コロナ自粛、
スウェーデンで「高齢者による行列」がない理由
2020/4/2 　　　　　　　　　　　現代ビジネス

エレベーターに貼られた電話番号のメモ

　1週間ほど前のある日、マンションに戻ると
エレベーターの前に見慣れないメモが貼ってあった。

なんだろうと見てみるとそこには、
「ご近所の皆さんへ！　
今はお互いの助け合いがとても重要な時です。
買い物など、もし何か助けが必要な方がいれば、
下記に電話して下さい！」
と、名前と電話番号を添えたメッセージが書かれていた。

それ以降、エレベーターに乗るたび、

「素晴らしい試み！　私もお手伝いできます」

とまた別の人のからのメッセージと名前、電話番号が

追加されていたり、そこにさらに「ありがとう！」

というメッセージも添えられたりと、日々更新が続いている。

　なんとも心温まる取り組みであるが、

実はこの動き、私のアパートでだけ起きていることではない。

スウェーデン中のアパートで起きていて、

ニュースにもなっている。

　またこうした支援の輪は、

フェイスブックグループやアプリなどオンライン上を

通してもスウェーデン全土で急速な拡大を続けており、

それをより効率的なものにするため、

現在、政府や各自治体も柔軟な対応をはじめている。

オンライン処方で病院に行かなくてもOK

　先述の通り、政府は高齢者に対し、

　自宅待機を呼びかけている。

　また、少しでも体調が悪い人も外に出てはいけない。

　そのような状況を受けて現在、

　スウェーデン全土に広がっているのが、

　上記のような、買い物などの用事をボランティアが

　引き受ける動きだ。

　必要なもののリストを渡し、

　元気な人が買いに行く。

　買い物袋をドアの前において、ベルを鳴らし

　到着を伝えたらそれでおしまい。

　支払いは、スウェーデンなら誰もが使っている

　といっても過言ではない電話番号さえわかれば

　支払い可能なスマホ決済で済む

　(移住して半年、一度も現金を使ったこともなければ

　持って歩いたこともないほど、

　スウェーデンはキャッシュレス社会である)。

　お互いが顔をあわせるリスクもないまま、

　必要な人に必要なものが届く形だ。

　また、食品だけでなく、薬に関しても、

　リスクグループにあたる人たちや、

　体調が悪く外に出ることを禁じられている人たちが、

　代理人に処方箋の発行と薬の受け取りを頼めるような

　仕組みも整えられている。

　スウェーデンには、「E-Halsomyndigheten」という

　デジタルヘルスケアを先導する

　社会省に属する行政機関があり、

　99％の処方箋が電子処方箋というほど

　医療面でも電子化が進んでいるのだ。

　今回の代理人申請も、

　E-Halsomyndighetenが提供するオンラインでの

　申請を行うだけでいい。

　なりすましの防止といった安全性の担保は、

　スウェーデンでいかなる場面でも重用されている

　パーソナルナンバー

　(日本でいうマイナンバー制度)の駆使と、

　厳格な本人確認によって保証されている。

行政も地域団体と協力してマッチングも

　とはいえ、助けが必要な人と、

　助けを提供できる人のマッチングは、

　そう簡単なことではない。

　そこで現在、スウェーデンの多くの自治体では、

　ボランティアのマッチングを自治体で引き受けたり、

　スウェーデンでプレゼンスの大きい各自治体の

　赤十字と連携したりして、

　スムーズなボランティア活動を実現している。

　赤十字のサイトでは、自分の住む地区や

　自動車の免許レベル、話せる言語、費やせる時間などを

　入力すれば、簡単にボランティアとして登録が可能だ。

　同じページから、助けを求めることもできる。

　これらのやり方は、

　自分の住む自治体のホームページを見ればたどり着け、

　ニュースでもこういった取り組みを紹介することで

　認知度の向上が図られている。

　また、助けを必要とする人とボランティアが集まる

　フェイスブックグループも地域毎のものから

　全国規模のものまでいくつも出来上がっており、

　ある全国規模のフェイスブックグループは、

　開始後たった20日の3月31日現在で

　1.7万人もの人々が参加している。

　私も参加しているが、

　「この地区に住んでいる方にお願いがあります」、

　「車があるのでこのエリアになら行けます」

　といった書き込みが随時更新されている状態だ。

　他にも、3月12日に立ち上がり、

　現在1.4万人が参加する

　全国規模のフェイスブックグループでは、

　元々災害時に助けを必要とする人が

