チュン…チュン……

高校からの下校中、1人道を歩いているとスズメの鳴き声が聞こえた。今にも消え入りそうな声、それが地面の方から聞こえる。足元に目をやると植え込みにスズメがうずくまっているのを見つけた。羽を怪我しているのだろうか、近付いても飛び立とうとしない。

最初は通り過ぎようと思ったのだが、今にも消え入りそうな声で鳴いているのを見過ごすことはできなかった。勿論、許可なく野鳥を保護するのは法に触れる事は知っていた。だが、人として無視はできず、カバンからティッシュを取り出し、そこにそのスズメを乗せて家まで持ち帰った。

「ただいまー」

玄関先にいた母親がこちらを見るなり

「あんた…それ、どうしたの…?」

と言う。

「道で動かなくなってて、何とかしなきゃって」

「いや、何を持っているかわかって言ってる…?」

母親は青ざめた顔をしていた。何を?と手に持ったスズメを見た。

スズメに首がなかった。

「うわっ!」

思わず床に落としてしまった。

スズメだと思って持っていたのは首のない死骸だった。いや、確かに声は聞こえていた。声が聞こえていたから気付いたのだ。だが、頭がないスズメが鳴けるわけがない。そもそもどうして頭がない?誰かがこんな事をしたのだろうか。

そう考えた所で「もしかしたらこのスズメは見つけて欲しかったのかもしれない」と思い至った。そして床に落とした死骸を拾うと庭に埋めて墓を作り丁重に弔った。

それから今まで寄り付かなかったスズメがうちの庭に来るようになった。庭に埋められたスズメに呼ばれているのかもしれない。
ビルの管理会社で警備員をしているAさんの話。

あるオフィスビルで深夜の警備をしていた時、どこからか風が入ってくる事に気付いた。もう館内には誰もいない、もしかして帰りに窓を閉め忘れたのだろうか。そう思って館内を回っていると屋上の扉が開いていた。

「誰だ、開けっ放しにしたのは」

そう思いながら階段を上がる。ノブに手をかけて扉を閉めようとした時に、外の屋上の手すりの前、そこに何かが落ちている事に気付いた。「何だろう」と気になって屋上に出て見に行く。

そこには、揃えられた靴と遺書らしき封書が置かれていた。

え、飛び降り!?

そう思ってAさんは慌てて手すりから身を乗り出して下を覗く。しかし、地面には誰かがいるようには見えなかった。それから1階まで降りてビルの周りを確認したが、誰か飛び降りたような形跡はなかった。

何だっただろう?

Aさんはそう思いながら屋上の靴と遺書を回収し、管理室に持ってきた。「一応確認しておくか」と遺書を開いたが、中には「もう疲れました、ごめんなさい」とだけ書かれていて、名前もなかった。

次の日、何かニュースになってるかもとテレビやネットニュースを調べたが、それらしい記事は見当たらなかった。


ただ、それから何度も同じような事が起こった。

見回りをすると、屋上に靴と遺書が見つかる。だが、飛び降りた形跡は見つからない。月に一度くらいの頻度で起こるのだ。

そのせいで、管理室には大量の靴で溢れている。革靴、ハイヒール、スニーカー、サンダル、ローファー、全部違う靴、そして違う筆跡の遺書。だが、何かの事件の証拠になるのではないか、そう思って捨てずに保管しているそうだ。

今、そのビルの管理室には70セット以上の靴と遺書が保管されている。もちろん、取りに来る人はいない。
「よう」

休日中のAさんの元に突然友人のBが訪ねてきた。玄関先で「お前に見せたい面白いものがあるんだ」とにやけ顔で言う。

Bは中学からの同級生であるAさんにたびたびおかしなものを手に入れたと言って見せに来る。だいたいはくだらない物なのだが、時々とんでもない物を持ち込む事があった。

「今日はどっちなんだ?」と思いながらBを部屋に上げる。


「早速だけど、これを見てほしいんだ」


そう言ってポケットからUSBメモリを取り出した。


「USB?あ、また前みたいにウイルスじゃないだろうな」

「大丈夫だって、とりあえず中を見てくれよ」


そう言いながらAさんのパソコンにUSBメモリを繋げた。

結婚式.png
結婚式.png コピー
結婚式.png コピー(1)
結婚式.png コピー(1)コピー

メモリの中には画像データとそれのコピーと思しきデータが3枚入っていた。Bは1番上のの画像データをダブルクリックした。

表示されたのはタイトル通り結婚式の写真だった。白いタキシードの男性とウェディングドレスの女性が満面の笑みで立っている。彼らにとって人生でおそらく最も幸せな日の1シーンを切り取った写真だ。


「このあたり、この2人の後ろに何かいるのがわかるか?」


新郎新婦の後ろあたりを指差す。そこには女性のようなシルエットが写っていた。髪の長いその女は結婚式という場に不釣り合いな薄汚れた赤色のワンピースを着ている。その女が新郎新婦の4〜5m後ろに立っていた。

もしかして心霊写真か?


