(前記事のつづき)
こうして我が家にやってきたジクレー版画・『ネズミの話 ゾウの耳』
その画家の牧野千穂さんのことを、ご紹介させてください。
長文なので、ご興味のある方だけ。(笑)

まずは幾多の作品のなかから、
心がほっこりする絵本をご紹介します。
『うきわねこ』


ある日えびおに、おじいちゃんから届いた、浮き輪
(えびおっていう名前がいいですよね。)

絵本のなかの美しいパステル画が
この物語を幻想の世界に誘ってくれるのです。

この絵本は、作者・鉢飼耳さんと牧野千穂さんのすばらしいコラボで出来ているんですが、
全ページが牧野さんの渾身のパステル画で埋め尽くされているんです。

パステルでここまで描けるのだと驚かされます。
うきわで空を飛ぶえびおと、おじいちゃん
あぁ、なんて素敵な世界なんだろう・・・
自分も浮き輪をつけて空を飛んでる気がします。
幼い頃、頭のなかにいっぱい描いては膨らんでたファンタジーの世界がここにあります。

えびおの足先、みてください。
あしぶらりん感が見事で、ほんとに飛んでる感じがします。

全編通して、
ねこ好きな人にはたまらない絵本かもしれません。
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そしてここからは、絵本とは対照的な印象の作品のご紹介です。
牧野さんの作品には、つけられた題名があるのですが、
それを知ることによって絵画の見方に変化があったりします。
そしてその題名による印象と、作品の視覚情報の両方が混じることによって、
牧野さんの発信された情報が、より明確に伝わってくる気がします。
一度、色々な作品とその題名をご覧になってみてください。
例えばこの作品の題名は『第九の日』
ベートーヴェンの歓喜の歌・・・そう思うと、
最初に絵を見て抱いたイメージとは異なるイメージが湧いてきたりして、
不思議です。
平和の鳩が描かれ、歓喜の合唱・・・
しかし、ちょっと考えてみると、
歓喜にしては、鳩が飛ぶにふさわしい背景ではないのです。
ベートーヴェンと言えば、勝利の晴れ間、
そんな青く輝くような青空は描かれておらず、雲をふくんだ薄い青空はキャンバスのごくわずか。
そのほとんどは、高く聳え立つれんがの建物が描かれ、
日陰のおそらくひんやり湿ったそんな空間を、鳩が飛んでいるのです。

こちらは 『ペンギンたちのためのEサティ』
これはまさにドンピシャの題名に思えてなりませんでした。
ここから、ジムノペディの第一番が聴こえてきそうになります。
北極や南極ではなく、冷たいピアノの上にいるペンギンたち・・・
本来の故郷から離れて生きる無情感がエリック・サティの明も暗もない音楽が
まるでBGMのように流れている、そんな絵に思えました。

↓こちらはどんな題名だと思いますか?
『ささやかな冒険』
なんともいえない可愛いネーミングです。
けれど、この絵には、ひと気がありません。
うさぎ以外に誰もいない空間で、人の家であろうにも家具もドアもカーテンもありません。
無機質なこの人家、そこに孤独な『現代』という時代がシンクロし、
そのなかで「冒険」というささやかな挑戦がなされていることに胸がキュンとし、
思わずこのうさぎを抱きしめたくなる衝動にかられます。

最後の絵は、 『サーカスの犬』
ルュドヴィック・ルーボディの『サーカスの犬』の日本語訳本の装画に描かれたものです。
小説は、孤独な男たちが、やせこけて一匹の野良犬と出会ったことから
自分たちの夢のサーカスを作ろうと立ち上がり、
陽気な語り口ながらも、どこか切ない物語で、フランス文学界で絶賛されたのだそうです。
私は小説を読んだことがありませんが、
この絵1枚あるだけで、享受し、想像する情報量は多く、
犬の従順さと郷愁が、見事に漂っている作品だと思います。

ということで、私のお気に入りの牧野さんの作品のご紹介でした。