　すぐに可視化され必要な援助を受けられるようにと

　スウェーデンで開発された

　アプリ製作元との連携がなされ、

　マッチングをより効率的に行おうという試みがなされている。

　このように、ひとりひとりの思いが、

　様々な形で実行に移せるよう、

　制度や仕組みが整いつつあるのがスウェーデンの今だ。

　スーパーはハイリスクの方専用に早朝オープン

　とはいえ、そういったサポートに辿り着けなかったり、

　ボランティアに頼むまでの必要はないと

　感じたりする人もいるかもしれない。

　しかしながら、

　保菌者が周りにいるかもしれないと思えば、

　やはりハイリスクグループの人たちは、

　外出は不安にもなるだろう。

　そんな人々が安心して買い物をできるために、

　一週間ほど前から、一部スーパーマーケットでは

　通常より早く営業をはじめ、

　その時間は、高齢者をはじめとした

　ハイリスクの方専用の時間となっている。

　私が愛用している、

　普段は7時開店の大手スーパー入り口には

　「3月23日より、ハイリスクにあたる方々のため、

　店舗を朝6:30より開店しています。

　この試みが成功するよう、皆様のご理解ご協力を願います」

　という張り紙が何枚も貼ってある。

　実際、70代のスウェーデンの方にお話を伺ったが、

　彼らも買い物はこの早朝の時間のみにすることで、

　比較的安心して買い物ができ、

　生活が送れているということだ。

　ちょっとした工夫と思いやりが、

　どれだけの変化を生み出せるのか、

　目の当たりにした気がしている。

外国人として過ごすからこそ強く感じた助け合いの力

　スウェーデンは、一人暮らし世帯がとても多い。

　全人口のうち17.8％、全世帯で言えば39.2％の世帯が

　一人暮らしだ。

　その殆どが、19歳から30歳の若者と、

　65歳以上の高齢者で占められている。

　「一人暮らし」「孤立」が高齢者にとって

　大きな困難になるのは間違いないが、

　この状況では脆弱な立場に陥るのは

　必ずしも高齢者だけではない。

　体調不良で外出自粛となれば、

　一人暮らしの場合、年齢に関係なく、

　買い物といった基本的なことが

　大きな困難として立ちはだかる。

　また、今の私のように

　外国人としてその国で暮らしていれば、

　言語の問題やソーシャルネットワークの脆弱さで、

　情報収集などの困難は一層高まる。

　実際スウェーデンでも

　コロナウイルスの感染は移民の中でより深刻であり、

　情報格差がひとつの大きな原因と言われている。

　日本も昨今では約300万人もの人が在留外国人として

　日本で暮らしており、決して他人事の話ではない。

　今後状況がどうなっていくか、

　それは誰にもわからないが、

　いずれにせよ、今回私の住むアパートに貼られたメモや、

　フェイスブック上の試みが、

　外国人としてスウェーデンに生きる私のことを

　いかに励ましてくれたかを考えると、

　助け合いの力は本当に計り知れないし、

　世界のどの場所においても、

　こういった試みがあるに越したことはない。

　日本も世界に先行く高齢化社会、

　一人暮らしの高齢者は今や約600万人とも言われている。

　そして、感染拡大を防ぐには、

　感染リスクや重症化リスクの高い方、

　少しでも体調の優れない方が、

　外出せずに家で安心して過ごせることが重要であり、

　それには周りの協力が不可欠だ。

　こういう時こそ、

　誰かの力になる余力のある方は、

　家族はもちろん、ご近所さんや

　ずっと連絡を取っていなかった方にも、

　「何か必要なことがあれば」と一言伝えてみるのは

　いかがだろうか。

　　　街のあちこちに多国籍言語で　感染予防に

　　　ついて書いてあるそうです。

福田和子（＃なんでないのプロジェクト代表）

　　　　大変素晴らしいスウェーデンの社会ですね。

　　　　ここに書いてあるように、キャッシュレスと

　　　　言っても、基本は口座に”金”があることです。

　　　　これを書いている方はそこの部分の大切さを

　　　　見落としているか、避けているようですね。

　　　　誰もが”金”の不自由がない世界であれば

　　　　このようなことも容易なのでしょうが、基本の

　　　　金がない”貧困者””貧困家庭”があるのです。

　　　　何もかも政治のせいにしたくはありませんが、

　　　　高齢者の貧困は”死”に直結する問題です。

　　　　スウェーデンのように高齢者がお金の問題で

　　　　窮することのないような、普段からの政治が

　　　　望まれます。