夜市は最高！

うつらうつらしながら　ぼんやり眺める天井・・・・　
いつの間にか眠っていた
あいかわらずうるさい蝉の声に起こされる
柱時計を見やると　もう夕方になっている
「きょうは、夏祭りだよー」　

母の声でびっくら起き上がる
「そうだそうだった」　

一気に気持ちが高まる　急ぎ着替えて顔洗って
「いってきま～す」　小遣いをもらっておもてへ走り出る

歩いていると　ぼくの目に　へびイチゴの赤い実が飛び込んでくる
緑の草むらにそおっと手を伸ばし　実がつぶれないように採って　口に運ぶ　
「すっぱっ・・・・・」
きょうのやつは酸っぱさに甘みを感じる　　上等上等　久々のヒットだ
と思った瞬間　道端の草ぼうぼうに　むっと熱風がおし寄せる

左折していつもの橋が見えてきた　その先に　夏祭りの出店が並ぶ
まだ時間が早い　出店は準備で大わらわ
「あそぼっと」　ぼくは暇をつぶすため　河原に降りた
わるごろオールスターズが　すでにあれを始めていた
スーーッ　スッスッスーーーッ
石切りである　　川面に石を投げつけてポンポン跳ねる段数を競う遊びだ
「３段か・・・・」　初投げはまだまだ調子が出ない
見知らぬライバルは　１０段ぐらいをへっちゃらでやってのける
「負けるもんか・・・・」
石切は平べったい石をいかに河原の中から探し出すかが大きなポイントである
「この石でどうだ」
スーーッ　スッスッスーーーッ　ポンポンポーン
何度も投げる　何度も適当な石を探し拾う　繰り返し投げて最高を狙う
角度を付け　石を平行にして思いっきり横投げ
スーーッ　スッスッスーーーッ
よし今度はどうだ　　ポンポンポーンポンポンポーーン
「おみごと・・・・」　「やったー」
わが石切過去最高の１２段をなしとげたのである
そんなこんなで石切りをしているうちに　辺りはだいぶ暗くなってきた
ぼくらは階段を駆け上がる　

すると妹が遅ればせながらやって来た　浴衣姿の笑顔が眩しい
ジュージュージュージュー
イカ焼きの香ばしいにおいがする
「うまそうー」
でも買えない　三百円しか持っていないから
ぼくのお目当ては　水風船　渦巻き模様のヤツ
妹のお目当ても　水風船　　水玉模様のヤツ　　一個百円
「おじさんこれくださーい」
バシャバシャバシャ　バシャバシャバシャ
水風船をかきならす
バシャバシャバシャ　バシャバシャバシャ
ゴムがビュンビュン　ビューンビューン
伸びて縮んで　縮んで伸びて　
水風船の手に当たる感触がなんとも言えない
妹の水風船と交換しながら
バシャバシャバシャ　バシャバシャバシャ　
しばし感触を楽しむ
次は　わたあめを買う　「ふわふわだよ　ふわふわ　白くて甘いよ」
できるだけ減らないように　わたあめにちびりちびり食いつく
妹も　わたあめをちびりちびり食べている　時々夕空にかざしながら
わたあめを食べた後の棒で土手に落書きを描く　描いていると河原に目が行く
さっきのわるごろオールスターズが　広場で手打ち野球をしているのが見える
でも暗くて遠いからあまり姿が見えない　　やつらのボールも見えない
ついに真っ暗くなってきた・・・

バンバンバンバンバーン　ドーンドンドンドンドン
ヒュ～ン　バーン　　バンバンバン
花火が始まった　間を置いて花火が上がる　ぼくと妹の顔を照らし出す
ヒュ～ン　バーン　　ヒュ～ン　バーン　　ヒュ～ン　バーン
大輪の花火が　赤　青　緑と　咲き乱れ
一つ終わると　また次の花火がこれでもかと　打ち鳴らす　　
次々に次々に競うように
ヒュ～ン　バリバリバリバリバリ・・・・・シューーーン
しだれ柳が　低いところまで大きな曲線を描いて散る　静かだ
さっきまでの喧噪が嘘のように　わるごろどもが立ち止まり
しだれ柳の放物線の描く曲線の痕を追うようにしばし見とれている
「夕涼み　見上げる空には　熱い花」
夜市が一段とにぎやかになってきた　　　ヨーヨー　スーパーボールすくい
金魚すくい　お面　リンゴ飴　あゆの塩焼き　焼き鳥　などなど大繁盛

そこに父と母もやって来た
「よっ、待ってました大統領！」
おねだりおねだり　あるものを買ってもらおうと手ぐすね引いて・・・・・
それは　ひよこ
夜市で売っているひよこは　めちゃくちゃかわいい
うじょうじょうじょ　元気に動き回るひよこ
裸電球に照らされたプラボックスの中に何十匹ものひよこがいる
「ねえねえ、ひよこ買って買って！」
父と母は困惑の顔　「しかたがないな　大事に育てるんだぞ」
一番元気良さそうなひよこをおじさんに袋に入れてもらった
つぶらな瞳と可愛い顔でぼくを見つめるひよこ
かわいいいねひよこ　黄色が際立つ夜市のひよこ
「さっそく家に帰ったら籠に入れてやらなきゃ」
「もう帰るよー」家族いっしょにまだ鳴り止まぬ花火の大音に背を向け家路へ
ランラランララーンと　妹とスキップの競演をする
バンバンバンバンバーン　ドーンドンドンドンドンヒュ～ンバーンバンバン
まだまだ花火は終わらない　そして夜市の盛況さも終わらない
ぼくは買ってもらったひよこを花火の上がる夜空にかざしながら　
うれしさのあまり叫ぶ
夜市は最高！

★読書のすすめ★ぼくの夏祭り