あの日から数ヶ月。ロンは名もない山奥にある、かつて誰かが住んでいたであろう小屋に身を潜めていた。
否、本当はこの世に存在することさえ投げ出そうとしていた。何故なら「俺が居たら人を不幸にする」と思っていたからである。
それならば何故今でも存在し続けているのか。投げ出すことが怖くなった?本当は生きていたい?それらの答えは「NO」である。
「お兄さんっ。魚釣れましたっ」
「ロン兄ぃ〜!これ食べれるかな〜!」
幼く、元気のいい声達が小屋の扉から響いた。そこにはロンとよく似た顔が二つ並んでいる。
前者がロア。青も混ざったかのような色鮮やかな緑髪に何処か大人びているが幼さが目立つ顔つきをしている。ロンの弟である。
後者がロナ。黄緑の髪を星が付いた緑のリボンで片方結んでいて一際幼い顔つきである。ロンとロアの妹だ。
そしてロンが存在する理由はこの二人にあった。
「…ロナのそれは全部毒持ちだと思う」
「えー!頑張って見つけたのにぃー!」
「じゃあこの魚でご飯作りましょうか」
「はーいっ!」
「……なぁ、ロア。ロナ」
ご飯を作ろうと張り切っていたロアとロナにロンは声を掛ける。
「……やっぱりお前らは村に帰った方がいいと思う」
あの事件の後、ロンはそのまま一人で村を抜け出し、一人で終わりにしようとしていた。鈴には別れを告げた手紙を、ロアとロナには「鈴の家に住まわせてもらうんだ」と手紙を残して。
日が暮れて足元も見えない崖に立っていたら置いてきた筈のロアとロナが後ろから声を掛けてきた。ロアが抜け出す瞬間のロンを見ていてロナと共に後をつけてきたらしい。
そしてロアとロナを何とか生かす為にロンが面倒を見てきた。これが今、尚存在し続けている理由である。
「帰りません。お兄さんの傍に居たいですもん」
「そだよー!ロン兄大好きだもん!」
「あのな…!好きとかそれだけで生き延びるのは無理があるんだよ…」
「それならお兄さんも村に…」
「嫌だ!」
震えた声で叫ぶ。その場に静寂が訪れた。ロアとロナが心配そうな顔でロンを見ている。
「…あ…ごめん…大きな声出して…」
「いえ…」
「ね、それより早くご飯作ろっ!お腹空いたよ!」
「そう、ですね」
───現状が変わることはない。それならロアとロナの気が変わることを待つか、救ってくれそうな誰かが現れることを待つか。それまでは自分を犠牲にしてでもコイツらを守らなきゃ…
そう思いながらロンは小さな台所へと向かった。
「……見つけた」
その小屋を見下ろす影の存在に気付くことなく───