ファンブログ❤
壱や【源氏物語】
宇治十帖
第五十一帖
浮舟
五十一帖 浮舟あらすじ
匂宮は、前年の秋、誰ともわからなかったが、一目で心を奪われた女を忘れることが出来なかった。
不粋な乳母に邪魔をされて、ことが未遂に終わっただけに、未練が残っていて、もっとあの女について知りたいと思いつづけていた。
浮舟は薫に宇治へ伴われ、囲われ者になったものの、薫は公務で忙しいのと、宇治への道のりは遠いのでなかなか訪れることが出来ない。
淋しい馴れない土地での打ち捨てられたような暮しは、若い浮舟にとってはわびしいものであった。
正月、匂宮が中の君の部屋で若君をあやしている時、宇治から中の君へ手紙が届いたのを、小さな女童が受け取って走って持って来る。
手紙はかわいい卯槌(正月に贈る縁起物)に添えられていた。
匂宮がその手紙を読み、あの女からだと気がつく。
薫が大君の死後もまだ宇治に通ってるらしいが、もしかしたら寺造りという名目でごまかし、実は女を隠しているのではないかと想像する。
腹心の大内記だいないきにさぐらせると、やはり薫が去年の秋頃から女を宇治に囲っているという。
匂宮はあの女かどうか確かめたくなり、薫の行かない日を確認して、大内記に案内させ早速宇治に行く。
宇治の山荘は、かつて中の君に通った経験のある匂宮には、勝手がわかっている。
格子の隙間から洩れる灯を頼りに覗くと、やはりあの女が腕を枕に女房たちと話していた。
その目もとや額ぎわが中の君に似ていると匂宮は思う。
女たちの寝静まるのを待って匂宮は戸を叩く。
女房の右近が「とにかく開けてくれ」という男の声を、薫だと思い込んで開けてしまう。
匂宮は薫の声音をまねていたのだった。
「途中で追いはぎに遭って、変な恰好になっているから誰にも見せるな」という匂宮の言葉も、右近は頭から信じてしまう。
難なく浮舟の寝所に入った匂宮は薫に成りすまし、浮舟を手に入れてしまった。
浮舟はことの途中で、人が違うと気がついたが、声も出せない。
匂宮が上手に声も出せないように扱っていたからだ。
その後、綿々と、逢えなかった嘆きや、あれ以来想いつづけていたことの切なさなどを訴える男の声に、浮舟は匂宮だと気づき、薫にも申しわけないし、中の君に対しても、言いわけが出来ないと思い悩む。
匂宮は翌日も居つづけて帰らない。
薫の君ではなかったと知った右近も驚愕するが、すべては後の祭りである。
匂宮は、薫に比べてずっと女の扱いに馴れているし、性戯がやさしく、しかも情熱的なので、浮舟は、匂宮の魅力のとりこになっていく。
その日、浮舟は母と、石山寺に参詣する予定だった。
右近は匂宮に指示されて、母には、折り悪しく浮舟が生理になったと嘘を告げ、物忌みと書いた紙をべたべた張って、浮舟の情事をかばい、秘密に加担してしまう。
二月になって、ようやく宇治を訪れた薫に、浮舟は目も合わせられない。
何も知らない薫は、沈んでいる浮舟を、自分の訪れが少ないのを恨んでいるのだと思い、一方では、しばらく来ない間に、妙に女らしく成長したと思う。
二月の十日ごろ、宮中で詩宴があり、会の後、雪の宿直所で、薫が「さむしろに衣かたしき今宵もや」と、いい気持らしくつぶやくのを見て、匂宮は嫉妬にかられ、翌日、再び宇治へ行く。
雪の中を難渋してたどりついた、匂宮の情熱的な訪れに浮舟は感動する。
匂宮は、ふたりだけでゆっくり逢瀬を愉しみたいと思い、有無を言わせぬ強引さで浮舟を抱いて小舟に乗せ、向う岸へ連れ出す。
月の照り輝く宇治川を、しっかりと匂宮の腕に抱きしめられたまま、小舟に揺られて行く浮舟は、すでに薫よりも匂宮に傾ききっていた。
舟が橘の小島の側を通り過ぎる時、
橘の小島の色はかはらじを
この浮舟ぞゆくへ知られぬ
と詠む。
壱やブログより画像お借りしました
これが、この帖の題名にもなり、また以後読者がこの女を浮舟という名でイメージし、呼ぶようになったのである。
向う岸に着いても、匂宮は浮舟を自分で抱き上げたまま岸に上げる。
対岸の家来の家で、二日間、ふたりは愛に耽溺たんできしきった時間を共有する。
夜も昼もなくとめどない愛戯の痴態に、女はもう、男の言うままに、どんな要求にも応じている。
浮舟にとっては、はじめて知った官能の悦楽であった。
しかしその喜びには暗い罪の影が伴っていたが、浮舟はこの二日間は、薫への罪の意識も忘れはてていた。
それを思い出す暇もないほど匂宮の愛情の嵐に、まきこまれていたのである。
しかしその最中にも、匂宮は心の中で
「この女は女一の宮(匂宮の姉)の女房にしたら、見映えがしていいだろう」などと考えている。
つまり匂宮にとっては、浮舟という女はその程度の立場しか与えられないのである。
