国産高級実用時計の盟主

それは間違いなくグランドセイコー(GS)でしょう。

スイス製高級時計を打倒するという確固たる志を持って1960年にブランドとして立ち上がり、完全マニファクチュールとして最高級の腕時計を目指して製造を続けています。

GSの時計はビジネス用に何か良い腕時計を、と考えるならまず選択肢に上がってくるはずです。

特に取引先や上司の反応が気になるという人の中には、ロレックスだと悪目立ちするかも、と考える人もいます。GSはそんな心配無用ですから、安心して着用できるという訳です。

まあこれに関しては完全に杞憂ですよと言いたいですけど。私のような時計オタクならいざ知らず、普通は商談相手の時計なんか気にしません。

まして「あ、こいつロレックスや!気に入らん!」などと思う人がいるでしょうか?だいたい机を挟んで向かい合う人の時計が何かなんて余程の視力と知識がなければ分かりません。

ロレックスが一番好きなのに、そんな要らぬ心配をして別の時計を買うなど、愚の骨頂です。

時計は必ず気に入った物を買いましょう。

少し話が逸れましたが、GSはGSなりの魅力が満載ですので、きっと気に入る時計があるはずです。


SBGR 253 / GRAND SEIKO



Ref:SBGR 235
ケース径:37.0mm
ケース厚:13.3mm
重量:140g
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:サファイア・クリスタル
ベルト素材:ステンレス・スティール
バックル:三つ折式Dバックル
防水性:10気圧(100m)
価格:400,000円(税抜)

私が思う最もオーソドックスな機械式GSがこのSBGR 235です。その最大の要因は37mmというケースサイズにあります。

昨今ではビジネスウォッチであっても40mmまでは全く普通ですし、42mmくらいまでは許容される雰囲気があります。とはいえ(勿論体格や手首の太さによりけりですが)、37mmというサイズ感は非常に上品です。

普遍的なデザインと相まって、落ち着いた思慮深い雰囲気を醸し出す事は間違いありません(実際は誰も見てませんが)。


外装で最も強調すべきは、ダイアル仕上げのレベルの高さです。これは誰もが認めている所ですが、GSの針・インデックスのダイアモンドカットは間近で見ると圧倒されます。極めてシャープで歪みのないファセットは他に類を見ない出色の出来映えです。

デザイン性という観点では保守的で、遊びが足りません。これが評価されるポイントでもありますが、人によっては地味で退屈だという評価もあるでしょう。

時計選びにおいて見た目最重視(#13参照)のMinority’s Choice としては、最高評価にはなりません。しかし潔いシンプルさと圧倒的な仕上げのレベルの高さ故に、とても美しい時計だと思います。


ケースはザラツ研磨で仕上げられており、歪みのない平面とエッジの立った稜線を両立しています。この仕上げも非常に評価が高い所です。

一方で、ブレスレットとクラスプの出来に関しては改良の余地があります。ブレスレットはコシがなく柔らかいので、頼りなさを感じるでしょう。プッシュ式のバックルも簡素な作りで高級感に欠けています。

しかし最大の問題は13.3mmという厚さです。シンプルな3針デイトモデルで何故こんなに分厚いのでしょうか。


型番:9S65
ベース:-
巻上方式:自動巻
直径:28.4mm
厚さ:6.00mm
振動:28,800vph
石数:35石
機能:センター3針デイト
精度:日差 -3/+5秒
PR:72時間

ケース厚の要因の一つが厚さ6mmもあるムーブメントである事は間違いありません。完全マニファクチュールを貫くGSのムーブメントですが、この厚みは常軌を逸しています。

ETAの3針キャリバー2892-A225.6 x 3.6mmという事を考えると、如何に巨大か分かります。クロノグラフ並みの3針キャリバーって何でしょう。

この点を時計屋さんと話しているとGSは実用時計としての堅牢性と正確性を最重視しており、強度を保つために意図的に部品を太く・大きく設計している、という答えが返ってきます。


成る程と思わせる部分もありますが、実用時計の世界基準であるロレックスのエクスプローラーが厚さ11mmに収まっている事を考えると、言い訳に聞こえます。

ムーブメントの仕上げに関してもスイス製高級機に比べると落ちる印象です。ブリッジやローターの面取りは甘く、デザイン自体も工業製品っぽくて垢抜けない印象です。

バネ棒外し方の穴がラグの外側に空いているのも、40万円の時計として相応しいとは思えません。

しかしケースとダイアルが非常に良いので見た目の印象はかなり良いです。精度(日差 -3/+5秒)もパワーリザーブ(72時間)も高級実用時計としての基準を満たしていると思います。

従って40万円(実売はもう少し安い)という価格に見合うバリューは十分あると思います。


SBGH 201 / GRAND SEIKO



Ref:SBGH 201
ケース径:40.2mm
ケース厚:13.0mm
重量:151g
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:サファイア・クリスタル
ベルト素材:ステンレス・スティール
バックル:三つ折式Dバックル
防水性:10気圧(100m)
価格:620,000円(税抜)

サイズ的な好みからSBGR 253を先にご紹介しましたが、一般的にはこのSBGH 201こそGSを代表するモデルだと認識されているかも知れません。

ホワイトダイアルに、やや長めのバーインデックス、シャープな時分針に青焼きの秒針がアクセントになるシンプルな文字盤デザインです

6時位置にはHi-BEAT 36000のロゴが誇らしげに印字されています。

この時計もやはりダイアルの美しさは息を飲む程です。相変わらずHPの写真ではそれが伝わりませんが、ほかの写真をみるとその質の高さはわかると思います。


外観に関しては40mmまで拡大したケースが気になります。が、13mmという厚さを考えると、バランスはむしろこちらが良いかもしれません。いずれにせよ取り回しに優れているとはちょっと言い難いです。

ケースのシルエットは大きなラグによって形成され、如何にも堅牢性が高そうなしっかりとした造形です。

ホワイトダイアルにシルバーのインデックスと針なので、視認性が抜群かと言われるとそうではありませんが、青焼きの秒針のコントラストは際立つ組み合わせです。

また、非常に細かいですが、時分針はあと僅かに長い方がバランスが良いと思います。ひょっとして37mmモデルと兼用なのでしょうか?


