Aさんから聞いた夢の話。

小学生の頃から、Aさんはとある夢を見るようになった。

気が付くと知らない家の廊下に立っていた。その廊下は居間と玄関の間にあるようで、Aさんは何故そこに立っているのかわからない。ただ漠然と「玄関に行かないと」という衝動を感じ、玄関に向かった。

玄関につき足元を見ると、そこには人間の足首より下が靴のように並んでいた。

大人の足、子どもの足、男の足、女の足。様々な足が左右1組になっている。ただ、Aさんはそこに足があるのが普通の事のように、特に不気味だとか感じなかった。

この夢は年に2〜3回、多い時は月1回ほど見るのだとそうだ。

小学校高学年の頃、体育の授業で水泳だった時の事だ。授業の前、更衣室で水着に着替えていると、ふと、横で着替えている同級生のBさんの事が気になった。しばらくBさんの事を眺めていて気が付いた。靴下を脱いだ同級生の足、それが夢に出てきた玄関の足に似ているのだ。

「どうした、何かついてる?」

見られている事に気付かれたAさんは、その夢の話をBさんにした。

変な奴と思われないか心配だったが、話が終わるとBさんは「何それ」と言った。ただ、それと同時にBさんの口角が少しだけニヤリと上がったような気がしたそうだ。まるで、夢の事を知っているかのように。


Bさんとは中学では別の学校になった。

それくらいの頃からだろうか、例の夢にBさんが出てくるようになった。

足より下は霞かかっているように見えない。玄関に並んでいる足を見ながら、夢の中のBさんは言う。

「何でだろうね」

あの時と同じようにニヤリと口角を上げた。


現実のBさんは中学の頃に他県に引っ越したらしい。連絡先は聞いていなかったのと、近しい友達に連絡先を知っている人がいなかったため、Aさんとは音信不通だった。

大人になった今でもAさんはその夢を見る。

「何でだろうね」

小学生のままの同級生は今もニヤリとしながら並んでいる足を見ている。「何でだろう」は何の事を言っているのか。今もわからない。

そして、他の足は誰のものなんだろうか、それもわからない。もしかして、これからAさんが出会う誰かの足なのだろうか。その誰かも夢の話を聞いて、ニヤリと笑うのだろうか。
Aさんの友人のショウタくんは最近彼女ができたみたいだった。

「みたい」と曖昧なのは、ショウタくん本人から直接聞いた訳ではないからだった。ある頃から会話の中に『タマキさん』という人の名前が頻繁に出るようになり、彼女なのだろうと勝手に思っていただけで、特にAさんは確証を持ってはいなかった。

そこで気になってある時に「彼女できたの?」とショウタくん聞いた。すると「え、なんで知ってるの?」と驚いたように答える。内心「それだけ会話に女子の名前が出てきてたらわかるよ」と思ったが、あえて口には出さなかった。

それからしばらくして、休日にショッピングモールで買い物をしていると、ショウタくんとばったり出会った。その隣には女性の姿。

ああ、これが例の『タマキさん』か

少しニヤニヤしながら見ていたと思う。すると、「あ、初めてだっけ」と紹介してくれた。

「この子が彼女なんだ。ミユちゃん」

ミユ?てっきり彼女が『タマキさん』なのかと思ったが。いや、苗字が『タマキ』なのかもしれない。それともまさか『タマキさん』は浮気相手か?

そんな怪訝そうな表情のAさんを察してか、ショウタくんが口を開く。

「いま『タマキさん』と一緒に住んでいて。ミユちゃんと付き合ったのも『タマキさん』のおかげなんだ」

ショウタくんの隣でミユちゃんは笑顔で頷いていた。付き合って間もない2人と一緒に他人が住むという事はあるのだろうか。

「その、『タマキさん』ていう人は共通の友達?」

「何言ってんの、『タマキさん』は『タマキさん』だよ、ほら」

そう言ってスマホの画像を見せてきた。水の入ったペットボトル。蓋は閉まっているが、中の水は少し減っていた。

「これが『タマキさん』」

笑顔で言うショウタくん、そしてその横で何も言わずに微笑んでいるミユさんがかえって不気味さを助長する。Aさんはそれ以上は追求できなかった。

それからしばらくして、ショウタくんは会社の転勤で他県に引っ越し、そのタイミングでミユさんとも結婚した事もあり、Aさんとは疎遠になった。そのため、ショウタくんがまだ『タマキさん』と一緒に住んでいるかはわからない。
知り合いのKさんは怪談を聞くのが好きで、日頃からいろんな人から話を聞いては文章にまとめたり、実際にその怪談の現場に行ったりしていた。

