明智光秀9話目①
*ネタバレしていますので、ご注意ください*
ネタバレ注意
そこはうす暗くて狭い部屋の中だった。
?? 「入るぞ・・・」
一瞬光が入ってきたかと思うと誰かが部屋に入ってきた。
「あ、あなたは、今川・・・義元・・・様!」
義元 「ふっ・・・久しぶりだな」
「光秀様は、光秀様は無事なんですか!?」
義元 「くっ、こんな状況でも愛しい男の心配とは・・・女とは、哀れな生き物だな・・・」
呆れたようにため息をつく。
義元 「光秀は今頃、信長を殺す算段でもつけているところだろうな」
「光秀様はそんなことしません!何があろうと信長様を裏切るようなことはありません!」
義元 「・・・いい眼つきだ。まったく、光秀に上手く手懐けられたものよ」
そう言うと、ふっと鼻で笑い私を見上げた。
義元 「なあ女、光秀はどんな愛を囁いた?どうやってお前を信じ込ませた?」
義元様は楽しそうに笑うと、その手が私の顔に伸びてきて顎を掴んだ。
そして、強引に義元様の顔の方へ引き寄せられる。
義元 「それと肌を合わせたか。身も心も光秀の手に落ちたのか」
「やめてくださいっ!そんなこと関係ありません。ただ私は光秀様を信じているだけです!」
私の言葉を義元様はあざ笑った。
義元 「その自信に満ちた眼が曇る瞬間が楽しみだな。信じる、信じないはお前の自由だ。だが、今日これから起こることは、この国の歴史を大きく変える出来事だ」
最後までセリフを言い終わると、私は畳の上へと払いのけられた。
その頃、安土城では光秀が京へと向かう準備を進めていた。
最後の荷物を詰終わり、光秀は身体を起こした。
その時。
シュパツと空気を裂くような音がして、光秀は振り返る。
柱に矢が刺さっていた。
光秀 「矢文・・・?」
矢から文を取りだした。
『○○を預かった。命を助けたくば竹生島へ来い』
光秀は矢文を読み終わると、それをくしゃくしゃに握りつぶした。
お城を出たのは矢文を読んですぐだった。
馬を飛ばし、琵琶湖の畔に辿り着く。
日はまだ高い。
夕刻に京に着けばいい。
竹生島へ行って○○を救い出してからでも、京は十分間に合う。
ふと光秀は我に返った。
(いったい何を考えているんだ!)
今自分は、信長様より○○を優先しようとしていなかったか。
文に従ったところで○○が助かる保証など何もない。
それなのに家臣にも黙って自ら救い出しに行こうとしているなんて。
(どうかしてしまったのか、俺は・・・)
万が一でも、○○が竹生島にいたら。
そして○○が命を落とすことになったら・・・。
光秀はもう一度、太陽を見上げた。
竹生島に近づくにつれ、あたりは白い霧に包まれ始めた。
それは、この世ではない場所への旅路のような光景だった。
光秀 「○○・・・無事でいてくれ」
まるで祈るように呟きながら、義元のいるお社へとかけ出した。
光秀 「義元、○○はどこだ!」
そこには誰の姿もない。
机の上には一通の文が残されていた。
『残念ながら、私はこの島にはいない。もちろん、○○もだ。することがないなら、一人和歌でも存分に読んで過ごせ 今川義元』
光秀 「まさか・・・」
光秀は、全速力で元来た道を掛け戻った。
やはり、乗ってきた舟はない。
光秀はがくりと膝を落とす。
光秀の前には雲ひとつない空と、空っぽの湖が、ただ広がっていた。