妻に代わり、保育園の保護者懇談会に出席。
妻や職場の先輩から『けっこうパパもいるよ』と聞かされていたが、行ってみると男性は完全にボクだけであった。
若い女性の先生二人に十数名のヤングママたち。
円を描くように着席する中、明らかに異質な存在のボク。
腰かけている園児用のイスからは、体重に耐え兼ねたのかギィギィと不快な軋み音がしていた。ボクの胸中を代弁しているかのようだなと自虐的に思っていると、懇談会はおもむろに開会された。
先生からこの1年を総括するお話があったあと、
『では保護者の方から1人ずつ順番にお子さんの様子をお話しして下さい』という運びになった。
こういうのは決して苦手な方ではない。
寛大とのオモシロエピソードでも披露しつつ、ヤングママたちに『あら、寛ちゃんパパって案外面白いのね』と好感触のひとつも抱いていただこうと目論んだ。
順番にママたちが我が子の家での様子などを話していく。皆さんけっこう真剣だが、時折砕けた空気にもなったりする。
いい感じだ。
徐々に順番が近づいてきた。
次はボクの隣に座るママの番だ。
いいリズムでバトンを渡してちょーだいよっ、と思っていたら
ここでまさかの展開になった。
そのママ、泣きはじめてしまったのだ。
『二人目の子供ができて以降余裕がなくなり、どうしても上の子にはガマンをさせてしまっている。充分に甘えさせてあげられていない自分が不甲斐ない』と。
涙で声をつまらせながら、精一杯語っている。
もらい泣きしている数名のママが、鼻をすすりあげる。
・・・ま、まさかの展開だ。
トークのバトンはボクに渡される直前で急激に湿っぽくなった。
どうかカラッとした空気に戻ってくれと期待したが、結局たっぷりとした湿り気を含んだ状態まま、ボクの順番は回ってきた。
ここで
『おかげさまで寛大はオナラをした時に人のせいにするのがうまくなりました。ご指導の賜物です。』
だの、
『’アイーン’の使い方が板についてきました。ボクのいいところを盗んでくれています。』
だのとフザけられるほど、ボクの心臓は頑強でない。
思いもよらぬ展開に、完全にシドロモドロ。
思惑は全て吹っ飛び、頭の中は真っ白であった。
当たり障りのないうすっぺらい話を手短に済ませた。
しかも病み上がりのせいか後半に痰がからみ、すごく変な声になっているのが自分でもよくわかった。
次のママにそそくさとバトンパス。
今のボクにももらい泣きしてもらいたい心境であった。
終了後、寛大と手をつないで家路に着いた。
『パパ』と見上げる寛大の顔が、いつもより愛おしく思えた。
情けないパパだが、これからもよろしくな、寛大。