ある時、SNSで怪談を募集すると、あるメッセージが目に止まった。

『闇バイトをしていた時に怪現象にあった』

闇バイトと怪談がどうつながるのだろう、気になったKさんは直接話を聞きたくなった。メッセージの主のプロフィールを見ると、同じ都道府県で意外と近くに住んでいる。ならばとすぐに応募してきた人に連絡を取り、数日後に直接会って話すことになった。

約束した喫茶店でKさんが待っていると、「ゴホッゴホッ」と咳き込む声が聞こえた。見ると、男性が喫茶店に入ってきた所だった。顔つきは若く見えるが、足が悪いのだろうか、杖をつき右足を引きずっている。その男性は足を引きずりながらこちらに近付いてきた。ああ、彼が応募してきた人か。

「Kさんですか、初めまして」

ヨシオさん(仮)というその男性は、軽く会釈すると、ゆっくり席に座った。

それなら少し取り止めのない雑談をし、早速Kさんが話を切り出した。

「DMで『闇バイト』をしてたってありましたけど」

「ええ、5年ほど前ですね。とにかくお金がなかったんですよね」

「そこはDMでも伺ったんですが、どう怪談につながるかイメージがわからないんです。教えてもらえますか」

軽く頷きヨシオさんは話し始めた。


当時、ヨシオさんとSNSで繋がっていた知り合いから「簡単で大金が稼げるバイトがある」と、とあるサイトを教えられた。実際にそのサイトを見ると「個人名義の通帳を作る→⚫︎千円」「テレアポ→1日⚫︎万円」など、いわゆる特殊詐欺に関係しそうなものがいくつも募集されていた。

その中で1つ、気になるものを見つけた。


『指定された場所まである物を届ける→50万円』


仕事内容とそれに対する見返りのギャップが大き過ぎる。怪しさ満点だった。だが、当時、ギャンブルなどで作った借金が原因で生活に困窮していたヨシオさんは、その金額の大きさに目がくらんでしまった。借金の事もある、背に腹は変えられないとそのバイトに応募してしまった。


数日後、自宅に手紙と車のカギ、そして小さな小箱が送られてきた。これが届け物か。その小箱はアンティークのオルゴールのような装飾がされていて、動かすとカラカラと音がした。何か入っているのだろうか。だが、開け方がわからなかった。とりあえず小箱は後にしよう、と入っていた手紙を見た。

⚫︎月⚫︎日の午前、⚫︎⚫︎駅前の駐車場にある車で⚫︎⚫︎山中腹まで行き、そこにある祠に小箱を供えて帰ってきて欲しい

と書かれていた。

それから手紙には地図があり、山までの道筋と祠の位置が書かれていた。その山はヨシオさんの住んでいる部屋から車で1時間ほどの山の中腹にあり、車があれば簡単に行ける場所だった。手紙に書かれてる通りなら、車の用意もしてある。

ただし、手紙には続きがあった。

・小箱は決して開けてはいけない
・供える前にその祠の前で小箱の上から自分の血を垂らし染み込ませる事

血?何故?と疑問に思いながらも、大金の代償としては軽いものだと深くは考えないようにした。

そして当日。

指定された駅前の駐車場に行った。手紙に同封されていたカギのボタンを押すと、1台のワゴンの鍵が開く音がした。それからそのワゴンに乗り込み、そのまま山へ向かった。

その道中、ヨシオさんは妙な感覚を覚えていた。それは、車に乗っているにもかかわらず、何故か人に見られているような感覚だった。車内にカメラでもあるのだろうか。そんな不安を抱きながら運転を続ける。

しばらく運転すると指定された山の駐車場に辿り着いた。車を降り、地図に沿って2〜3分歩くと祠はすぐに見つかった。

とっととすませるか

そう呟きながら持ってきたバッグに入れておいた小箱を探す。底の方で見つけ取り出すとカラカラと音が鳴った。そして血を出すために持ってきたカッターナイフを取り出す。その時、バッグに赤いシミがある事に気付いた。ヨシオさんが自分の手を見ると、既に小指から血が出ていたのだ。

ん、なんだ?山ビルにでも噛まれたか?

