったのかもしれません。
内容は覚えていませんがとにかく泣き叫んでいたと思います。
もしかしたら暴れていたかもしれません。
頭と喉と心臓、それから体のあちこちがズキズキ痛かったです。
夫と助産師さんが私の名前を呼んだり肩をさすったり、必死になだめてくれて、少しずつ落ち着いていきました。
私が落ち着くのを待って、先生が赤ちゃんの状態について説明してくれました。
だけどそれもろくに頭に入ってきませんでした。
「へその緒が首に巻き付いていた」とか「赤ちゃんが呼吸できなくなった」とか言っていたと思います。
(ぴよちゃんの死因については後日あらためて書きます)
私は先生が何度も「すみませんでした」「申し訳ないです」と繰り返すのをぼんやり聞いていました。
もう返事をする気力もありません。
夫が「はい…そうですか…はい…」と力なく相槌を打っていました。
ひととおり説明を終えたあと、先生に「赤ちゃんに会いますか?」と聞かれました。
私は「会いたいです!」と即答しました。
早くぴよちゃんの顔が見たかったんです。
だって死んでいたって私の赤ちゃんには変わりないから。
夫は何も言いませんでした。
会うべきか会わざるべきか迷っているようでした。
「ではみやこさんだけ会われるということで…。
旦那さんは赤ちゃんがいる間は部屋を出てください。
会いたくなったらまた後でも会っていただけますから」
先生に促されて夫はLDR室を出ていきました。
やっぱり迷いがあるようで、後ろ髪を引かれるような顔をしていました。
しばらくするとベテラン助産師さんがぴよちゃんを連れてきてくれました。
助産師さんは小さな箱状の容器のようなものを持っていました。
そんな小さな箱に入るくらいぴよちゃんは小さいの!?と、少しギクッとしました。
ベテラン助産師さんが分娩台の横まで箱を運んでくれました。
大きな傷があったり、体のどこかがおかしかったりしたら、どうしよう…
トラウマになるような外見だったらどうしよう…
でもやっぱり会いたい。
ぴよちゃんをこの目で見てみたい。
恐怖よりもその気持ちが勝ちました。
私は箱の中を覗き込みました。
ぴよちゃんは、ただ眠っているだけの、ふつうの赤ちゃんのようでした。
とってもとっても小さいけど…
顔色が赤紫色だけど…
でも、かわいい。
本当にかわいい。
目元が私にそっくり。
鼻の形は丸っこくて夫に似てるかな。
顎がシャープなのも夫似だなぁ…。
顔も、おてても、あんよも、何もかもちいさい。
ウソみたいに小さいのに爪はぜんぶ生え揃ってる。
髪の毛も少ないけどちゃんと生えてる。
穿かされたオムツはきっと新生児用サイズなのにブカブカ。
かわいいなぁ…
かわいい……。
ずっと見ていられるなぁ…。
そっとほっぺたに触れてみました。
ぴよちゃんのほっぺたは、冷たいけどやわらかかった。
両目からボロボロ涙がこぼれました。
でもそれは今まで流した悲しみや絶望の涙とは違いました。
嬉しい、愛しい…
そんな感情からくるあたたかい涙でした。
27cm・950g
2月某日
小さな小さなぴよちゃんが産まれました。
つづく