「みず、さわ・・・?」
自信のないような高見の声に、水沢はシーツをきつく握り締めた。
もうこれ以上隠していられない。気付いていないふりも限界。
お互いに同じ気持ちでいる。そう信じていたからこんな生ぬるい関係を続けていられた。
けれど。
少し、揺らぐ。それが致命傷。
「そんなオレって頼りないわけ?」
「水沢」
「誰なんだよ、高見の好きな人って!桐島さんと何話してんだよ!?」
振り絞るような声に、高見は押し黙る。
はっきりと教えて欲しいのに。昔のようになんでも話して欲しいのに。
いつの間にこんなに距離が出来てしまったのだろう。
(おれがこんなだから・・・?)
悔しかった。自分は頼りにされていない事が。
肝心な事は話してくれない高見が、余計に分からなくなる。
一気に遠い存在のようになってしまったようで、水沢は寂しかった。
薄暗い電球に照らされて、見える顔が視線をそらしている。
高見の態度もまた、水沢を苦しめる原因だった。
「何で、なんも教えてくれないの・・・そんな桐島さんがいいのかよ」
「そ、そういう意味じゃない」
曖昧な言葉。曖昧な態度。
(昔は何でもオレに話してくれたのに・・・)
優しいと思っていた。けれど優しすぎるのは罪だ。
優柔不断という態度で苦しめられる。
水沢は胸の痛みに顔をゆがめて、高見に掴みかかった。
驚きで顔を上げる高見と至近距離で視線が絡み合う。
互いに情けない顔で、何かを言い出しそうな唇が乾いていた。
「・・・っ?!」
自棄になっていた、と言える。
こんな風に急かされたことなんてなかった。
急激に近づいた距離。高見は目を見開いて、水沢の震える睫毛を見ていた。
「み、水沢・・・!?」
それがキスだと気付いたのは、涙で濡れた水沢の目が見えてからだ。
高見は口元を押さえて、驚きを隠せないといった表情を向けた。
「オレ、高見が好きだ」
「・・・っ」
「ずっと、学生ん時から!お前もそうだって思ってた、だから・・・」
高見の肩を掴む水沢の指が震えている。
緊張のせいだろうか。
水沢がそう取り乱せば取り乱すほど、高見は逆に冷静さを取り戻した。
だが高鳴るのは心臓の音。水沢の声さえ聞き取れない程、響く。
どうしようもないと、時間を取り返せはしないと急かすように。
「高見の馬鹿・・・っ」
「み、ず・・・さわ」
「酷いじゃんか・・・こんなの」
「水沢・・・」
「おれ・・・お前に構ってもらえないのが一番やだよ・・・」
「水沢」
ポロポロとあふれ出す涙が止まらなくて、水沢はシャツで拭った。
高見に借りたものだったけれど、この際気にしてはいられない。
情けない、その一心だ。
何をやっているんだろう。高見を困らせてしまって。これじゃ本当にただのガキだ。
今度は高見が指を伸ばす。水沢は無意識にそれを跳ね飛ばした。
けれどもう一度強く掴まれて、驚いたように赤い目を高見に向ける。
「聞けよ、人の話を」
少し冷静さを取り戻した水沢を見て、高見は安堵のため息を吐いた。
大人ぶろうとしている口調だが、声が微妙に震えている。小さすぎる変化に水沢は気付かない。
「な、んだよ・・・?」
「俺もお前が好きだよ。多分、お前よりも」
「・・・は?」
「俺は水沢が好きだ。それを桐島さんに相談してただけだ」
はぁとため息と共に吐き出された言葉に、水沢はきょとんとした。
現実と仮想がごちゃごちゃになって、思わず額を押さえる。
オレンジの電球がなければばれている。自分の顔が真っ赤に染まって居る事を。
「お前が好きなのに、お前に相談できるわけないだろ・・・」
苦笑。
肩の荷を降ろしすっきりとした高見の顔を見て、水沢は両手で顔を隠した。
「嘘」
「嘘じゃない」
高見もまた同じように前髪をかきあげ、髪の毛をくしゃくしゃにする。
身近な人にだけに見せる、困った時の彼のくせ。
指の隙間からそれを見て、水沢は一気に高見から離れた。
勢いで告白してしまったけれど、こんな展開は想像していなかったから。
「嘘だよ」
「水沢」
「だって」
「もういい」
高見は後ずさりする水沢の腕を引いた。
まだテクニックのない唇が、それでも柔らかく重なる。
その瞬間に水沢は小さく呟いた。
「・・・・嘘つき」
拗ねるように。
(最初から両想いだったんだ・・・)
でも至極幸せそうな微笑を浮かべて。
END