池袋の喧騒を抜け、少し脇道に入ったところにある年季の入ったラブホテル。
サキとレイに前後を挟まれるように歩くタクヤは、待ち合わせの時からほとんど口を利けずにいた。メッセージで見せていたあの威勢の良さはどこへやら、エレベーターの狭い空間では、階数表示の点滅をただじっと見つめることしかできない。
部屋に入ると、そこには不自然なほど大きな壁鏡と、シングルを二つ繋げたような無機質な広いベッドが鎮座していた。
「……あ、ここ、広いね」
ようやく絞り出した声は、情けないほど上ずっていた。サキがバッグをデスクに放り投げ、タクヤを冷たいタイル床に座らせる。
「さて、始める前に少しお話しようか。カウンセリングってやつ」
サキが足を組んでタバコを咥えると、レイが威圧するようにタクヤの隣に立った。ビクリと肩を揺らすタクヤだったが、話を振られると、自分を鼓舞するように少しだけ胸を張った。
「……ああ、そうだね。まあ、俺、界隈じゃ結構有名っていうか。月5人は余裕で抱いてるし、基本、女を泣かせてリードするのが一番気持ちいいんだよね。攻めるのは自信あるよ、マジで」
自分の得意分野の話になると、先ほどまでの沈黙が嘘のように、偉そうで下品な言葉が溢れ出す。
「そう。じゃあさ、今日は『逆の立場』になってもらうけど、覚悟はできてるんだよね?」
レイの低い声が耳元で響き、タクヤの表情が一瞬で凍り付いた。
「逆の立場……? それって、何……?」
「いつも女の子にしてることを、私たちがたっぷり体験させてあげようかなって思って」
二人はニヤリと笑い、タクヤの肉体を舐めまわすように観察する。サキから「エロティックに、一枚ずつ脱いで」と冷たい命令が飛ぶ。震える手で服を脱ぎ捨てていくタクヤだったが、最後の一枚になったとき、レイが吹き出した。
「あら、見て。口では怖がってるのに、正直だこと」
タクヤの履いたカルバンクラインのボクサーパンツは、無残にも大きく膨らんでいた。この異常な状況に、彼の下半身は見事に反応してしまっている。タクヤは顔を真っ赤にして下を向き、もじもじと股間を隠そうとするが、サキはその反応を逃さず鼻で笑った。
「いつも女の子をお持ち帰りして全裸でやってるくせに、じろじろ見られて恥ずかしがるとか、理解できないわ。……いいよ、その望み、叶えてあげる」
「手が邪魔だなぁ。縛ろうか。ね? いいでしょ」
腕を後ろに回され、鏡の前へ立たされる。抗う間もなく、レイの手によってタクヤの両手首が背中で交差され、無骨な麻縄でギチギチに締め上げられていった。縄が胸元にも食い込み、呼吸がわずかに窮屈になる。
「あ、ちょ……これ、マジ……?」
「マジだよ。ほら、君がリクエストした『後手縛り』。しっかり拘束してあるから、もう逃げられないよ」
タクヤはベッドの上に四つん這いにさせられた。鏡には、赤い縄に食い込まれた全裸の体で、お尻を高く突き出した自分の無様な姿が丸映りになっていた。
「さあ、ヤリチンくん。君、鏡見るの好きでしょ? ナルシストっぽそうだし。だから今日は、その大好きな鏡の前で、自分がどんなに無様なメスみたいな顔になるか、じっくり観察させてあげる」
サキがカバンから太いマジックを取り出し、キャップを口で抜いた。
「まずは、その綺麗な体に『正体』を書いてあげる……ねえ、鏡の中の自分を見てみなよ。もうフル勃起じゃない?」
「……っ////」
タクヤは絶句した。羞恥心で死にそうなはずなのに、鏡に映る「凌辱される自分」の姿に、脳が痺れるような恍惚を感じ始めていた。
サキが手にした黒のマジックが、タクヤの脂汗が浮いた背中に容赦なく押し当てられた。静まり返った室内に、キュッ、キュッというマジック特有の無機質な音が、嫌なほど鮮明に響き渡る。