「この女、ちゃんと覚えといてくれ」


そう言いながらBはコピーの方の画像をクリックした。

見たところ、先ほどの画像と同じ結婚式の画像だった。新郎新婦がいて、背後に赤い女もいる。そりゃそうだろう、さっきのデータのコピーなんだから同じなのは当然だ。


「わかるか?」


一瞬、何を言ってるのかわからなかったが、さっきBから言われた事を思い出したAさんはその画像に写る赤い女をよくよく見直した。すると、ある事に気が付いた。

赤い女が新郎新婦に少し近付いているのだ。

本当に僅かだがさっきの画像より女が大きい。立ち位置が少しだけ手前に来て、新郎新婦に迫っているようだった。


「これって、本当にさっきの画像のコピーなのか?」


なんらかの加工が入っているのではないか、Aさんはそう思った。そもそも元の画像も疑わしい、赤い女を合成したのかもと考えていた。


「間違いない、俺がコピーした画像だ。証拠を見せてやるよ」


そう言ってBは目の前で画像データをコピーして「結婚式.png コピー(2)」というデータを作り、データをダブルクリックした。

表示されたのは結婚式の画像、新郎新婦は変わっていない。だが、さっき見た画像よりも赤い女が新郎新婦に近付いている。

何かのトリックか?

だがファイルを見る限り普通の画像データに見える。何がどうなっているんだとAさんが考え込んでいると「なぁ」とBが声をかける。


「このままコピーしていくとどうなるか、興味ないか?」


確かにこのままコピーし続けると赤い女がどうなるのか、気になってはいた。赤い女はこの結婚に物申したいのではないか?どちらかに恨みがあるのでは?そしてこのままだと新郎新婦に何か起こってしまうのではないか?

こちらの答えを聞く前にBは画像データをコピーし始めた。

結婚式.png コピー(3)
結婚式.png コピー(4)
結婚式.png コピー(5)
………

コピーした画像データを見ると、赤い女はやはり少しずつ新郎新婦に近付いていた。

結婚式.png コピー(8)
結婚式.png コピー(9)
結婚式.png コピー(10)
………

ところが10枚目を超えた所で異変があった。赤い女が新郎新婦より手前に現れたのだ。どういう事だ?Aさんは思わずBと顔を見合わせた。

結婚式.png コピー(16)
結婚式.png コピー(17)
結婚式.png コピー(18)
………

コピーをするたびに赤い女は手前に近付いてきた。

結婚式.png コピー(27)
結婚式.png コピー(28)
結婚式.png コピー(29)
………

ここまでくると顔がはっきり認識できるくらい赤い女は近付いていた。その顔に表情は無く、何故かこちらをジッと見ていた。

結婚式.png コピー(45)
結婚式.png コピー(46)
結婚式.png コピー(47)

もうこの時点の画像では新郎新婦の姿は隠れてしまい、アップになった赤い女の顔しか写っていなかった。青白い無表情の顔。

結婚式.png コピー(48)

顔がアップになったデータをコピーして開くと、黒一色の画像が表示された。そこから何度か画像データをコピーしたが、何故か黒一色の画像のままだった。


「これで終わりって事か…この女、何者なんだ?」

「俺もわからないんだ」


この画像は結婚式に出席していた新郎の友人からBがもらったものなのだそうだ。その時に聞いたのだが、その彼も新郎新婦もこの赤い女に心当たりはないという。

誰も知らない女が画像に写っているだけでも不気味なのに、画像をコピーするたびにそれが近付いてくる。そして最後は真っ黒な画像になる。不可解な事が多過ぎた。

Aさんが呆然としていると「あ」とBが声を上げた。

「この画像、プレミアで繋げて見ないか?動画にしたら何かわかるかも」

Aさんは動画編集に凝っていた事があり、編集ソフトを持っていた。Bはそれを知っていたので、一連の画像を繋げて動画にする事を思い付いた。動画にすれば赤い女が何をしたいのかわかるかもしれない。

