前回からのつづきです。
管理ページを開いたらアクセス数が見たことのない数字になっていました。
多くの方に興味を持って読んでいただけて嬉しいです。
私は強いお腹の張りがあったにもかかわらず受診をためらいました。
そのせいで破水し、結果わが子を喪いました。
いま妊娠中のお母さんたち。
そして、これから赤ちゃんを授かろうとしている奥さんたち。
妊娠中に少しでも異変を感じたら、どうかすぐに病院へ行ってください。
そうすることで助かる命があるはずです。
私と同じ思いをする人が減ることを願っています。
***
ぴよちゃんの心拍をあらわしていたグラフがまっすぐな棒線になりました。
先生が「心拍停止」と言っているのが聞こえました。
先生も助産師さんたちも慌ただしく動いていました。
夫は大きな声で私を励ましてくれていたようですが何を言っているかまでは聞く余裕がありませんでした。
私はといえば相変わらず腰が痛くて、意識は朦朧として、視界もぼやけていました。
何が起きているのかよくわかりませんでした。
いきめばいいのか、ガマンすればいいのか。
自分がとるべき行動がわからず、されるがままになりました。
するとビリビリッと股が裂ける感覚がありました。
「ぎゃああっ!!」
思わず叫びます。
ものすごく大きな声が出てしまいました。
自分にまだこんな体力が残っていたのかというほどです。
刃物で切りつけられたような激痛だったのです。
吸引分娩で無理やり吸い出したので、会陰が裂傷したのだと、あとから説明を受けました。
「出てきた出てきた!
ほら!みやこさん!
産まれたよ!!」
ベテラン助産師さんが言いました。
でも産声は聞こえませんでした。
産まれたはずのぴよちゃんも抱かせてもらえませんでした。
わけもわからずボーッとしているうちに、先生がぴよちゃんをどこかへ連れていってしまいました。
「どうなるんですか?
息子はどうなるんですか?」
夫がベテラン助産師さんに聞きました。
「蘇生処置をします。
そのあとNICUに入れて経過をみます」
蘇生処置。
助産師さんの言葉で私はハッと我に返りました。
「蘇生ってなに?
ぴよちゃんは?」
気付くと陣痛はウソのようになくなっていました。
裂けた会陰はズキズキ痛かったです。
でも陣痛がなくなっただけでかなり意識がクリアになりました。
「あのね、みやこさん。
まだ詳しいことはわからないけど…
赤ちゃん、お産の途中で心臓が止まっちゃったの。
いま先生が処置してるからね。
赤ちゃんの生きる力を信じてあげてね」
後頭部を鉄パイプか何かでガーンと殴られたような気がしました。
心臓が止まった。
ということは、ぴよちゃんは死んでしまった?
先生が蘇生処置をしてくれてるって…
ふつうの赤ちゃんなら生き返ることができるかもしれない。
でもぴよちゃんはまだ正産期に入っていなかった。
まだ27週のぴよちゃんは、本当だったら私のお腹の中じゃないと生きていけない弱い存在。
そんなぴよちゃんが、心拍停止状態で産まれて、生き返れるの???
頭の中で悪い考えがグルグル暴れました。
でもベテラン助産師さんは「生きる力を信じてあげて」と言いました。
そうだ。
母親である私が信じてあげなくちゃいけない。
ぴよちゃんはきっと大丈夫。
「ぴよちゃん、平気だよね。
きっと元気になれるよね」
夫に声をかけました。
夫は両目から、見たことがないくらいたくさんの涙を流していました。
「うん…きっと大丈夫。
俺たちの子だもん。
ぜったい健康になれるって!」
夫は笑いました。
でも、無理をしているのは一目瞭然でした。
ベテラン助産師さんは出ていって、若い方の助産師さんが産後の処置をしてくれました。
お腹を押されると股からズルッと胎盤が出ていく感じがしました。
なんだかスッキリするような感覚です。
大きかったお腹がどんどんへこんでいく光景は不思議なものでした。
「大きく裂けちゃいましたねー。
吸引すると裂けちゃうことが多いんですよ。
あとで先生に縫ってもらいましょうね」
ただでさえ痛いのに縫うなんて…
想像しただけで痛かったです。
夫は無言でしたがものすごく顔をゆがめていました。
スプラッタ苦手だもんね。
こんな場所に立ち会わせてしまって申し訳ない。
「痛そうだね…。本当に大変だったね。
こんなにつらいなんて思わなかった。
お疲れさま。
退院したら寿司でも食べに行こう」
夫は私をせいいっぱい労ってくれました。
「夫もおつかれ。
立ち会ってくれてありがとう。
頼もしかったよ」
私も夫にお礼を言いました。
夫が一生懸命に腰をさすってくれたこと、
夫も不安なのに私をずっと励ましてくれたこと、
私は一生忘れないです。
会話しつつ胎盤の処理をしているとLDR室に先生が入ってきました。
その腕に、ぴよちゃんは抱かれていませんでした。
先生の表情は暗かったです。
先生が言葉を発する前に、私は事態を察してしまいました。
夫の顔を見ると、夫もまた察したような表情を浮かべていました。
「お力になれずすみません。
全力で蘇生にいどんだのですが…。
赤ちゃんの心臓は、動きませんでした」
先生が深々と頭を下げました。
目の前が真っ白になりました。
耳に厚い膜が張ったようになって、なんの音も聞こえなくなりました。
つづく