型番:9S85
ベース:-
巻上方式:自動巻
直径:28.4mm
厚さ:5.90mm
振動:36,000vph
石数:37石
機能:センター3針デイト
精度:日差 -3/+5秒
PR:55時間

SBGH 201の最大の特徴は10振動/秒ハイビートムーブメント9S85にあります。グランドセイコーといえばハイビートと言う人も多いでしょう。現行機ではゼニス・エルプリメロ以外ではこのGSハイビートくらいしか有名な10振動キャリバーはありません。

これこそ最高の精度を求めたGSの一つの答えでもある訳ですから、ハイビートがGSのアイコンだという意見はもっともです。

一般に振動数とパワーリザーブはトレードオフの関係にありますが、この9S85はパワーリザーブも55時間を達成しており、実用機としての利便性も確保しています。

9S85もやはり分厚いキャリバーですが、高振動による機械への負担を考慮する必要性を鑑みれば、こちらはまだ言い訳が立つでしょう。それでもせめて5mmくらいにして欲しいですけどね。


裏スケなのは良いのですが、やはり装飾は簡素です。あくまでツール・ウォッチなのだという意思表示だろうか、と勝手な解釈すら生まれてきます。

また、3連リンクのブレスやクラスプはSBGR 253と同様の作りです。ブレスレットは腕に馴染むように緩い曲面を持つコマから成っており、地味ながら手の込んだ作りになっていますね。

ハイビート化によって価格が一気に上がり、定価62万円(税抜)となっています。これはロレックスのオイスター・パーペチュアル(OP)を上回る設定ですが、それをどう評価するかというのは一つのポイントです。

SBGH 201を選ぶという事は、ロレックス含む様々な選択肢の中から敢えてGSにします、という事ですからね。しかし、ダイアル仕上げの美しさとハイビート・キャリバーという特長があるので、十分な理由があると思います。



SBGM 221 / GRAND SEIKO



Ref:SBGM 221
ケース径:39.5mm
ケース厚:13.7mm
重量:88g
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:サファイア・クリスタル
ベルト素材:クロコダイル・レザー
バックル:三つ折式Dバックル
防水性:3気圧(30m)
価格:500,000円(税抜)

グランドセイコー機械式の現行ラインナップにコンプリケーションは多くありませんが、GMTに関しては豊富に揃えています。

中でもこのSBGM 221はアイボリー文字盤にダークブラウンのクロコダイル・レザーと一際クラシックな雰囲気を持っています。

若かりし頃なら、オッサン臭すぎて論外と思っていたでしょうが、30過ぎると中々どうして着用しがいのある時計だなと思います。

特にブラウン系のベルトが違和感なく使える時計はありそうでないんです。ビジネスパーソンならスーツに茶系の皮靴やベルトをする機会は多いと思うんですが、そうなると時計のベルトも同系色が欲しいですよね。


黒や白文字盤に銀色のSSケースだとどうしても茶系ベルトとは相性がイマイチです。理想は淡めのゴールドケースですが、名門ブランドのゴールドケースモデルは150-250万円程度とかなり高額になります。

SBGM 221は文字盤をアイボリーにする事で、茶系ベルトが完全にマッチしています。SSケースなので価格も抑えられて堅牢性も高いですから、ビジネス使いでは重宝します。

加えてGMT機能は海外出張のあるビジネスマンにとっては実用性を伴う数少ないコンプリケーションですから、一本で色んなニーズを満たしてくれる優れた時計です。

勿論、ダイアル仕上げがGS水準の非常にハイレベルなものである事は言うまでもありません。青焼きのGMT針もアイボリー文字盤に意外なほど馴染んでいますね。

かなり渋格好良い顔立ちです。

<Cal 9S66 / GRAND SEIKO>

型番:9S66
ベース:9S65
巻上方式:自動巻
直径:28.4mm
厚さ:-
振動:28,800vph
石数:35石
機能:センター3針デイト、GMT
精度:日差 -3/+5秒
PR:72時間

ムーブメントは9S65にGMT機能を追加した9S66になります。おそらく厚みは9S65よりあると思いますが、正確な数字は分かりませんでした。

ハイビートではなく、8振動/秒72時間パワーリザーブの機械になります。

地味ながらGMT機構が優秀で、ローカルタイムの時針をリューズ操作によって両方向にジャンプさせる事ができ、日付表示もこれに連動します。

ケースは裏スケになっており、ムーブメントを鑑賞することができる点も嬉しいですね。仕上げはあと一歩頑張って欲しいですが。


精度は言うまでもなくGS規格(日差 -3/+5秒)の高精度であり、防水性は若干心許ないですが、SSケースにサファイア風防なので実用性は高いです。

ボックスサファイア風防、ポリッシュ仕上げのケースに革ベルトのSBGM 221は、ブレスレットモデルとはガラリと印象が変わって落ち着きと知性を感じさせます。

意外にこうしたクラシカルな面持ちのGMTモデルは少ないので、その点でも個性が光ります。

またGMTというコンプリケーション搭載モデルでありながら、50万円という価格はGSの中では低価格帯であり、バリューも優れています。

コレクションに深みを与える一本でもありますし、もちろん単体でも使い勝手の良いかなりお勧めの時計です。

<ベルトは社外品へ交換>