「名誉毀損」は刑法230条に規定される犯罪類型であり、同時に民法710条の不法行為においても損害賠償責任を問われうる行為である。名誉毀損に関連する論点はいくつかあるが、ここでは「真実性」の問題を検討したい。

 

刑法判例においては、名誉毀損の構成要件該当性が否定される要件について、230条の2「真実であることが証明された場合」を「真実と信じたことについて相当の合理性がある場合」にまで拡張する解釈をしているが、民法でこのような解釈をそのまま適用することには疑問が付されている。ざっくり言えば、国家による刑事罰を課すことを考えたら、「まあ真実だと思ってしまった事情もわかるけどね」という場合にまで有罪としてしまうのは妥当でないが、それでも被害者には損害が生じているんだから、そっちの事情に関係なく民事上の損害賠償くらいはしろ、ということである。

 

この説明には納得がいく。「他人の名誉を毀損するな」という規範に直面したにも関わらず規範に反したものを処罰する刑法と異なり、「そっちの言い分もあるんだろうけど名誉毀損されたのは事実なんだから賠償しなさいよ」というのが民法の考え方だ。

 

判例も民法上の不法行為から免責する用件については狭く解釈している。代表的な判例として、共同通信社による配信記事を引用して記事を掲載した新聞社が名誉毀損の責任を問われた裁判で、最高裁は原審の判断を覆し、「当該新聞社に同事実を真実と信ずるについて相当の理由があるとは認められない」と示した。(平成14年1月29日小法廷判決)

 

このような判断の理由付けとして、以下の事項が挙げられる。

・問題が私人の犯罪に関する事案であり、報道の加熱から取材に慎重さを欠くことが考えられる

・共同通信社も一つの民間機関であって、格別の高い取材能力を有するわけではない

⇒だから、「共同通信社が出している記事だから真実だと思いました」という反論(「配信サービスの抗弁」)は認められない。