(前回の続き・・・と言ってもこの回だけでも十分楽しめます。

  イラストと共に最後まで御覧下さい。【若者向け恋愛小説】部分です)

 

 私(明子)の「好き」が、万座毛上空の高気圧に吸い上げられ、はじけ散った。

海から空に向かう気流が、その「好き」のかけらを掬い集め、激しく上昇する。

言の葉は、天空から洋一の顔に体に、柔らかく降り注いだ。

この想いが伝わったかしら・・・私は、洋一の顔をまじまじと見つめた。

初めは辛そうで暗い顔が、だんだん爽やかな微笑みに変わってきた。

もっと彼の軀に寄り添うために寝返りを打つと、彼の膝に太腿がぶつかり、もぞもぞっとする。ずうずうしい。恥も外分もない。なお彼の腕にしがみついた。

もう雄大で美しい光景は入って来ない。彼の全てを独り占めにできるだけで、充分。

ずっとずうっと洋一と居たいと、心の中に未来の二人を描いていった。
「さて、ビーチに行こうか」
彼が目を見て言うので、「うん」と言って起き上がる。が、ふらふらして、彼の腕に掴まりながら立つ。ずいぶん長い時間、万座毛の台座で彼と並んで寝っ転がっていたことに気づく。

おたがい指をからめ、歩き出す。すぐに駐めた車の所まで来てしまう。

「あーあ」と残念がってドアを開けた。

「次は、恩納ビーチに行くからね」と彼が言うけれど、「うん」と言うだけ。何処かに行きたい訳ではない。私はただ、ゆったりとした時の中で、彼の横顔を見つめているだけで良かった。

運転する彼の脇腹に顔を埋めて甘える。愛しさがこみ上げてきて堪らなくなる。

だが、気持ちと裏腹にすぐに恩納ビーチに着いてしまう。

彼が車のエンジンを止めて降りようとするから、手を引っ張って阻止する。

それは、意思表示。彼は、私の気持ちを察してくれた。

見つめ合い、初めてのキス。

どれくらい唇を重ねていただろうか。私はようやく彼の唇を解放し、抱擁を解いた。
 海浜植物の間を通り抜け、ビーチに出た。

サンダルは歩きにくい。わざと彼の手を捕まえ、引っ張ってもらいながら歩く。打ち寄せる波が、二人の足を洗うように優しく触れていく。
「きれいだね」と彼が素直になって言う。
「ううん、汚いさー。沖縄戦でもの凄い数のアメリカーの軍艦が襲ってきて、この海汚したさー」と私はわざと言ってみる。すると、彼はしばらく考え込んでいる様子。
「もー、この海よりきれいな私をみて」と彼の腕をつねりながら、考え込んでいる彼を自分の方に向かせる。彼の顔に両手を添え、目を閉じてみる。優しく彼が応えてくれた。今度のキスは、甘酸っぱい。潮風のせいかしら・・・少し目を開けてみた。すると、彼も閉じていた目を開けた。私は嬉しかった。それから、海に入って膝まで海水につかってみる。少し冷たく感じる。夏の終わりの恩納ビーチ。
「ねえ、少し冷たいね」と言うと、
「あの時、アメリカーが火炎放射器で燃やしたから、水温が上がっているさー」と彼は笑いながら返す。私はあきれてワジった。「よういち、よういち・・・」と言いながら彼を追いかけ回す。海水を両手でバシャバシャかける。キャーキャー、ヒーヒー言いながら、彼は逃げ廻る。
 冷静になると、白い砂浜の美しさに改めて心を奪われる。白世界は広く感じられる。

健康的な彼の姿に安らぎを覚える。これが始まり、まだ私たちの恋は始まったばかりだと信じる。ビーチの砂はきらきら光っている。なるほど、星砂だ。汚れなき乱光を感じる。
「こんなに砂浜が綺麗だとは思わなかった」と彼が言う。二人して砂浜にべったり座り込んだ。波打ち際。広がる景色。落ち着いてゆくこころ。

珊瑚礁の潜んでいるエレガンスブルー。

そして、洋々たるラグーン。深い藍色をした無尽蔵の宝庫。

その上には、入道雲が生まれ出ている。

おお、動いている、動いている、雲が・・・青は忘れもの。

透き通る空の青になにもかも持って行かれそうになる。
「わあっ、あっちに象の鼻が見える」と私が叫ぶ。
「此処から見ると、本当に象の鼻だね」と彼も喜ぶ。目を細め万座毛を見ている。
「お腹が空いたね」と私が言うと、彼は頷いてすぐさま歩き出す。彼の後をついて行く。ビーチパーラーで、かき氷とタコスをほおばる二人。食べ終わると、また、ビーチに出て遊びまくる。押し寄せる波を、二人で押し返してやった。

