姉は何も言わずただ天井を見上げている。
私も別に何か言いたいわけではない。
病院のスタッフさんが椅子を用意してくれたので座る。
座ってはみたものの、落ち着かない。
姉の最近の状況をマッサージをしている人が教えてくれた。
ふうん、という感じ。
人前だから気を使ってリアクションしたけど、
内心、そんなことどうでもいいよ、と思っていた。
何か話をしないといけないのかと思って
病院の食事はおいしいか?と聞いた。
歯が一本しかない人にそんなの言ったって
的外れなんだってことに後で気づいた。
「うん」
というような言葉を姉が発した。
「杏仁豆腐が食べたいって言ってたんですよ。」
マッサージをしているスタッフさんが
姉に変わって答えてくれる。
なるほど、何かやわらかいものは食べているらしい。
「差し入れって持ち込めるんですか?」
自分で言った言葉に自分で驚いた。
頭の中で自分に(お前何言ってんの?)というが、
出してしまった言葉を引っ込めることはできない。
マッサージをしているスタッフさんが、
「たぶん大丈夫だと思いますが、お医者さんに聞かないと」
と答える。
自分の言葉にびっくりして急に居心地が悪くなった。
少しマッサージのスタッフさんと話をしてから帰ったが
帰るときに「またね」と言ってしまった。
きっと姉には届いていないけど。
いい人ぶる自分が心底いやだ。