映画/『鳥』 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道
2012/9/22TOHOシネマズみゆき座にて
1963年
アメリカ
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ティッピ・ヘドレン、ロッド・テイラー、スザンヌ・プレシェット、ジェシカ・タンディ

ある日突然、鳥が人間を襲い始める。
原案は「レベッカ」のダフネ・デュ・モーリア、脚色はエヴァン・ハンターことエド・マクベイン。

耳を聾する鳥たちの鳴き声。
タイトルが始まった瞬間、映画館に来て良かったと感激。
レミ・ガスマンとオスカー・サラによる電子音響が異様で、鳥についばまれるように消えていくタイトルから緊張する。

序盤はティッピ・ヘドレンとロッド・テイラーの恋模様を軸に、夫の死から立ち直れないテイラーの老母ジェシカ・タンディ(うまい)や、テイラーの元恋人のスザンヌ・プレシェットなどを絡めた緊密な人間ドラマが展開する。

この部分が抜群に良くできており、舞台となる港町ボデガ・ベイのさびれて荒涼とした感じや煮詰まった人間関係が巧みに描かれ、これが後になって見事に効いてくる。

その中に不気味な予兆を加えつつ、暖炉から大量のスズメが飛び込んでくる(と、いうより噴き出してくる、というべきか)不意打ちのようなシーンを皮切りに、いよいよ鳥たちのボデガ・ベイ襲撃が始まる。

ここからはヒッチコックのショック演出と特撮の独壇場。

カラスによる小学校襲撃(有名なジャングルジムにカラスが…というくだりはここ)、村の社交場ともいうべきホテルのダイナーをカモメが襲うシーン、家に立てこもったテイラーの家族やヘドレンと鳥たちの対決(ドアの向こうから次々突き立てられるクチバシビックリマーク)と、見せ場は三つあるがヒッチコックはその三つとも違う手を使って見せており、こういう所が後続の類似作品との決定的な違いといえよう。

鳥たちの襲撃に全く説明がないという点から監督の狙いが、全く理由のない恐怖、いわば「純粋な恐怖」を映像で描くところにあるのは明らかで、まったく音楽を使用しないという点も含めてこれは「サイコ」と並ぶヒッチコックの実験作なのだ。

ラストは果たして希望か絶望か…。
世界の終わりを思わせる、それでいて美しいラスト・ショットを可能にした特撮のローレンス・A・ハンプトンと鳥の調教にあたったアブ・アイワークスの偉業を最後に記さないわけにはいかない。

今観ても充分コワい名作です。