 

 

 帰りの車の中・・・びしょ濡れの服をタオルで拭き拭き、彼の軀に寄り添う。

帰りたくない、いや、帰さない・・・このまま別れる寂しさが、急に込み上げてきた。
「ねえ、洋一。うちに寄って、シャワー浴びて、晩ご飯にしよ」
困惑した顔に見えたが、彼は、レンタカーを返した後、私のアパートに寄ってくれた。
「すぐ帰るから」と彼は言っていたが、私が作った料理を食べ、しばらく談笑し、一緒にベッドに入り、そのまま朝を迎えた。

 

 二週間、寂しくて堪らなかった。私は、彼に電話した。

スナックの仕事を休んで、久茂地の居酒屋に彼を誘った。
「ハイサイ。お待ち」と彼はトートバッグを提げてやって来た。

バッグの中を覗き見ると、本が数冊見える。どうせめんどくさい活字の本だと見切った。返す刀で、彼の目を真剣に見つめる。逢いたくて逢いたくて仕方のない切ない気持ちを伝えた。
「それは、どうもご愁傷様でした。言わなくても、十分分かっています」と彼は素っ気ない。

「もお、人の気持ちも知らないで・・・ご愁傷様とは何よ」と言い返すと、
「ごめん、ごめん、冗談だよ。今日は、仕事休んできたんだもんね。その気持ち有り難く思うよ。ところで、提案したいことがあるって電話で言ってたね。さて、何でしょう・・・」
彼はいきなり本題に入る。しょうがない、私もすぐに提案を始めた。
「ねえ、渡嘉敷島に行こー」
彼はびっくりした顔になった。キツネ目がネコの目になっていた。
「渡嘉敷島って、八重山の方にあるの?」と訊いてきた。
「なに、渡嘉敷島ってここからすぐだよ。那覇の港から高速船で三十五分ぐらいで行けるさー。慶良間諸島にあって、その中で一番大きいのが、渡嘉敷島だよ」と呆れて彼に教える。
「あっ、そう。知らんかったさー」と彼はいい加減に答える。ワジった顔をして彼を睨む。
「ごめん、いいよ。行こう、行こう。楽しそうじゃん。でも俺、行き方が分からないから教えてよ。他に、持っていく物とかさ」
「うん、まかせとけー。良かったー」
私は、すごく嬉しくなって、彼の首に抱きついた。彼が、すんなり提案を受け入れてくれて最高の気分。二人の渡嘉敷島旅行が実現するんだ。
「ちょっと、タイムタイム。こんな所で駄目だよ」と彼が振りほどこうとする。
「もうワジったさ。これは喜びの表現。冗談が通じないんだから」と言ってぷーっとふくれっ面をする。でもすぐに座り直す。
「いいもん。もう飲んじゃお。やけ酒」と、メニュー表に目をやる。彼は、ちょっぴり怪訝そうな表情をしているが、それがとてもかわいい。無邪気だし、何と言っても自分を愛してくれている。だから、その気持ちをしっかり大切にしたいと思う。きっと、彼も同じ気持ちだと思う。

泡盛の水割りを飲みながら、つまみは、ミミガーに島らっきょ、もずく酢にジーマミ豆腐。「うまいうまい」と言い合い、舌鼓を打ち、たらふく飲んでしまった。丁度良いほろ酔い。
「あーあー。明日は特殊講義があってレポートしないといかん。大変だあ」と彼が帰ろうとするから、
「洋一、ウチに泊まるよね。もし帰っちゃったら、ワタシ絶交するから」と脅してみる。

彼は困った顔をしていたが、結局、私の部屋に来てくれた。私はとても嬉しかった。
「ねえ、これ、着てみてよ」と、買ってきたポロシャツとTシャツを彼にプレゼントした。

「ありがとう」と彼は言って試着してくれた。

そして、今晩もまた彼は泊まってくれた。

翌朝、寝ぼけ眼の彼は、私のアパートから大学へ出かけて行った。

  

 (今回はここまで・・・次回もお楽しみに・・・

  最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。

  次回は、渡嘉敷島でのバカンスを描きます)