Aさんはササっと画像を繋げて1本の動画に編集すると、早速動画を再生した。

新郎新婦の背後にいる赤い女がこちらを見ながらゆっくり近付いてくる動画になった。女は周りに見向きもせず手前に歩いてきて、暗転。

これで終わりか、と思った時に暗転した画面が明るくなった。新郎新婦が立っている画像になった。最初に戻ったのか?と思ったが、よく見ると赤い女が何処にもいなかった。

「あれ?こんな画像あったか?」

もう一度動画を再生した。赤い女が少しずつ手前に近付いてきて暗転し女がいなくなる、まるでリングの貞子のように女がモニターから出ていったかのようだった。


その時、Aさんは背後に気配がしたような気がした。

後ろに振り返るとBもほぼ同時に振り返った。

だがそこには誰もいなかった。


「なんか、気配があったよな?」

「ああ、何かいたような気がした」


そう言って2人で何もいないはずの部屋をただただ眺めていた。
いつも読んで頂きありがとうございます。

前回アップした怪談で100話となりました。あなたの周りで何か異変はありましたか?

ここからは今後の更新方針についてのお知らせです。

これまでは毎週日曜日と水曜日に怪談を上げてきましたが、週2回はさすがに頻度が多かったですね、1年も続けるとネタ切れしてしまいました。

ですので、100話到達を機に不定期更新にしていきたいと思います。

ご了承のほど、よろしくお願い致します。
カスミさん(仮)の亡くなったお父さんが生前言っていた事にはカスミさんは本当なら1歳の時に死んでいたのだそうだ。

1歳になった頃、カスミさんは突然原因不明の高熱にかかったそうだ。うなされながら目が痛いのだろう、ずっと手で目を押さえていたという。

カスミさんを治すためにお父さんはありとあらゆる手段を取った。色んな医者に見てもらったり、祈祷やお祓い、さらには霊感商法紛いのものにまで手を出したそうだ。

そのおかげかはわからないが、カスミさんは何とか一命を取り留め、今があるそうだ。


14歳の頃、学校が終わった夕方帰宅していると通学路に子供を抱いた女性が立っているのが目についた。街路樹の下でまだ乳児だろうか、その小さな子供を抱いてあやすように女は揺れている。登下校時以外は人通りの少ない道だったので人がいる事に少し不思議に思ったが、特に気にも止める事もないだろうと横を通り過ぎ帰宅した。


その夜、夢を見た。

目の前に女が立っている。夕方見た女だ。赤ん坊を抱いてカスミさんを恨めしそうに見ている。


「かえして…かえして…かえして…」


女が言う。だが何を返せば良いのかわからないが。


「かえして…かえして…かえして…」


女は繰り返す。その時、女に抱かれた赤ん坊の顔が見えた。


目玉がない。


目があるはずの場所にくり抜かれたように大きな穴が空いていた。


そこでカスミさんは目が覚めた。身体中、汗でびっしょりとしていた。


その夢を見た頃から、カスミさんの視力が急速に落ち始めた。元々目は良い方だったが、3ヶ月もしないうちにメガネがないと周りが見えないほどになった。診てもらった眼科医は原因はわからないと言っていたが、カスミさんはそれが夢の中の赤ん坊の目が関係しているように思えた。


それからも何度も夢を見た。
そして夢を見るたびに赤ん坊の顔に少しずつ目のようなものができているように見えた。そしてそれに伴ってなのか、カスミさんの視力も段々と落ちていった。


「かえして」


あの女が返して欲しいのは目なのだろうか。だとしたら、あの赤ん坊の目が完全になった時、私の目は見えなくなるのだろう、カスミさんはそう思っている。



そういえば、と、カスミさんはふと思い出した事がある。

あの女が現れるようになったのは父が亡くなってからだ。


カスミさんのお父さんは何も教えてくれないまま亡くなった。母も何も知らないようだった。

「父は私を助けるために何をしたのでしょうか」

20歳になったカスミさんは日々えも言われぬ不安に苛まれているのだという。



この話で100話になります。

一晩に怪談を100話聞くと何かが起きると言いますが、皆さんの身に異変はありませんか?
ご無事でしたら、何よりです。

では、また。