小石はなんていいんだ | mitosyaのブログ

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個人誌「未踏」の紹介

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 夏は なににもまして短く―――人の生命は 夏よりも短い―――七〇年とて すばやく消費される―――ただの一ドルのよう―――

 子供になって、貰った小遣いをどうしたら一番よく使えるかと思案し、結局何も使わないで、貯金箱に入れたような、生命の使い方を考え続けた貴女の一生、その貴女であっても、生命が一ドルくらいのすばやい消費に―――、この人の一生というもの、私の読書に費やした時間は何セントについているのでしょう。人と議論に費やしたあの時間は一体何セントに―――。使わないで、貯金箱に貯めておく方法とは―――、そして、生命が最も必要とするものを買う方法は―――。貴女はきっと、孤独という貯金箱を持っていて、或る時、神様への愛に、全部はたいたのでしょうね。それは、子供が持っている、ルーペのような、世界を微細と、神秘で満たしてくれたもの。

 小石はなんていいんだ―――道にひとりころがって―――経歴も気にかけず―――危機も恐れない―――あの着のみ着のままの茶色の上着は―――通り過ぎていった宇宙が着せたもの―――交際もせず―――ひとりあかあかと輝く―――太陽のように独立していて―――途方もない無邪気さで―――天命を果たしている―――

 私が読んだ、貴女の詩集の中で、一番好きな詩。貴女の願い、貴女の望みが、この詩には示されている。貴女の生きてきた道、貴女そのもののような―――。生前、詩を発表することもなく、生まれたままの名もない貴女であり続け、神の隣に住むことを求め、生涯家の門を出ることもなく、自分を探し求め、詠い続けた。貴女は天命をまっとうしたのだと思う。独立した太陽のように。貴女が自分の詩のように生きてしまったからこそ、私には今貴女が蘇る。貴女が詩とともに今も生きていると思える。