ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)とは行政機関と民間団体が成果指標を定めて契約を結び民間団体が実施するサービスの成果に応じて行政が支払う事業スキームです。民間企業のノウハウや資金を活用して国や自治体が抱える社会課題の解決を図る官民連携の仕組みです。SIBは2010年に英国で始まった社会的インパクト投資のひとつで21世紀の新たな財源調達手段として注目されています。日本では2017年度から本格導入され、医療・健康、インフラ維持修繕、防災、リサイクル、子供の教育、まちづくりなどの幅広い分野で活用されています。

 SIBのメリットとしては単年ごとの予算消化を求められる行政サービスに対して長期的な取り組みができること、費用の削減が行えること、民間の評価や知見を公共事業に導入することで効率化が促されることなどが挙げられます。一方で適切な評価指標の設定などの課題もあるためSIB活用の支援が期待されています。

 豊田市の事例では、社会保障費の削減が起因となり、介護給付費削減せざるを得なくなったため、元気な健康高齢者を増やさないと市民も自治体も窮する事態に陥りかねないと危機感を持った結果、SIBを活用した介護予防の取り組みとして令和3年7月から「ずっと元気プロジェクト」を行っています。運動・趣味・エンタメ・就労など様々なテーマの社会参加プログラムを提供し、当初は37人の参加でしたが、現在は5800人まで拡大しました。その効果として、ひとりあたりの介護費が9万円も削減できました。

 三重県東員町では健康と要介護の中間にあるフレイルを検知し、自治体が介入し、生活習慣改善をアドバイスすることを行っています。フレイルとは医学用語で年齢とともに心身の活力が低下し介護が必要になりやすい状態を指します。病気ではないものの健康と要介護状態の中間の段階に位置し生活の質を落とすだけでなく合併症を引き起こす危険性があります。フレイルの原因は加齢による身体的機能の低下や社会とのつながりの減少などです。筋力や筋肉量が減少すると活動量が減りエネルギー消費量が低下します。その結果、食欲がわかなくなり食事の摂取量が減りたんぱく質などの栄養が不足して低栄養の状態になります。低栄養の状態が続くと体重が減少し筋力や筋肉量がさらに減少する悪循環に陥り、転倒や骨折、慢性疾患の悪化をきっかけに要介護自体になる危険性が高くなります。

 中部電力が三重県東員町に提供しているのは電力スマートメーターの電力使用実績データを活用しAIがフレイル検知する国内初となる自治体向けフレイル検知サービスの提供を行っています。高齢化が進み医療費や介護給付金の増加が社会全体の課題となる中、自治体は限られた要員で効率的かつ早期にフレイルを発見し適切に介入することが求められています。これまでの取り組みによりフレイルリスクの高い方を100人中11人、早期に発見することができました。フレイルであることに早めに気づき適切な対策を行うことで元の状態に戻ることもできます。フレイル対策の3つの柱は栄養(食・口腔ケア)、運動、社会参加です。フレイルには「可逆性」という特性があり予防することで進行を緩め健康な状態に戻すことが可能です。中部電力は今後、全国の自治体を対象にサービスの提供・拡大を行っていくとのことです。

 成果報酬という特徴からソーシャルインパクトボンドに適している分野とそうでないものがあります。適しているのは「将来発生することが予想されるが、予防によって回避しやすい分野」です。具体的には教育・生活困窮者支援・認知症・依存症支援などが挙げられ、これらは課題解決のために長い時間がかかりますが適切な対策を行うことができれば定量的な成果を得やすいです。また、こういった課題は一般的に資金的余裕の少ない社会的企業やNPOが担うことが多いです。単なる成果連動型の委託契約だと資金繰りが厳しくなりますがソーシャルインパクトボンドであれば資金提供者による資金調達が可能となります。

ソーシャルインパクトボンドは自治体・サービス提供者・市民のそれぞれにメリットがある「三方よし」の仕組みです。成果報酬型なので従来の業務委託よりも高い成果が期待でき費用も事前に決められた範囲内でほとんどの場合が収まるため行政のコスト削減にもつながります。医療・教育・生活支援など改善に長い時間がかかる社会課題はソーシャルインパクトボンドとの相性が良いです。今後もまちづくりの分野でソーシャルインパクトボンドの事例が増えていくことを期待します。社会の発展は企業の発展や個人の幸福に寄与します。このような事例がもっと増えてくれば日本全体がもっと良くなっていきます。