1年ぶりに放置していたブログを開いた。
なぜか。
書きたい衝動が起きたからだ。
不遜だが、書くことで精神のバランスをとることもある。
今がそのとき。
ただ書くだけなら、手帳の隅に書いておけばいい。
でも、紙クズでいいので、世の中に吐き出したい。
その連絡はあまりにも突然だった。
お世話になっている先輩から着信があったので
折り返し電話すると、ボソボソと話が始まった。
「Nが亡くなったらしい」
??何を言っているのか、わからない。
現実感がないので、フワフワし始める。
多摩川でみつかって…、事件と自殺の線で警察が捜査…、
言葉だけが右から左へ流れていった。
Nは、先月29歳になった女性だ。
私の仕事にアシスタントとして、ロケやスタジオ収録にきてくれた。
お世辞にも、できるADとはいえなかったが、持ち前の明るさと
人懐っこさで、行く先々の現場で人気者だった。
撮影では、撮りたいものが、なかなか撮れなかったり
不測の事態で待ちが長くなったり、場の空気が重くなりかけることがある。
そんなとき、彼女が持つ独特なキャラクターを、私は重宝していた。
そういう意味で、素敵な女性だった。
彼女は、実はなかなか壮絶な生い立ちをしていた。
中学生のときに両親が離婚。彼女と弟、妹の3人は
児童養護施設で育った。
宮古島出身の彼女から聞く話は、私が経験してきたような
普通の家庭では考えられない過酷なものだった。
それは親の貧困と、無学と、自分勝手からくるものに聞こえた。
彼女が話してくれた、忘れられないエピソードがある。
彼女が中学1年のとき、向かいに住んでいたおじさんが
突然、彼女にキスしてきたという。
驚きと恐怖で震えながら、そのことを父親に話すと
なんと父親は笑いながら向かいの家に出向いたという。
しばらくして帰ってきた父親は「これ、くれた」と二千円を彼女に差し出した。
どんなやりとりがあったかは彼女は知らないが、
キスをしてきたおじさんは、悪かったと二千円を払ったらしい。
私が父親だったら、向かいのおっさんは半殺しだ。
自分の娘、しかも中1のまだ幼い娘の唇を奪うとは
許せるものではない。
でも彼女の父親は、そうではなかったらしい。
「ああ、私は二千円なんだ」と思ったという。
彼女は那覇で、ある男性と出会い、結婚して東京に来た。
しかし長くは続かず、バツイチとなる。
その後、いろんな男性に出会い、経験をし
逡巡を乗り越え、私の先輩の会社に昨年やってきた。
あまり愛された育ちをしていない彼女ではあったが、
その反動か、弟、妹への愛情は深かった。
昨年から3人で暮らし始めて、幸せそうだった。
しかし7月に会社を去ることになった。
理由は…、彼女の名誉のためにここには書かない。
過去のLINEを読み返すと、仕事は好きですが、とあった。
今思うと悔しくてならない。
その後、彼女はコンパニオンの派遣をしていた。
コンパニオンというと、彼女はすかさず訂正してきた。
「違います。レセプションです」
パーティーなどで、受付や給仕の仕事をする人らしいが
その明確な違いが、私には判らなかった。
昨年12月に、たまたまタイミングがあって話をしたが
そのときすでに、少し悩んでいた。
弟が働かない。妹はゲームセンターでアルバイト。
家計が苦しい、と。
私は昼間の仕事を勧めた。
レセプションは今はいいけど、そのうち若い人に
とって変わられる。長くなればなるほど不利になる今の仕事より
スキルを重ねて長くできる仕事をした方がいい、そんなことを言ったと思う。
それからしばらく音信不通になった。
LINEしても既読がつかない。ブロック。
それはもう交流を絶つという彼女からの意思に感じた。
そのため、こちらから連絡することはなかった。
そして突然の訃報。
この1月から2月、何があったのか、
どんなことを考えていたのか、
まったく分からない。
今日、告別式で初めて弟と妹に会った。
先週、彼女は仕事前に精神的に落ち込んでいたようで
「散歩してくる」と出ていったきり帰ってこなかったという。
その日の深夜に捜索願を出し、翌日多摩川のガス橋近くで
みつかった。遺書もなく、動機ははっきりしないという。
働かないと聞いていた弟は、意外に受け答えが
しっかりしていた。
「姉ちゃんはどんな人でしたか?」と聞かれた。
おっちょこちょいで、忘れ物も多かったが
みんなに好かれる人で、僕はとても助かっていたと話すと
「ありがとうございます。喜んでいると思います」と彼は言った。
告別式はとても質素で、もっと関係者がいるかと思ったが
弟妹と、前の両親と、数人の親戚らしい人だけだった。
彼女の性格からしたら、もっと集まりそうな気がしたが
あまりにも寂しいお別れの式に思えた。
出棺直前、親族が花を手向け、そのあと
参列者も棺の中に花を手向けに移動した。
長いきれいな黒髪はそのままで、妙に厚い化粧を施された
彼女が眠っていた。
顔がふっくらしてみえたのは
この数か月で太ったのか、それとも多摩川の水を吸ったからなのか。
一緒にロケに行ったことや、みんなでバカ騒ぎしていたこと
いろんなことが思い出されて、涙がとまらなくなった。
あまりにも短い、あっけない生涯に感じた。
新たな仕事や、新たな出会い、
ひょっとしたらまた結婚して、子どもを持ったかもしれない。
彼女は幸せだったのだろうか。
その答えは、永遠に分からない。
ただ一つ、分かっていることは
彼女に出会えて、本当に楽しい時間をもらったこと。
決してズルをせず、いつも誰にでもフラットに明るく接することの
尊さを教えてくれたこと。
ただただ、感謝の気持ちしかない。
そして、彼女が本当に苦しかったとき、
話を聞いてあげられなかったことが悔やまれる。
安らかに眠ってください。
僕は、ずっと君を覚えています。