前回からのつづきです。
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陣痛が7分から5分間隔になり、さらに縮まって3分くらいの間隔になりました。
正確に測っていないのですが「やっと痛みが引いたのにもう次の痛みがきた!」と思ったのを覚えています。
ベテラン助産師さんと先生がLDR室に入ってきてふたたび内診。
さっきの内診のような激痛があるかと思って身構えましたが、今回はグリグリはありませんでした。
「子宮口がいいくらいになってきてますね。
分娩台に移りましょう」
先生の指示でいったんモニターを外し、陣痛が引くのを待ってからベッドを降りました。
次の痛みがやってくる前に分娩台へ。
再度モニターをつけると、ぴよちゃんの心拍が表示されました。
でも、少し弱い。
外す前よりも表示されるグラフの幅が少ないんです。
すぐに痛みがきたので、私はちゃんと確認することはできませんでした。
だけど夫も気づいたようで、不安そうに「心拍が…」と言いました。
「酸素つけて。
みやこさん、痛いと思うけど深呼吸できる?」
先生が言うとベテラン助産師さんが酸素マスクをつけてくれました。
私の呼吸が浅かったからぴよちゃんに酸素がいかなくなったんだと思います。
深く息を吸って、吐いて、吸って、吐いて…を繰り返しました。
激痛で息が止まりそうになるのを必死でこらえて、嘔吐しそうな痛みの中、どうにか深呼吸を続けます。
「つらいけどがんばって深呼吸だよ。
赤ちゃんに酸素がいかなくなるから」
痛みが引いてたら懸命に深呼吸。
かと思えばまたすぐに痛みがやってくる。
陣痛も少しずつ長引いてきて、息がひきつりそうになります。
腰が痛くて痛くて、腰から全身が引き裂けそうな感じが続きます。
痛みに耐えられなくてどうしてもいきんでしまいそうになりました。
ベテラン助産師さんに「まだいきんじゃだめだよ!」と言われましたが、逃し方がよくわかりませんでした。
「いいね、上手ですよ。
がんばってくださいね」
必死で呼吸しているのを先生が褒めてくれました。
もう意識が朦朧としてぴよちゃんの心拍を気にする余裕はなかったです。
だけど先生が褒めてくれたということは、心拍が回復したんだ!と思いました。
そこからどれくらい時間がたったのか…
1時間か2時間か、もっとかかったのか…。
自分ではわかりませんが、何回も何回も繰り返し痛みがやってきました。
最後の方は、痛みの間隔が1分か2分になっていたと思います。
痛みの合間に気絶するような感じで意識がなくなりました。
眠るように意識を失って、夢を見ていたような気がします。
「痛い、つらい…。
早く終わって…もうラクにして…」
そればかり考えていました。
自分のことばかり考えていたからバチが当たったのかもしれません。
「心拍低下。よくないな…。
吸引準備。応援呼んで」
ふと意識が戻った時、先生が慌ただしく指示を出していました。
ぼやける視界に映ったモニター。
ぴよちゃんの心拍がとても弱くなっていました。
ベテラン助産師さんがバタバタと何かの器具を持ってきました。
LDR室に若い方の助産師さんも駆け込んできました。
「みやこ、がんばれ!
しっかりして。がんばれ!」
夫は泣きながら私の手を握っていました。
痛すぎて手を握られていることすら気づきませんでした。
ただごとじゃないんだと、嫌でも思い知らされました。
何か器具を入れられるような感じがしました。
陣痛が痛すぎて何をされているかはっきりわかりません。
私の位置からは見えないので、どんなものを入れられたのかは不明でした。
吸引というのは吸引分娩のことです。
お産についてのエッセイで読んだことがあって知っていました。
お産が滞ったときに、赤ちゃんを吸い出す処置。
(ぴよちゃんはまだ小さいのに…。吸い出したりして平気なのかな?)
明らかに緊迫した状況なのに、妙に冷静な思考が働きました。
処置が始まりました。
陣痛の痛みのせいで麻痺していたからか、痛みとか吸い出されている間隔はありませんでした。
ただなんとなく熱いような感じはしました。
熱いものが股にはさまっているような感覚です。
先生が専門用語で何かを言っていました。
(意識がぼやけていたのでハッキリと聞き取れず)
「みやこさん、もうすぐ産まれるからね!
いま吸い出してるからね!がんばって!」
処置が始まってすぐベテラン助産師さんが言いました。
それとほぼ同時にぴよちゃんの心拍がなくなりました。
描かれていたグラフがまっすぐな棒線になりました。
きっと、お腹から出ていったから表示されなくなったんだ!
吸引したら一瞬だったなぁ。
出る瞬間は意外と痛くないんだなー。
早くぴよちゃんの顔が見たいな。
そう思いました。
能天気だったな、と思います。
だけど違いました。
まだ陣痛は続いています。
ぴよちゃんは産まれていませんでした。
先生が何かを言っていました。
夫も何か叫んでいました。
私は何が起こっているのかわからなくて、なんだか夢を見ているような、ふわふわした気分でした。
先生が「心拍停止」と言っているのだけ、かろうじて聞き取れました。
つづく