ヒレに棘があるとかないとか、黒斑があるとかないとか、要するに、違いがよくわからない。
なので、「メゴチ」という総称で呼ぶことにしている。
そうすれば、少なくとも間違えることはないからだ。




彼は、付き合っている女が複数いた。
奥さん以外の女たちは、皆愛し合っているその最中には、
「あなた」
と呼ばれていた。
彼は、女の名前を呼び間違えるというミスを犯さないようにしていたのだった。

所詮、浮気相手だから、
「あなた」と呼ばれるのも仕方ない。
そのことは、受け入れているつもりだった。

けれども。
その日、たまたま付けていたTVで、椎名林檎の曲がかかっていて、
それを聞くともなく聞いていた時、あるフレーズが私に雷を落とした。

  私の名前をちゃんと呼んで
  体にさわって
  大切なのはそれだけ 気づいて


ああ。
やっぱり、名前をちゃんと呼んでもらうことは、大切なことなのだ。
彼が抱いている私は、ただの「あなた」じゃない。
名前があるのだ。

その歌は、「罪と罰」というのだった。

名前を呼ばれないのは、不倫という罪に対する罰。
この歌詞がそういう意味なのかどうかはしらない。
でも私はそう思った。

椎名林檎に背中を押されて、決めた。
名前をちゃんと呼んでくれない男とは、もう会わない。