私の知っている男に、「七月三十一日の男」と呼ばれているのがいる。
それは自分で、
「俺は七月三十一日に死ぬ」
と公言しているということで、少々変わり者として、有名だった。
なんでそんなことを言っているのかは謎だ。
「俺にはな、運命の声が聞こえるんだよ」
そんなことを言っていた。
しかしそれが「何年の七月三十一日」なのかは、はっきりしないのだそうだ。それでその男は、「七月三十一日に死ぬ男」として、結構顔を知られていた。
前にどこかのローカル番組が、取材にも来たようだ。
それは知る人ぞ知るという、幻の珍獣のような存在だった。
そのためその男を知る人は、七月になるたびに、
「あいつ、死ぬかな? 」
必ず誰かが言った。
それで八月になっても死なないと、
「今年じゃなかったんだな」
それは夏の風物詩となっていた。
それで本人も気にした風もなく、八月の頭に会うと、
「また引き続きよろしく」
と、なんてことなさそうに言う。
特に目立ちたいわけでもない。
そういうキャラでもない。
いたってその辺にいそうな人間で、特に奇抜なものもない。
本当に運命の声が聞こえるのかどうかはわからないけど、話題になりたいわけでもないのなら、そんなことを公言しても仕方ないような気もする。
それである日、私はふと考えた。
なんでわざわざ、そんなことを言うのだろう? ・・・
もしそんなことを普段から言っていたら・・・
それでその男が、本当に七月三十一日に死なないで、他の日に死んだら・・・
はっきり言ってどうでもいいことだけど、がっかりする人もいるんじゃないのか?
「なんだよあいつ? あんだけ言っといて、結局違う日に死んでるじゃんか? 」
どうでもいいことなんだけど。
気にする人もいるだろう。
それでもし、そういう人だったら・・・
それで私はある日、彼の傍に行って、
「ねえ」
「ん? なに? 」
彼は私を見た。それで私は・・・
「・・・殺して・・・欲しいの? 」
ひょっとしたら・・・
そんなことを言っていたら・・・
七月三十一日に、誰かが本当に殺しに来るかもしれない・・・
それで本当は、そんな日付なんて、どうでもよくて・・・
そんな異常な奴が来てくれることを、ただ待っているだけとか?
その日が近づくたびに、期待しているとか?
私の言葉を聞いた彼は、驚いたように私を見ていた。
でも彼は、なにも言わない。
そんな時間が、ただ流れていた・・・
