One more

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time,or…chance?

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十九歳最後の日、俺は草むしりをしていた。

そう、草むしりだ。芝刈り機なんて持っているはずもない。軍手をするのも雑草を掴んだ気がしなくて外してしまった。。まったく、某桃太郎の爺さんにでもなった気分だ。(この「しばかり」が「芝刈り」ではなく「柴刈り」であり、薪集めを意味することを知るのは当分後のことである)

そもそも。あの何だっけか、ここ掘れワンワンの性悪ジジイみたいな顔した隣のオヤジが癪に障る。「おたくの庭が荒れ放題なせいで、うちまで体裁が悪い」だかなんだか知らないが、こっちは忙しいんだ。こんなことしている場合じゃないんだ。明日には、俺は二十歳だっていうのに。いや、誕生日を迎えるからといって、バースデーパーティーがあるとか、そういうことではない。まず、そんな友達がいない。深夜0時きっかりに電話をくれる彼女もいない。メールもちろん、会いに来てくれるわけでもない。違う、それ以前に彼女がいないんだった。考えてみると、俺はそう忙しくはないようだ。別に今やらないといけないわけでもない草むしりを今やっているのは、そういう寂しさを紛らわせるためなのだろうか?

ちなみに言っておくとこの庭、庭といえるほどの広さはない。そして、雑草をすべて取り去ったからといって、観賞用の花など植えていない。大学に近いという理由だけで決めたボロくて小さい平屋で、去年までは大学の友達二人と住んでいた。言うまでもないが、男だ。近頃流行りのシェアハウスなどというものには程遠い。寮母さんに干渉されたくない、金は安あがりがいい、出来るだけ家事をしたくない。この三つを希望する奴らが集まって俺らみたいな生活を選ぶ大学生は多い。俺たちの場合、まあ、長くは続かなかったが。俺が真面目に大学に出なくなったのと、あいつらに彼女ができてここを去っていったのがほぼ同時期だった。

つい先月、大学に執行部の活動として七夕の笹が設置された。俺の願い事は「単位欲しい」だったが、こっそり探して盗み見たあいつらの願い事は、「彼女と上手くいきますように」だった。短冊をシュレッダーにかけてやろうかと思った。ふん、笹なんてただのパンダの飯だろ。雑草を握った手に力がこもる。この中々抜けない、馬鹿に根をはりやがった草。いや、もしかするとこの下には大きなカブが。うんとこしょ、どっこいしょ、とうとうカブは……

 

「うおおおっ」

 

抜けました。はい、尻餅付きました。痛ぇ。こんなに根はってたら簡単に抜けるはずがない。根にはゴッソリ土がついたままだ。

 

ラピュタ……

 

いかん、悲しくなってきた。

 と、そのとき、さっきまで俺をイラつかせていた草の陰に隠れていた場所に、何かあるではないか。違う、何かが「いる」のだ。

 

 「スズメ……」

 

 それは、ぴくりとも動かないスズメだった。この場所のすぐ隣は俺の部屋の窓だ。おそらく、ぶつかってここに落ちたのだろう。それなら、死んだのではなく脳しんとうをおこしているだけかもしれない。恐る恐るスズメに触れると、あたたかかった。そのうち目を覚ますと思う。でも、こんなに小さな、まだたぶん、子供だ。ちょこんとついた、申しわけ程度のかたいくちばしは閉じたまま動かない。

 馬鹿だなあ。窓ガラスがあることくらい分からないんだろうか。俺も二年前、眼鏡をかけたままガラス戸に突っ込んだことがあったような気がしないでもないが、それはきっと気のせいだ。

 

「馬鹿だなあ」

 

 少し、自分の声に愛おしさみたいな感情が混じっていることに気付く。スズメを撫でる自分の左手を見ると、腕時計は23:45の数字を光らせていた。

 その小さなからだを右手ですくい上げ、両手で包み込むようにしてやると、スズメの羽がすこし、震えた。そのことに俺は安心する。もう一度、そっと撫でてやる。

 

「馬鹿だなあ」

 


 誕生日まで、あと五秒。





end