政府はクールジャパン戦略を改定しました。コロナ禍によりクールジャパンを取り巻く環境が大きく変化し、新たなフェーズに移ってきています。第一の環境変化としてアニメやゲームを中心に日本のコンテンツ人気が世界中で高まっていることがあります。世界的に動画配信サービスが普及していく中で日本のアニメや漫画が海外において一部の層だけでなく一般的な若者を惹きつけています。アニメそのものに限らず実写化したドラマやテーマソングも人気です。家庭用ゲームもデジタル配信に適応し海外展開が伸びています。ゲームのキャラクターを活用した映画や字幕付きの実写映画もヒットしています。

 コンテンツ産業は輸出額などの海外展開において鉄鋼産業に匹敵し、半導体産業に迫る勢いで4.7兆円規模まで成長し、今や多くの外貨を獲得する基幹産業として位置付けられるようになりました。コンテンツ人気がインバウンドにも大きな波及効果をもたらしています。コンテンツ分野ではデジタル配信の世界的な拡大により消費行動が変化し世界のコンテンツ市場の成長が見込まれています。これらの変化に応じて日本はアニメ・漫画・ゲーム人気を足掛かりに海外市場に対応したビジネスモデルへの構造改革が求められています。

 日本におけるデジタル化の取り組みは大変遅れています。コンテンツ分野におけるデジタル配信への対応や制作体制のDX化、生成AIを活用したクリエイションの支援や効率化は特に急務です。漫画の翻訳版は全体の2割を占めるに過ぎません。漫画に特化したAI翻訳技術の研究開発を行うMantra株式会社は「世界の言葉で漫画を届ける」をミッションに掲げ、言葉の壁を突破して漫画をいち早く世界中のファンに届けるためのサービスを展開しています。

 2020年に公開した漫画のクラウド翻訳ツール「Mantra Engine」は出版社、翻訳会社、漫画配信事業者を含む10社以上のパートナーに導入され月間20,000ページ(単行本換算で約100冊分)以上の多言語化に貢献しています。また2022年に集英社協力のもと、リリースした英語学習アプリ「Rangaku」は公開初日にApp Storeの「教育」カテゴリで1位を獲得するなど新しい言語学習の手法としても注目を集めています。

絵とテキストの不規則な配置、独特な話し言葉、ストーリーの背景にある複雑な文脈など漫画には翻訳を難しくする要素が多く含まれます。この会社は課題解決のため漫画に特化した画像認識と機械翻訳を統合し、世界で最も高精度な漫画の機械翻訳を開発しました。この成果は人工知能分野のトップ国際会議AAAIに採択され、アジア太平洋機械翻訳協会からAAMT長尾賞を授与されるなど学術的にも高く評価されています。

 しかし現実としてAI翻訳だけでは伝えきれない部分があり、現地の海外翻訳家が修正しなければならないことは残ります。それでもすべてを人間に翻訳するより時間が3割から5割短縮されます。今では月間100,000ページ(単行本換算で約500冊分)以上の翻訳ができるほどスピードアップしています。そしてさらなるスピードアップがAI翻訳に求められています。

 AI翻訳について日本翻訳者協会がAIに職を奪われると危機感を募らせています。また、AI翻訳によって翻訳の質が落ちることを懸念しています。それでも集英社は海外配信サービスに力を入れており、日本とほぼ同時期に新作をリリースするとしています。翻訳に許される時間は短く限られているのでAI翻訳は大変な手助けになります。

 日本のアニメ等の世界における人気拡大によって他分野とのコラボ効果も高まっています。外国人の関心が高い「アニメ/漫画」や「食」を入口としてインバウンドの誘致、農林水産物の輸出プロモーションを行うことが有効と考えられています。コンテンツ分野では動画配信におけるサブスクリプション型ビジネスが主流となる中でグローバルなコンテンツ流通チャネルの重要性が高まっています。配信プラットフォームは海外の大手事業者に依存しており独自のグローバルな流通チャネルを有していないため、自らの判断に基づいて戦略的に海外需要開拓を進めることができていません。日本のコンテンツ業界にとって今後、海外への流通チャネルをいかにうまく活用できるかが課題となります。