√under water

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まだ朝日がさすには早く、少し空が明るい。

ふと目を覚ますと春馬の頭があった。


寒いからと毛布をかけたのにずれ落ちて、少し丸くなって寝ているからか、枕からも落ちてる。


"たぶん、奇跡的な寝癖になるだろうな"


ふふッと小さく笑いながら毛布をかけ直した。


"今日は2人とも午後からだったな…"


仕事が落ち着いて、また年末に向かって忙しくなるほんの数日。


ない年もあるけど、今年は揃って半日だけ。

昨夜は時間差で帰ってきて、一緒に眠ることができた。


起きるにはまだ早いから、もう少しだけ春馬の隣で眠ろう。

モソモソと寝やすい位置に動くと、つられて春馬まで動き出した。


「゛ん…け…ぅ…」


起こしては悪いとピタッと動きを止めて息を潜めると何やら言いながら枕に頭をバフンと乗せ直し、左手が何かを探すように動きだした。


肩に手が触れ、寝てるのにかなりの強さで引き寄せられる。

そのまますっぽり胸に包むと、大きく息を吐いてまた深い眠りへと入っていった。


いっときより、ほんの少しだけ落ちた胸筋。

あんまりムキムキだと役作りに邪魔になる時があるからと、少し筋トレを減らしてたっけ。


着る服がなくなったとあわてて冬服ポチってたっけ。


しっかりしているように見えるけど、その分、どこか抜けていてそこも彼の魅力の一つだ。


でもそれは、俺だけの秘密だ。


さてもう少し眠ろう。


2人揃っての食事はいつぶりだろうか。


2人で食べる朝ごはんを思い浮かべながらゆっくりと目を閉じた。


強い風が髪を巻き上げる。

それもすべてスローモーションのように見えて
ため息をついた。


あれから一年

世界が止まった、あの日。

あの日から一年。


ゆっくりと動き出したけど………


俺だけ時間が止まった。

止まったまま、ちゃんと動いてる。

誰にもわからないけど、俺は、あの日、
お前の前で止まったまま。

一歩も動けない。

「………」

お前のこと思い出して、海に来てみたよ。
めちゃくちゃ誘われたけど、一回も一緒に行かなかったな……。


晴れの予報なのに、春の嵐。
薄曇りで風が強い。

立っていられなくて膝をついた。


〝なんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんで?〝


「なんでだよっ!!」


握った拳を砂に叩きつける。

どうしたら?
どうしたらよかった?

涙もでないし。
砂の冷たさがあの日を思い出させる。


泣けば。泣いてしまえば楽なのかな?
誰かの歌が頭をよぎった。


泣いてしまったら。

涙を流してしまったら、もう『いない』ってことが自分のなかで決まってしまう気がする。

いや、もう充分わかってる。


出ない携帯。
既読の付かないメッセージ。
更新されないIG。

そしてお前が眠る場所。

………でももう立ち上がれないよ………

「   」


じわじわと膝が濡れて色が変わってる。


風の音………



「たける」




すぐ近くで聴こえる……。


頭おかしくなっちゃったのかな……。
それでもいい。

会いたい。
逢いたい。

「たける」


ハッとして顔をあげると




春馬がいた。



強い風で目がうまく開けてられない。

でも、春馬がいる。

クスッと笑って


「なーにしてんの?」


と、しゃがみこんで目線を合わせてきた。


「…は?」


止めてた、止まってた息を吐き出す。


どれくらい言葉がでないかわからない。


「海…見に来た…………」


なんか、気の抜けた声で呟いた。

うまく頭が回っていかない。

なんで………


「俺も。海、見に来た」

変わらずににこにこしながら教えてくれた。

「へ?」

もう間抜けな声しか出ない。


「口開いてるよ」

あははは、なんて言いながら指摘される。

慌てて口だけ閉じるけど、言いたいこと、聞きたいことが頭の中から溢れそうだ。


「…膝濡れるよ」


ハッとして下を見れば、波が来ていた。
服もびっしょりと染みてきている。



立ち上がる気配がして、慌てて目線をあげると海の彼方を見ていた。


かまわずその手をつかんで立ち上がる。


ちょっとびっくりして俺を見たけど、力強く引き上げてくれた。


そしてまた海の彼方を見た。


伝えなきゃ。

繋いでる手を離さない。




それだけで伝わるなんて無理だから。



「ずっと一緒だよ」


焦る心の中をかっさらうように春馬が呟いた。


「ずっと一緒だよ」


彼方じゃなく、見て、まっすぐ見て。

重ねて言葉を紡ぐ。





言いたいことが、たくさんあるのに。

俺の口は何一つ言葉にできないよ………。

ただ見つめるだけしかできない。


そんな俺をじっと見つめてにこにこしてる。


「大切にする」

やっと出た言葉。


うんうん、とうなずいて手を離される。



あ、


ごうごうと風が吹き抜けて、砂と波が巻き上がって目が開けていられない。

どのくらいの時間か。
息できないくらい。



口の中もジャリジャリしてる。
顔についた砂を払って顔を上げた。

「春馬?」

「春馬?」


水滴が頬に伝っていく。




薄い雲の間から光が刺さる。

灰色だった海が色を変えていく。

ただただその変わり様を。

立ちすくんで見ていた。


頭がおかしくなってもよかった。
誰にもわからない。
わかってもらわなくていい。

この気持ち
想い
感情
記憶


わかってもらわなくていい。



海から帰ろう。
濡れた服も乾き始めた。