「よう」
休日中のAさんの元に突然友人のBが訪ねてきた。玄関先で「お前に見せたい面白いものがあるんだ」とにやけ顔で言う。
Bは中学からの同級生であるAさんにたびたびおかしなものを手に入れたと言って見せに来る。だいたいはくだらない物なのだが、時々とんでもない物を持ち込む事があった。
「今日はどっちなんだ?」と思いながらBを部屋に上げる。
「早速だけど、これを見てほしいんだ」
そう言ってポケットからUSBメモリを取り出した。
「USB?あ、また前みたいにウイルスじゃないだろうな」
「大丈夫だって、とりあえず中を見てくれよ」
そう言いながらAさんのパソコンにUSBメモリを繋げた。
結婚式.png
結婚式.png コピー
結婚式.png コピー(1)
結婚式.png コピー(1)コピー
メモリの中には画像データとそれのコピーと思しきデータが3枚入っていた。Bは1番上のの画像データをダブルクリックした。
表示されたのはタイトル通り結婚式の写真だった。白いタキシードの男性とウェディングドレスの女性が満面の笑みで立っている。彼らにとって人生でおそらく最も幸せな日の1シーンを切り取った写真だ。
「このあたり、この2人の後ろに何かいるのがわかるか?」
新郎新婦の後ろあたりを指差す。そこには女性のようなシルエットが写っていた。髪の長いその女は結婚式という場に不釣り合いな薄汚れた赤色のワンピースを着ている。その女が新郎新婦の4〜5m後ろに立っていた。
もしかして心霊写真か?
「この女、ちゃんと覚えといてくれ」
そう言いながらBはコピーの方の画像をクリックした。
見たところ、先ほどの画像と同じ結婚式の画像だった。新郎新婦がいて、背後に赤い女もいる。そりゃそうだろう、さっきのデータのコピーなんだから同じなのは当然だ。
「わかるか?」
一瞬、何を言ってるのかわからなかったが、さっきBから言われた事を思い出したAさんはその画像に写る赤い女をよくよく見直した。すると、ある事に気が付いた。
赤い女が新郎新婦に少し近付いているのだ。
本当に僅かだがさっきの画像より女が大きい。立ち位置が少しだけ手前に来て、新郎新婦に迫っているようだった。
「これって、本当にさっきの画像のコピーなのか?」
なんらかの加工が入っているのではないか、Aさんはそう思った。そもそも元の画像も疑わしい、赤い女を合成したのかもと考えていた。
「間違いない、俺がコピーした画像だ。証拠を見せてやるよ」
そう言ってBは目の前で画像データをコピーして「結婚式.png コピー(2)」というデータを作り、データをダブルクリックした。
表示されたのは結婚式の画像、新郎新婦は変わっていない。だが、さっき見た画像よりも赤い女が新郎新婦に近付いている。
何かのトリックか?
だがファイルを見る限り普通の画像データに見える。何がどうなっているんだとAさんが考え込んでいると「なぁ」とBが声をかける。
「このままコピーしていくとどうなるか、興味ないか?」
確かにこのままコピーし続けると赤い女がどうなるのか、気になってはいた。赤い女はこの結婚に物申したいのではないか?どちらかに恨みがあるのでは?そしてこのままだと新郎新婦に何か起こってしまうのではないか?
こちらの答えを聞く前にBは画像データをコピーし始めた。
結婚式.png コピー(3)
結婚式.png コピー(4)
結婚式.png コピー(5)
………
コピーした画像データを見ると、赤い女はやはり少しずつ新郎新婦に近付いていた。
結婚式.png コピー(8)
結婚式.png コピー(9)
結婚式.png コピー(10)
………
ところが10枚目を超えた所で異変があった。赤い女が新郎新婦より手前に現れたのだ。どういう事だ?Aさんは思わずBと顔を見合わせた。
結婚式.png コピー(16)
結婚式.png コピー(17)
結婚式.png コピー(18)
………
コピーをするたびに赤い女は手前に近付いてきた。
結婚式.png コピー(27)
結婚式.png コピー(28)
結婚式.png コピー(29)
………
ここまでくると顔がはっきり認識できるくらい赤い女は近付いていた。その顔に表情は無く、何故かこちらをジッと見ていた。
結婚式.png コピー(45)
結婚式.png コピー(46)
結婚式.png コピー(47)
もうこの時点の画像では新郎新婦の姿は隠れてしまい、アップになった赤い女の顔しか写っていなかった。青白い無表情の顔。
結婚式.png コピー(48)
顔がアップになったデータをコピーして開くと、黒一色の画像が表示された。そこから何度か画像データをコピーしたが、何故か黒一色の画像のままだった。
「これで終わりって事か…この女、何者なんだ?」
「俺もわからないんだ」
この画像は結婚式に出席していた新郎の友人からBがもらったものなのだそうだ。その時に聞いたのだが、その彼も新郎新婦もこの赤い女に心当たりはないという。
誰も知らない女が画像に写っているだけでも不気味なのに、画像をコピーするたびにそれが近付いてくる。そして最後は真っ黒な画像になる。不可解な事が多過ぎた。
Aさんが呆然としていると「あ」とBが声を上げた。
「この画像、プレミアで繋げて見ないか?動画にしたら何かわかるかも」
Aさんは動画編集に凝っていた事があり、編集ソフトを持っていた。Bはそれを知っていたので、一連の画像を繋げて動画にする事を思い付いた。動画にすれば赤い女が何をしたいのかわかるかもしれない。
Aさんはササっと画像を繋げて1本の動画に編集すると、早速動画を再生した。
新郎新婦の背後にいる赤い女がこちらを見ながらゆっくり近付いてくる動画になった。女は周りに見向きもせず手前に歩いてきて、暗転。
これで終わりか、と思った時に暗転した画面が明るくなった。新郎新婦が立っている画像になった。最初に戻ったのか?と思ったが、よく見ると赤い女が何処にもいなかった。
「あれ?こんな画像あったか?」
もう一度動画を再生した。赤い女が少しずつ手前に近付いてきて暗転し女がいなくなる、まるでリングの貞子のように女がモニターから出ていったかのようだった。
その時、Aさんは背後に気配がしたような気がした。
後ろに振り返るとBもほぼ同時に振り返った。
だがそこには誰もいなかった。
「なんか、気配があったよな?」
「ああ、何かいたような気がした」
そう言って2人で何もいないはずの部屋をただただ眺めていた。