厳寒の夜
プレームチャンド短編集 坂田貞二 編
厳寒の夜(1930)
「今日のところはこれで我慢しとけ。明日はここに藁をもってきてやるから、そこにもぐってればいいだろう」 ジャブラーはハルクーの膝に前足を置いて顔をくっつけるようにした。熱い息がハルクーにかかった。 ハルクーは煙草を吸いおわると横になった。もうなにがあったって起きるものか!と決心したが、すぐに身体の芯まで冷えてきた。あっちにごろり、こっちにごろりと寝返りを打ったが、悪鬼のようにとりついた寒さがかれを苛み続けた。 どうしても我慢ができなくなって、ハルクーはジャブラーをそっと起こして頭を撫で、自分の懐に抱えこんで寝かした。犬の臭いはたまらなかったが、懐に抱いてやりながら何か月ぶりかで安らぎを覚えていた。ジャブラーはきっと、これは天国だと思っていたにちがいない。優しいハルクーは、犬が汚いとはこれっぽっちも思わなかった。自分の親友、兄弟以上にジャブラーが愛しかった。ハルクーは、自分の惨めさに参ってはいなかった。それどころか、優しい気持でいっぱいになり、身体のすみずみまで満ち足りたようだった。