17日の準々決勝に向けて、祝日練習。
フリーバッティングの時、事件は起きた。
打席の入り、ピッチャーにストレートを要求。
インハイに来た球を強振した―
その刹那、右眼に激痛。
何が起きたのかわからないまま倒れこんだ。ファウルチップした自打球が直撃したとわかるまで約5秒、さらに激しさを増す痛みに耐えつつ右眼を開くと、全く見えなくなっていた。
駆け寄った仲間から、「血が出てるよ」との声。後でわかったことだが、まぶたは切れていなかった。眼球からじかに出血していたのだ。
矢部くんの車に載せてもらい、埼玉医大へ向かう。
それにしても、自打球が顔面に当たったことなど、長く野球をやっているが初めての経験だ。そういうケガをしたプレーヤーもほとんど知らない。最近では西武の中村くらいか。
車中なるだけ平静を保つようにしていたが、視力0の状態が続く眼に、不安は募った。「これは覚悟しなければいけないかもな」と考えていた。
祝日だったが、運よく眼科医の診察を受けられた。
診断は「眼球打撲」による、、
・結膜裂傷
・外傷性虹彩炎
・外傷性散瞳
・眼底出血(網膜下出血)
・網膜損傷
診察待ちしている間に、視力は少しずつ戻りつつあった。
だが黒いモヤみたいなものが視界を浮遊し、飛蚊症と呼ばれる黒点も見える。加えて視野の一部には電気がチラチラと光るような閃輝がキラめいている。
極めて不快な症状だ。
しかし幸い、物を見るのに最も大事な網膜に剥離はないとのこと。
かなり強い衝撃だったので回復には時間がかかると言われたが、最悪の事態には至らずに済んだようだ。
妻に連絡し、迎えにきてもらう。
終始そばにいてくれた矢部くんの存在が、本当に心強かった。
さて、この話には続きがある。
実はボクが矢部くんの車に揺られて埼玉医大に向かう道中、グラウンドで練習を続ける仲間から一本の連絡が入った。
「もうひとりやっちゃった!」と。
本日初参加のワタベくん(20)が、ボクと全く同じシチュエーションで全く同じケガをした、というのだ。
ワタベくんは監督の車に乗せられ、30分遅れで埼玉医大に到着した。
二人で右目をつむり、待合室のイスにならぶ。
「お互いツイてないね…。」
「…そっすね。」
会話は弾むはずもなかった。
しかし、同じ日に同じ場所で同じ個所を同じケガ。
ただならぬ縁を感じずにはいられない。
お互い復調したら、まず彼とキャッチボールをしたい。