第97条【基本的人権の本質】この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 

第98条【憲法の最高法規性、条約・国際法規の遵守】この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

②日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

 

第99条【憲法尊重擁護義務】天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。

 

≪私なり解説≫

○ここでは憲法第10章「最高法規」(第97、98、99条)のすべてを解説いたします。順番を逆にして、99条、98条、97条の順の方が説明しやすいので、この順にさせて頂きます。

○まず第99条ですが、憲法の尊重擁護義務があるのは、天皇や国の権力者(内閣、国会、司法)、そしてその他すべての公務員です。私たち(公務員を除く)市民に憲法を尊重擁護する義務はありません。何故、天皇や国の権力者及びその他公務員(以下「国」とします。)に憲法尊重擁護義務を課したかと言えば、(第二次世界大)戦時中までは彼らこそが、市民の人権を侵害し、制限してきたからです。だからこそ、憲法の最後(第11章「補則」を除く)にこの条文を用意し、二度と国による人権侵害や戦争の惨禍を招かないように規定したと言えます。しかしながら、多くの国会議員がこの義務を理解せず、9条解釈による憲法違反(集団的自衛権行使容認等)が行われ、53条(臨時国会の要求を無視)違反などが横行している状況です。

○第98条第1項は、憲法が最高法規であることを宣言し、「その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為」は効力を有しないことを規定しています。そのことによって、国に憲法を守らせる99条の規定を補強し、それが私たち市民を守ることにつながります。これが立憲主義の屋台骨(やたいぼね)だと私は思っています。

 第98条第2項は、日本が締結した条約や確立された国際法規を遵守する必要がある、と規定しています。ここで、憲法と条約のどちらが上位であるのかが問題となりますが、通説は憲法優位です(ウィキペディア「日本国憲法第98条」 下記リンク参照)。私も憲法優位説を採ります。

(参照)ウィキペディア「日本国憲法第98条」 日本国憲法第98条 - Wikipedia

 

○最後に第97条ですが、基本的人権を規定するこの条文をここに配置することによって、最高法規性を規定した98条を下支えする支柱のような役割を果たすことになります。自民党の「日本国憲法改正草案」では、この憲法97条が完全削除されています(自由民主党「日本国憲法改正草案」 下記リンク参照)。立憲主義の大事な柱を抜き、権力者の思い通りに市民を統制する用意を、他の条文改正や新設、または解釈変更と併せて成し遂げようとする目論見であると、私は受け止めています。

 自民党はそのQ&A(下記リンク参照)で、97条を削除するのは憲法11条(下記参照)と97条が内容的に重複することを理由として挙げています。しかし11条と97条は似てはいますが全く違うものです。重複する部分は、「この憲法が保障する基本的人権」「侵すことのできない永久の権利として」「現在及び将来の国民に」です。違う部分は、11条では冒頭で『国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。』と規定していることです。この規定から、過去には「基本的人権の享有が妨げられていたのだ。」と理解することが出来ます。97条にしかないものは『人類の多年にわたる自由獲得の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪え、』の部分です。この「自由獲得の成果」はすべての人類という訳ではなく、おそらく当時の西欧社会についての事に限定されるのではないかと思います。しかしたとえそれが、日本における市民の手によって獲得した『成果』でなくとも、人権という『成果』が保障され、98条の最高法規性を支えることになるのであれば、それで良いのだと思います。

 また、11条と97条の違いとして挙げられるのが、文末の書き方です。11条では「与えられる。」になっていますが、97条は「(永久の権利として)信託されるものである。」です。「信託」という言葉は『任せる』の意味があり、そのことから将来の国民への継続性を感じ取ることが出来ます。永続的にこれが出来るかどうかは、日本で暮らす私たちの、民主主義の理解度にかかっていると言えます。

 

日本国憲法 第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。

 

(参照)自由民主党「日本国憲法改正草案」 日本国憲法改正草案(現行憲法対照)自由民主党 平成24年4月27日(決定) (jimin.jp)

(参照)自由民主党「日本国憲法改正草案」Q&A 日本国憲法改正草案 Q&A(増補版) (jimin.jp)

(参考)そうだ、憲法を知ろう【日本国憲法第97条の解説】 【日本国憲法第97条の解説】第11条との違いは?なぜ改正案では削除? | そうだ、憲法を知ろう (nannokaisha.com)

 

【最後に】

 今回で、憲法の逐条解説は終わりになります。第11章「補則」(第100~103条)は、施行期日や経過規定等ですので解説は省略させて頂きます。

 2020年2月28日に前文①を≪私なり解説≫して以来、約3年もの間おつきあい頂き、本当に有難うございました。何らかのお役に立てていれば至上の喜びです。

 この解説で度々登場する、芦部信喜氏著「憲法」は初版、毛利透氏の「(グラフィック)憲法入門」は初版(補訂版)を使用させて頂きました。また、憲法1条ずつの見出し(例:第83条【財政処理の権限】←の括弧内)は、三省堂の模範小六法の見出しを用いています。

 日本国憲法は国内の最高法規であって、生活や人権の基盤です。多くの方々に、憲法に興味を持ってほしい。これからでも、そのきっかけになれば幸いに感じます。

         2023年2月2日  小手川 裕市