不思議に思ったが、まあいい、自分で血を出す手間が省けた、と小箱に血を染み込ませ、祠の前にしゃがみ込んだ。

祠の中は古い石が納められていた。その前に血を染み込ませた小箱を置く。これで完了かと肩を撫で下ろすと

オオオオオオオオォォォ………

突然、山に声のような音が地響きのように鳴り響いた。なんだ、山ではよくある事なのだろうか。辺りを見回すと

ピロリン

SNSの通知音が聞こえた。スマホには匿名で

『ごくろうさま』

とメッセージが届いていた。何処かから見ていたのだろうか、ずっと感じていた視線はこれだろうか。こんな気味の悪い所は早く立ち去ろう、と歩き始めると足が重い。気分とかではなく、実際に何故か右足が上手く動かない。おかしい、と足元を見た。

何者かの手が足首を掴んでいた。

うわっ!

思わず足を蹴り上げて振り払おうとしたがその手を振りほどく事はできない。それでもこの場を離れないと、右足を引きずりながら無理矢理走った。

何とか駐車場まで辿り着き、右足を見ると掴んでいた手はなくなっていた。ヨシオさんは急いで車を出してレンタカー屋まで走り、クタクタのまま帰宅した。

次の日、口座を確認すると50万円が振り込まれていた。

ただ、それからしばらくして右足が痺れだし次第に動かせなくなり、最終的に歩くのに支障が出るほどになり今に至るのだという。

俺は一体何をさせられてたんだろうか。


「話を聞いてくれてありがとうございました」

立ち上がり帰ろうとするヨシオさんがKさんの横を通り過ぎた時、右足に何か白いものが見えた気がした。

顔?

振り返って出口に向かっていくヨシオさんを見たが、引きずって歩く右足には何も見えなかった。
差出人に覚えのないメールが届いていた。

タイトル:予定通り実行

前に言っていたやつ、とりあえず3つあるんだけど、どれからにする?焼くか蒸すか茹でるか、どれでもいい。全部同じでも良いし、別々にしたって構わない。ただどれかは選んでくれ。

終わったら外に運ぶんだ。誰にも見つからないようにな、見られたらちゃんと処置するんだ。そう、前に教えた通りにな。

外にも3つ用意した。好きなのを決めたら元の3つと一緒に車に乗せる。乗せたら自分もその車の助手席に乗ってくれ。乗ったらシートにアイマスクがあるはず。それをつけてくれ。そうしたら発車させる。大丈夫、危ない事はない。身の安全は保証する。

車が止まったら合図をするのでアイマスクを外してくれ。あとは最初の3つと後の3つを車から下ろして欲しい。重労働だが1人で全部やって欲しい。必ず1人でだ。運転手がそれを手伝う事ができないのは許してくれ。

全てが終わったら車に戻ってまたアイマスクをしてくれ。そこで望みの場所を言えばそこまで連れてくように言ってある。止まったらアイマスクを外して車から降りる、それで終わりだ。

ちゃんとできたか確認が取れたら入ってるはずだから、それはそっちで確認してくれ。


ここでメールは終わっていた。間違いメールだろうか、試しに返信してみたがエラーで返ってきた。
とある資産家夫婦が外出先から帰ると家が散らかっていた。

空き巣か?と慌てて警察に通報した。警察が来るまでに盗られた物がないか確認したが、どうも様子がおかしい。全く何も盗られてないのだ。結局、警察が来てから無くなった物がない事を言うと「人騒がせな」と呆れ顔をされ、警察は帰っていった。

半年ほどして、外出から帰るとまた家が散らかっていた。もしかしてと警察に言う前に確認すると、やはり今回も何も盗られていなかった。

それから1ヶ月後にも同様の事が起こった。

これはさすがにおかしいと、入口や庭、そして室内に監査カメラをつけた。

それからまた1ヶ月ほどした頃、帰宅するとまた部屋の中が散らかっている。これは監視カメラの出番と半ば待っていましたとばかりに録画された映像を見た。

資産家夫婦が出かけて30分ほど、怪しい人影が窓から侵入する様子が映し出された。やはり泥棒じゃないか、と続きを見るとどうも様子がおかしい。

空き巣が物色している。と、突然見えない所から何かが飛び出してきた。ウォークインクローゼットのある位置だ。出てきたのは服のようだった。それから色んな服がクローゼットから飛び出し、その様子に空き巣は慌てふためき逃げ出していった。

それで荒らさせていても何も盗まれていなかったのか。まるで、何者かが空き巣から我が家を守ってくれていたようだった。それが何かはわからなかったが、2人は思わず手を合わせて感謝した。

ただ、一方で荒らされてる事には変わりないので、せっかくなら片付けてくれたらいいのにと2人は思ったそうだ。