不思議に思うんだ。僕自身は一歩も進めちゃいないのに、たしかに損なわれていくのが分かる。
僕のズボンのポケットには実は穴が空いていて、拾ったものや大事なもの、昔から備わっていたもの、勝ち取ったもの、守り抜いてきたもの、そういう類を気づかないうちに落としてしまっているのかも知れない。自分では大事にしているつもりでも。だとしたら僕はどんなに間抜けなんだろう。
人は歳をとる度に始まりから離れ、終わりに近づく。だけど僕は一歩も進んだ気がしない。何故だ?僕以外の生を授かるもの達は一体何を考え、何のために生き、生活している?…誰が為に鐘は鳴る。そんなことを考えていると、僕は町行く人々が得体の知れない怪奇生物とか、魂を求めて彷徨う脱殻のように思えて恐ろしくなる。そして、確かにそこには一定の溝が生まれるのだ。
列車は僕を乗せ、僕の身体は止まったままでレールの上を走る。始発点はもう、正直覚えていない。列車は僕を乗せ、僕の身体は止まったままでレールの 上を走る。終着点が分からないまま僕は揺られ、車輪がレールの上を走る音に耳を傾け、ただあの人のことを想う。あなたに逢えれば。触れることさえできれば。僕は、この終わりの無い彷徨のような列車から降りて、あなたを抱きしめたいんだ。
これは鎮魂歌だ。昨日までの僕に捧げる鎮魂歌。
破壊の後には再生がある。
恋とは、別離そのものだ。
