みさの小劇場ウオッチ日記

公演期間 2013/03/23(土) ~ 2013/03/31(日)

脚本 古川健
演出 日澤雄介
料金 500円 ~ 3,300円
サイト http://www.geki-choco.com/


昨年10月にギャラリー・ルデコで上演された『熱狂』『あの記憶の記録』の再演。そして3月31日(日)15:00から若手演出家コンクール上演作品『親愛なる我が総統』も再演。こちらは500円という破格。この3本は密接に繋がっており、3本で一つの作品といっても過言ではない。

で、ワタクシは『あの記憶の記録』だけを観てなかったので、これを観劇。


相変わらず観劇資料集が配布されている。劇団チョコレートケーキの舞台を観る時は30分前に入らないと予習が出来ない態だ。

イスラエルのゴールドバーク家での会話劇。今回の作品はイツハクがアウシュビッツ収容所での記憶を語ることに半分以上が費やされたもので、タイトルどおり、男の記憶を記録として作り上げたもの。


子供たちの成長を見守りながら、平凡に穏やかに暮らす一つの家族。しかし、父には秘密があった。戦争を生き抜いた男に刻み込まれている、あの記憶1970年、アウシュビッツ収容所でドイツ人の手先となって働いていた特殊任務の数々と地獄のような体験をした父親が家族にも明かさなかった秘密を、家族と、子供たちの女教師・ペレス先生とに、ユダヤ人迫害の体験を語る物語だ。

父親・イツハク役の岡本篤の苦悩に満ちた表情があまりにもお見事!毎回のごとく、劇団チョコレートケーキの役者陣の演技力には目を見張る。脚本と演出力の秀逸に加味して、この役者陣たち。鬼に金棒である。


教師の人命に懸けてもイスラエル国を守るという理想に対して、イツハクの体験談が説得力を増す。国を守るために人が犠牲になるという矛盾。一方で長男ヤコブの「命に賭けても国の為に戦う」と誓う若い正義感や徴兵制の意義。教師側から見るヤコブ、肉親から見るヤコブの命の尊さ、正義とは何か、戦争とは・・、など多くの問題が語られる。


そして父・イツハクの想像を絶するほどの酷い体験は「国家よりお前の命の方が尊い」とヤコブの青い正義感を制するも、これを聞き入れないヤコブ。ここでいかに教師という立場や教えが柔軟な頭の子供たちを洗脳してしまうかを思い知らされ恐怖にも似た感覚になる。かつて日本もそうであったのだ。


一方で25年間、SS(ナチス親衛隊)ビルクナーの亡霊がイツハクにつきまとう。収容所の囚人をかばってきたビルクナーをイツハクは終戦の混乱に乗じて殺してしまう。そしてこの罪の意識からか、ビルクナーを残虐で冷淡なSSだという記憶の書き換えをしていて、彼を憎悪の対象として増幅した側面も描かれる。


「憎しみは何ものをも生まない」というセリフでヤコブや教師にイツハクが詰め寄る場面は見応えがあった。演出としては四方の通路から役者が出入りすることによって、居間という設定の空間を上手く見せていて良かった。


終盤でみせるイツハクやアロンにとっていかに「家族」は大切な存在であるか、あるいは自分のような人間でも命さえあれば「家族」を持って幸せに暮らすことが出来る、といったラストのメッセージが凄く素敵だった。更に妻・デボラに「助けて欲しい」と言うイツハク。これに答えるデボラの微笑みが美しく女神のように思えた。家族っていいなぁ。あんな妻が欲しい・・。笑


この舞台を観て何度も号泣した。しかし、涙もろいワタクシ以上に泣いてるメガネのおっさんが居た。いいなぁ。恥じらいもなく頬に涙を滝のように流して号泣する人。感受性豊かで素敵だと素直に思う。


正義とは人を悲しませない事。しごく解りやすい論理だ。

いちいち、素晴らしい!