知り合いのKさんは怪談を聞くのが好きで、日頃からいろんな人から話を聞いては文章にまとめたり、実際にその怪談の現場に行ったりしていた。
ある時、SNSで怪談を募集すると、あるメッセージが目に止まった。
『闇バイトをしていた時に怪現象にあった』
闇バイトと怪談がどうつながるのだろう、気になったKさんは直接話を聞きたくなった。メッセージの主のプロフィールを見ると、同じ都道府県で意外と近くに住んでいる。ならばとすぐに応募してきた人に連絡を取り、数日後に直接会って話すことになった。
約束した喫茶店でKさんが待っていると、「ゴホッゴホッ」と咳き込む声が聞こえた。見ると、男性が喫茶店に入ってきた所だった。顔つきは若く見えるが、足が悪いのだろうか、杖をつき右足を引きずっている。その男性は足を引きずりながらこちらに近付いてきた。ああ、彼が応募してきた人か。
「Kさんですか、初めまして」
ヨシオさん(仮)というその男性は、軽く会釈すると、ゆっくり席に座った。
それなら少し取り止めのない雑談をし、早速Kさんが話を切り出した。
「DMで『闇バイト』をしてたってありましたけど」
「ええ、5年ほど前ですね。とにかくお金がなかったんですよね」
「そこはDMでも伺ったんですが、どう怪談につながるかイメージがわからないんです。教えてもらえますか」
軽く頷きヨシオさんは話し始めた。
当時、ヨシオさんとSNSで繋がっていた知り合いから「簡単で大金が稼げるバイトがある」と、とあるサイトを教えられた。実際にそのサイトを見ると「個人名義の通帳を作る→⚫︎千円」「テレアポ→1日⚫︎万円」など、いわゆる特殊詐欺に関係しそうなものがいくつも募集されていた。
その中で1つ、気になるものを見つけた。
『指定された場所まである物を届ける→50万円』
仕事内容とそれに対する見返りのギャップが大き過ぎる。怪しさ満点だった。だが、当時、ギャンブルなどで作った借金が原因で生活に困窮していたヨシオさんは、その金額の大きさに目がくらんでしまった。借金の事もある、背に腹は変えられないとそのバイトに応募してしまった。
数日後、自宅に手紙と車のカギ、そして小さな小箱が送られてきた。これが届け物か。その小箱はアンティークのオルゴールのような装飾がされていて、動かすとカラカラと音がした。何か入っているのだろうか。だが、開け方がわからなかった。とりあえず小箱は後にしよう、と入っていた手紙を見た。
⚫︎月⚫︎日の午前、⚫︎⚫︎駅前の駐車場にある車で⚫︎⚫︎山中腹まで行き、そこにある祠に小箱を供えて帰ってきて欲しい
と書かれていた。
それから手紙には地図があり、山までの道筋と祠の位置が書かれていた。その山はヨシオさんの住んでいる部屋から車で1時間ほどの山の中腹にあり、車があれば簡単に行ける場所だった。手紙に書かれてる通りなら、車の用意もしてある。
ただし、手紙には続きがあった。
・小箱は決して開けてはいけない
・供える前にその祠の前で小箱の上から自分の血を垂らし染み込ませる事
血?何故?と疑問に思いながらも、大金の代償としては軽いものだと深くは考えないようにした。
そして当日。
指定された駅前の駐車場に行った。手紙に同封されていたカギのボタンを押すと、1台のワゴンの鍵が開く音がした。それからそのワゴンに乗り込み、そのまま山へ向かった。
その道中、ヨシオさんは妙な感覚を覚えていた。それは、車に乗っているにもかかわらず、何故か人に見られているような感覚だった。車内にカメラでもあるのだろうか。そんな不安を抱きながら運転を続ける。
しばらく運転すると指定された山の駐車場に辿り着いた。車を降り、地図に沿って2〜3分歩くと祠はすぐに見つかった。
とっととすませるか
そう呟きながら持ってきたバッグに入れておいた小箱を探す。底の方で見つけ取り出すとカラカラと音が鳴った。そして血を出すために持ってきたカッターナイフを取り出す。その時、バッグに赤いシミがある事に気付いた。ヨシオさんが自分の手を見ると、既に小指から血が出ていたのだ。
ん、なんだ?山ビルにでも噛まれたか?
不思議に思ったが、まあいい、自分で血を出す手間が省けた、と小箱に血を染み込ませ、祠の前にしゃがみ込んだ。
祠の中は古い石が納められていた。その前に血を染み込ませた小箱を置く。これで完了かと肩を撫で下ろすと
オオオオオオオオォォォ………
突然、山に声のような音が地響きのように鳴り響いた。なんだ、山ではよくある事なのだろうか。辺りを見回すと
ピロリン
SNSの通知音が聞こえた。スマホには匿名で
『ごくろうさま』
とメッセージが届いていた。何処かから見ていたのだろうか、ずっと感じていた視線はこれだろうか。こんな気味の悪い所は早く立ち去ろう、と歩き始めると足が重い。気分とかではなく、実際に何故か右足が上手く動かない。おかしい、と足元を見た。
何者かの手が足首を掴んでいた。
うわっ!
思わず足を蹴り上げて振り払おうとしたがその手を振りほどく事はできない。それでもこの場を離れないと、右足を引きずりながら無理矢理走った。
何とか駐車場まで辿り着き、右足を見ると掴んでいた手はなくなっていた。ヨシオさんは急いで車を出してレンタカー屋まで走り、クタクタのまま帰宅した。
次の日、口座を確認すると50万円が振り込まれていた。
ただ、それからしばらくして右足が痺れだし次第に動かせなくなり、最終的に歩くのに支障が出るほどになり今に至るのだという。
俺は一体何をさせられてたんだろうか。
「話を聞いてくれてありがとうございました」
立ち上がり帰ろうとするヨシオさんがKさんの横を通り過ぎた時、右足に何か白いものが見えた気がした。
顔?
振り返って出口に向かっていくヨシオさんを見たが、引きずって歩く右足には何も見えなかった。