ことの顛末を話す。

私があの人とほぼ毎日電話をするのを大前提として。

始まりは、受験、浪人の寂しさを埋め合うような関係でしかなかった。
だけどなんだか近くて
お互いの気配を感じるほどだった。
電話しながらただ黙っていても
それだけで幸せだった。

次第に試験が始まり、私が試験の朝、電話してもらってた。
それに伴って、夜電話する時間は減って行った。

受験が終わってからは
あの人は夜出掛けていたり、オンラインゲームをしていたり。
私はあの人の独り言や歌う声やゲームの音を聴いていた。

特に喋ることも無くなってきた。
電話で繋がっているだけで幸せだ、っていう感情が何処かに消えてしまっていた。



そしてあの人は
「良くも悪くも、貴方が隣にいる感じがしなくなった」
と言った。
私もそう思っていた。
そうやって冷え始めた感情をなんとか戻したくて、早く会いたいと言ったけれど
私は焦ってはいけないと、そこでブレーキをかけることができた。その時はまだ。




そして

8日の夜中だったろうか。
あの人は出掛けから帰ってくる途中で電話をくれた。良くあることだね。
でも私は眠かった。
必死に
貴方と電話したくて
起きてた。
そしてあの人は「もう寝ますか。まぁ私は寝ないけど。」と言った。

だから私は
普通だったら絶対に口にしないことを
私とあの人の間にある不安定な関係に頼って
口にしてしまった


「○○に誘われた」

と。
いうような内容を。

デートに行こう、って茶化して言われた話は少し前にしていた。
「どうするかはあなたが選んで」
そんな風に貴方は言うんだ。
酷い。
私の考えがわかった上で言うのよ。

彼奴から予定がわかったら連絡がくるはずだったから、私は放置していたのだけれど
急にまた連絡が来て

「(彼奴が住んでいる所へ)来いよ。」
って言われた。
彼氏でもない男のためにわざわざ新幹線で行って観光ついでに泊まり?
そんなまさか。

私の心は
わけもわからず揺れていた

そんなところに行くつもりは無い。
だけど
そんなにまで言ってくれることが
彼奴が
そんなことを本気で言ってるなんて。
そう思ったら
グラグラと私の心は揺れてしまった。
どちらか選べと言われれば
絶対にあの人を選ぶのに
遊びに行くだけならいいんじゃないか
悪魔が囁き続けていた。

だから
あの人に一言
それはやめろ
言われれば
いいなと思った。
ちゃんとした関係じゃないから
許されるかもとも思った。
だけど私は
やっぱり甘かったね。

「引き止めて欲しいんだろうけど、引きとめないから。」
「嫌じゃなかったんだ?」
「拒む自信が無いと?」

あの人の無表情な言葉が
たまらなく怖かった

「自分で考えて。」

その日はそんなで
電話を終えてしまった

次の朝
私が
会いたいと言って
連絡したけれど
返信は14:30頃。
2時間後ぐらいに私が明日か明後日か明明後日辺りはどうかと言ったら
LINEの既読も付かなくなって
本当に
本当に嫌われたか、怒ってるかだな、と思って
とてもドキドキしていた。

結局その間あの人は、iPhoneのバッテリー交換をしてバックアップできなくて
連絡が取れなかっただけだったよう。


夜に電話もできず
やっと連絡来たのは翌15時頃。
昨日。
ぼそぼそと会話をして
絵文字も何もない文を送ってくる辺り
やっぱり機嫌を損ねているな、と思った。



そして夜

電話ができた。

「お久しぶりです。」

本当に、何日も連絡取っていないようだった。
お久しぶりって言われても、たった一日だったことなんて忘れるくらい
ホッとした。
電話してもらえてることに。

そして私は
「怒ってるの」
と聞いた。
「なんで?」
「私が怒らせるようなことを言ったから…」
「何がありましたっけ?」
「…他の人の話をしたから…」

あの人は。
あの人は私が傷つく、困る言葉を知っていて
全て計算されて
私をじわじわと追い込むためだとわかっていて
そう冷静に分析できる頭も私にあるのに
どうして追い込まれてしまうのだろう。


「そんなんじゃ怒らないでしょ。」
「全く怒ってないよ」

怒らないことが私にとって逆に不利益であるとわかってて
わざとそんな言葉を言って見せる。

だって、常識で言えば
詰られて、怒られて、嫌われて当然のことを言ったから…
そう言ったら
あなたは
言い方悪いけど、と前置きして、言った。





『そのくらいで私から離れていく人なら、今は要らない』





私に非があるのはわかりきっている。
だから
どんな言葉も受け入れる。
そう腹を括って聞いた言葉だった。
私が想像し得る範囲の言葉では無くて
どうしたらいいかわからなかった。

これは、一度会ってあの人の所へ戻ることについて
否定されていない言い方。
私は更に困惑した。

「どちらにするかはあなたのお好きに。」

でも、そうだよね。
どちらか
なんだよね。
あの人の中では
彼奴との一度の逢瀬でアウトなんだよね。
一般常識はそう。
私が淡い期待を抱きすぎなのよ。

でも。

あの人の言葉で
ようやっと自信がついた
彼奴を拒む
自信が。



私には
大切な人がいるから。



その後、明後日(明日)会うことの話をして、結局
今会ってもいい結果にはならない
そう結論づいたから
会わないことにした。
私が
焦りすぎてた。
彼奴に会う前に
あの人に会っておきたかった。
4月になれば忙しくなるのも
目に見えているし。
でも、今すぐに会おうとするのは
やっぱり違ったね。

結局その話がひと段落して
暫く意地悪な会話をして
やっと眠りにつこうとした時
私は言った。


「自分の息が顔の前に置いたiPhoneに当たって跳ね返ってきただけなんだけど、一瞬貴方の息かと錯覚した。」


と。

そしたら貴方は

「今日は貴方が隣にいる気がする。」

そう言った。

私は安堵と嬉しさで

「うん」

としか返せなかった。





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