「女の子に花の名前を教わると、男の子はその花を見る度に一生その子のことを思い出しちゃうんだって」

映画「花束みたいな恋をした」の絹ちゃん(有村架純)の台詞だ。この映画を観た時、私は会ったこともないある男性を思い出していた。

 

これは、私がマッチングアプリを始めて様々な男性と出会い、時に浮かれ、時に悶々とし、自分自身と向き合ってきた修業の記録である――

 

大学4年生の時、初めてマッチングアプリというものを始めてみた。きっかけというきっかけはよく思い出せない。ただ、女子大育ちで出会いがないにもかかわらず、当たり前のように自然な出会い(バイトやサークルでの出会いや、友達からの紹介)を求めて過ごしてきたが、4年目にしてあぁそれは無理なのだと悟ったのだと思う。かくして公務員試験勉強真っ只中の、今考えれば何もこの時期に始めなくても…と呆れるようなタイミングで、アプリをインストールしたのである。

 

大森さんは地元私大の1年生、私の3学年下の男性だった。無印良品好きで、趣味はカメラという、ドタイプの草食系男子。おそるおそる始めたアプリだったが、恋愛をしたことのない私は、この人は絶対いい人だ…!という謎の直感で、いとも簡単に彼のことを好きになった。

メッセージを重ねるうちに好きなアーティストの話になり、彼がある曲をすすめてきた。それがスピッツの「春の歌」である。

 

「僕の好きな歌なんです。朝香さん、春生まれって聞いたし、今のモヤモヤした気持ちが少しでも晴れたらと思って…この歌を贈ります」的なことを言われた気がする。当時、周りの友達がどんどん就職を決めていく中、試験勉強詰めで情緒不安定になっていた私には沁みた。沁み込みまくった。

 

――ここで確認しておきたいのは、作詞・作曲は当たり前だがスピッツ(草野正宗さん)だ。間違っても彼ではない。ただ、当時の私はピュアでちょろい女だった。好きな人に曲をプレゼントされた!!今考えると恥ずかしくなるような勘違い女だが、そのことが単純に嬉しくて、私はYouTubeで何度も聴いた。のちに私はこの曲を耳にする度に、大森さんを思い出すことになるのである。

 

結論からいえば、大森さんとは会うことが叶わなかった。会う予定だった前日に電話で話すことになり、緊張のあまり私はしゃべりすぎたのだ。きっと大森さんの中の、清楚で奥ゆかしい私へのイメージが崩れたに違いない。「やっぱ会うのやめます」とLINEが来た時はあぁ、やってしまった…と思った。違うんです、緊張してて、沈黙が怖くて、しゃべりすぎちゃったんです。私、しゃべるタイプの人見知りなんです、と弁解したい気持ちでいっぱいだったが、時すでに遅し。

 

こうして、私のアプリ最初の相手は、会う前に消滅してしまった。ドタキャンされたし、なんかもういろいろ面倒になったからアプリを消した。そうだ、私は就活中なんだ。恋愛にかまけている時間なんてない。目を覚ませ、私! 気持ちを切り替えて次の日は大学に行って勉強しようと誓った。

 

そして後日、見事に公務員試験に落ちた。今でも春になるとこの歌と、大森さんのスマホ越しの、イメージに似合わず低い声を思い出す。