「ほら、動かないで。せっかくの『ヤリチン』ブランドが台無しだよ?」
サキが嘲笑いながら書き殴ったのは、背中を埋め尽くすほどの大きな文字。
『女性様専用・肉ディルド』『射精させたら1万円』。
さらにペン先は止まることなく、お腹や太ももへと卑猥な単語をこれでもかと列挙していく。鏡に映るタクヤの体は、見るも無惨な「汚物」のように塗り潰されていった。
「……っ、やめて、恥ずかしい……っ」
「恥ずかしい? 嘘つきさんだね。鏡の中の自分、さっきから陶酔しきった目で見てるじゃない。……ほら、熱も上がって、呼吸もめちゃくちゃ激しくなってる。全部丸わかりだよ?」
タクヤはもう、言葉を返すことすらできなかった。マジックで汚され、惨めに「記号化」されていく自分の姿。それを見つめるうちに、かつてないほどの倒錯した興奮が、脳の芯を痺れさせていた。
レイが、四つん這いで固まっているタクヤの髪を後ろから強引に掴み上げた。無理やり正面の鏡を直視させ、逃げ場を奪う。
「ねえ、さっきなんて言ったっけ? 『女を泣かせるのが趣味』だっけ。笑わせないでよ。本気で女の子たちのこと見下してたんだね……。でも今、泣きそうな情けない顔してるのはどっちかな?」
レイの低く冷徹な声が、タクヤの耳元でナイフのように突き刺さる。そこへ、サキが追い打ちをかけるように言葉を畳みかけた。
「月5人も抱いてるんだっけ。その子たちに、今のあんたの姿を中継してあげたいくらい。……『リードするのが得意』なんて自称してた君が、鏡の前で一人だけ全裸で、後ろ手に縛られて、全身落書きだらけでお尻を突き出して……。こんなザマで、顔を真っ赤にして興奮してるなんてね」
「あ、あぅ……っ///」
「ほら、もっと鏡をよく見て。あんたがバカにしてきた女の子たち以下だよ、今のあんたは。ただの『恥ずかしい穴』で、私たちの『玩具』。それ以外の価値なんて、この部屋にはないんだから」
タクヤの頭から、あわよくば二人を抱いてやろうという「3Pの企み」など、跡形もなく消し飛んだ。自分がただの無力な「玩具」でしかないことを認めざるを得ない、甘美な絶望感が全身を襲っていた。
「じゃあ、仕上げ。たっぷり分からせてあげる」
サキがカバンから取り出した医療用手袋をピチッとはめると、その掌にローションをゆっくりと垂らす。サキは指先にたっぷり透明な液体を、厭らしい水音を立てながら絡めると、逃げ場のないタクヤに対し、あえて時間をかけて、ゆっくりとアナルをほぐし始めた。
「いきなり冷たいローションを入れるとお腹冷えちゃうから、ほら、温かい。ちゃんと私の手で温めたよ。優しいでしょ?」
「ひ、あ……っ!?」
「あはは! 見てよ、鏡の中の顔。まだ指一本なのに、もう白目剥いちゃって。ヤリチンくんの『ケツアナ』、こんなに簡単に受け入れちゃうんだ?」
「初めてって言ってたのにすごいね、すぐきつくなる! ケツ処女のくせに」
抵抗できないようレイに腰をがっしりと固定され、タクヤは鏡越しに、自分の最奥へと指が沈み込んでいく光景を強制的に見せつけられる。じわじわと広げられる異物感。未経験の感覚が、脊髄を伝って脳を真っ白に染めていく。
「やだ、すごい……ここ、自分から指を吸い込んでる。女の子をリードするのが得意だったんでしょ? ほら、もっと力を抜いて。私たちの『玩具』らしく、可愛く鳴いてみなよ」
サキの指が中で円を描くように動くたび、羞恥と恐怖を凌駕するほどの、強烈な恍惚がタクヤを襲う。鏡に映る自分は、涎を垂らし、落書きまみれで、女のように腰を振って指を求めていた。
「ぼ、く……っ、あ、あぁぁ! 気持ち、いい……っ! 気持ちよく、されてる……っ!!」
ついに自ら快楽を認め、鏡の中の「堕ちた自分」と視線を合わせた瞬間、タクヤは抗いようのない絶頂の淵へと引きずり込まれていった。