みさの小劇場ウオッチ日記

公演期間 2013/03/07(木) ~ 2013/03/12(火)
会場 サイスタジオコモネAスタジオ
脚本 山谷典子
演出 小笠原響
料金 2,500円 ~ 3,500円
サイト http://www.canonkikaku.com/blog/information/post-234.html

歴史博物館に毎日現れる初老の男・静雄を主軸に、少年時代(昭和21年、20年頃)の自分と現在を交錯させながら両親との関係を描いた物語。当時の少年の母・ふみは父の妾であり、複雑な環境にあった。静雄の父である隆は放送局に勤務し、京子という妻がいながら、その一方でふみとの間に静雄を作っていたのである。やがて空襲の最中、静雄を庇い泡沫のように消えた母・ふみ。


その後、ふみは父の妾だったことを知る静雄。そして父が話す放送の内容は戦争に加担したものだった。時代とはいえ、そんな父に反感を抱いた静雄は父のように生きたくないと切に思い、静雄は化学者となる。しかし原子力発電に関わる化学者も、市議会や国という大きな壁にぶつかり翻弄されるのであった。


現在、静雄はあの頃の父と同じ年齢になって、父と同じ道を歩いてきたのではないか。 核の平和利用を信じ、原始力学を学んだものの、見えない巨大なものの思惑に誘引されているのではないか・・。と思うのである。


こうして、静雄はあの頃の爪跡を知りたくて毎日、歴史博物館にやってくるのであった。

戦争と原発、親と子、妻と愛人、生と死を当時から現代に絡ませながら美しくも儚い物語として映し出していた。海辺で過ごした親子の風景、赤海ガメの産卵のようす、竜宮城のくだり、そして亡くなった後も、見守るかのように時折、現れるふみの存在。失ったものは時として美しくなりながら、優しさに満たされていた。


戦後に生きる人々の暮らしや、動向も描きながらも全体的に繊細に表現していたと思う。舞台は完成度が高く、役者陣の演技力も秀逸だった。文学座の藤堂陽子がカミながらも老婆役をきっちりと。いつも思う事だがそれなりに加齢した役者が役柄に近い年齢で演じるのは違和感がなく、まっすぐに心に入ってくる。


今でも静雄の中に生き続ける泡沫(うたかた)のように消えた母を思う気持ちや、自分の人生を噛みしめるような、しっとりした物語だった。素晴らしい。9人の演者でこれだけの時代風景を映し出していたのには脚本の力とキャストの力、演出の力が大きいと思う。感動に値する作品でした。満足!