牡蠣の種苗生産・養殖、卸売販売、オイスターバーの運営など牡蠣の6次産業化を展開する株式会社ゼネラル・オイスターのグループ会社である株式会社ジーオー・ファームは沖縄県久米島で海洋深層水を活用した牡蠣の完全陸上養殖に世界で初めて成功し、ノロウィルスフリーのあたらない牡蠣の養殖を発表しました。

 2006年のノロウィルス流行以降、貝類、なかでも牡蠣は食中毒感染リスクが高い食品として敬遠されることが多くなりました。ノロウィルスは感染力を長期間保持できることも特徴です。感染者の糞便などにより排出されたノロウィルスが下水処理場で完全に浄化されないまま河川へ排出され海域に流れ込み、それを牡蠣が体内に取り込み汚染された牡蠣を人が食べるという循環で感染力を維持し続けています。

 牡蠣は餌である海水中の植物プランクトンを取り込もうと海水を吸い、吐き出しています。牡蠣は海をきれいに浄化する貝類と言われており、海水状況により牡蠣自体にも影響が及びます。この会社はより高い安全性を求めて海洋深層水に注目しました。海洋深層水とは太陽光が届かず表層の海水と混ざらない水深200m以深の海水で、きわめて清浄性が高い海水です。清浄な海洋深層水を確実に牡蠣の体に廻らせることで牡蠣は浄化されます。

 海洋深層水を養殖海水に使用するにあたり、課題となったのは海洋深層水には人に害を与えるウィルス・細菌がない代わりに牡蠣の餌となる植物プランクトンが存在しないことでした。そこで東京大学と共同研究で海洋深層水を活用した植物プランクトンの大量安定培養技術を確立、完全陸上で成貝まで生育させる飼育技術を確立したことで、ノロウィルスフリーの「あたらない牡蠣」の養殖が実現しました。

 完全陸上養殖により生育した牡蠣の味については甘味の強い牡蠣である特徴が挙げられました。北海道から九州まで29の海域で養殖された牡蠣の成分分析結果と比較したところタウリン・グルタミン酸・アラニン・プロリン・遊離アミノ酸トータル量が高値を示しました。アミノ酸はそれぞれ栄養機能性を持つものとたんぱく質を構成しているものが多いため、栄養価値も高いと評価されました。

 牡蠣の生育段階によって適する水温は異なります。今回の「あたらない牡蠣」は沖縄県久米島の海洋温度差発電後の海水を二次利用しています。発電に使用された海洋深層水は清浄性や栄養性は保たれたまま水温が上昇し牡蠣の生育に最適な水温となっています。海洋深層水原水の水温は牡蠣にとって冷たい時期もあります。この問題について発電後海水を利用することで克服することができました。

 このようなクリーンエネルギーを中心とした海洋深層水の多段利用は「久米島モデル」と呼ばれ、現在世界の島々から注目が集まっています。発電後の資源をさらに陸上養殖で有効活用し環境負荷の低減に取り組んでいます。海洋温度差発電は太陽からの熱エネルギーにより暖められた表層海水と海洋を循環する冷たい深層海水との温度差をタービン発電機により電力に変換する、再生可能エネルギー発電のひとつです。くみ上げた深層水は発電に利用した後も水質は変わらず水温も10-12℃程度と低温であるため、この冷熱を水産業・農業・空調等に複合利用することができます。

 沖縄21世紀ビジョン基本計画で示された低炭素島しょ社会の実現に向けて海洋エネルギーの研究開発を促進し沖縄の地域特性に合ったクリーンエネルギーの地産地消による環境負荷の低減を図り、持続可能な社会をつくる姿は他地域の取り組みにおいても参考にしていただきたいです。海洋国家である日本においては他地域でも適用可能ではないかと思います。