薫もまた、はじめから、浮舟を自分の妻の一人にしようなどとは考えてもいない。
八の宮の胤たねでありながら、だれからも、そういう見下げられた存在でしかない浮舟の、あわれさの本質を浮舟自身は気づいていない。
やがて匂宮の使いと薫の使いが宇治で鉢合わせをして、情事の秘密は薫にばれてしまう。
薫は浮舟にも匂宮にも怒りを覚え、浮舟に、お前の不貞はわかったぞという意味の、怒りの歌と手紙を送るが、浮舟は、
「宛先が間違っているのかもしれませんから」
と、その手紙を返してしまう。
浮舟は身も心もすでに匂宮に奪われてしまった自分を、薫に対して怪しからぬ女と思い自戒している。
二人の男に思いもかけない状態で通じてしまった自分を、けがわらしいとも醜いとも思っているのだった。
浮舟はこの期に及んで、心の底から我が身を責め、不倫をしてしまった自分をけがわらしく、恥ずかしいものと思う。
薫は自分の荘園の男たちに厳重に山荘を警護させ、ほかの男を一歩も近づけないように見張らせる。
右近と侍従の二人の女房だけが、この三角関係の秘密を知っていて、何とかこの危機をきりぬけなければと思うが、手だてもない。
手紙も無事に届けられなくなって気が気でない匂宮は、馬に乗って宇治を訪ねるが、警備が厳しく、犬などがほえたてるので、山荘の側にも近寄れない。
供の時方が侍従を連れ出し、自分の沓くつをはかせて、せき立てて行く。
匂宮は側の民家の庭のすみで、鞍の敷物を地面に置き、その上に坐って侍従から事情を聞く。
せめて一声でも浮舟の声を聞きたいという匂宮に、侍従は、とても今夜は危険だからこのまま引きとってくれと懇願する。
宮は泣く泣く、一目すら逢えず、すごすご京に引き返していくのだった。
匂宮も薫も浮舟を京へ呼び、ひそかに囲って、いつでも逢えるようにしたいとその支度を急いでいた。
浮舟は、薫にことがばれて以来、身の置きどころもなく辛くて、心を千々に砕くうちに、次第に、自分が死ぬのがいいのだという考えに傾いてゆく。
薫は誠意があるし、恩を感じている。
しかし匂宮が切なく恋しい。
ことを知ったら、母はどんなに悲しむだろうか。
また中の君には何と言いわけが出来よう。
やはり、こんな自分は宇治川に身を投げるしかないと、次第に浮舟の心は追いつめられてゆく。
源氏物語 巻十
瀬戸内寂聴 訳 引用
浮舟の境遇は次のようにまとめることができよう。
浮舟は八の宮と中将の君と常陸介という三人の親たちの葛藤のはざまで翻弄された。
彼らは互いの葛藤や利害やエゴを浮舟にしわ寄せしたのである。
それは比喩的にいえば彼らの罪や穢れを浮舟に転嫁したのであり、ここでも浮舟は「人形」とされたといってよい。
さらに八の宮の娘として認知されなかった浮舟は常陸介の継娘として受領の娘であるほかはないのだが、彼女はそこに安定することも許されなかった。
常陸介の世界は左近少将の功利主義に代表されるように、生まれの高貴さすなわち貴種性には何の価値も置かず、浮舟はそこでは余計者、半端者であった。
八の宮の子であっても宮家の娘ではなく、受領の娘であっても常陸介の子ではないというところに、浮舟の不安定さがあった。
浮舟は安心して帰属できる「家」を奪われていたのである。
貴族社会のヒエラルキーのなかで現実には受領の娘でしかないにもかかわらず、そこに居場所を得られず締め出されるのである。
ここにも流儀する「人形」の性格を認めることができる。
「人形」の生涯
浮舟は二人の男の相互不信と報復的対抗心の狭間で翻弄されたに過ぎなかったのではないか。
浮舟の物語は一人の女を二人の男が争う妻争い説話の型に拠りながらも、薫と匂宮は決して浮舟に優劣つけがたい純愛をさし向けたのではなかった。
「人形」には純愛の狭間で死ぬというような甘美な死は許されない。
浮舟は薫と匂宮の不信や嫉妬を撫でつけられて斃たおれたのである。
入水は浮舟の「人形」性を完成する道でもあった。
女房は浮舟の疾走について大海原に消えたのだろうと言ったが、それが「人形」の行き着く先であった。
物語の構想としては浮舟は薫・中の君・匂宮という三角関係の中の君の位置に代入されて、元来中の君におわされていた悲劇を引き受けたのだといえるが、それだけでなく浮舟は彼らの葛藤や確執を一身に背負わされた「人形」として生かされ、死を選んだのである。
源氏物語の世界
日向一雅著 引用
一部蜻蛉の内容もあり。
壱やブログ
浮舟はこちら
☟☟☟
みそらブログ
東屋はこちら
☟☟☟
壱や源氏物語を全て
リブログリンク🔗しています。
遡ってみませんか(*˘︶˘*).。.:*♡
たいへん長いブログに
なりました。
ここまでお付き合いを
ありがとうございました。
2020年9月3日投稿