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老婆は一瞬、李璃子に鋭い視線を置いた後、今度は眉を八の字に曲げながら
「痩せたわね、李璃子さん。どうしちゃったの?ガリガリじゃないの」
少し左右に揺れる上半身は落ち着かない様子だ。
「いえ、まあ、走ると誰でも痩せるんですよ」感情を出さないように平らな声で返す。
「どのくらい走ってるの?」
今度は足がモジモジ動き始めた、緊張しているのだろうか。
「5kmとかですかね」不自然な老婆墓の様子に気がつかないふりの李璃子に
「うわあ、すごいわあ、李璃子さん」
と言うと、李璃子に更に近づきながら皺で刻まれた顔を李璃子に寄せてくる。
「あのね、痩せすぎだから」
近づいた割にひそひそ声で話すかと思いきや、
割と大きめの声で圧をかけるような声を放つ。
びっくりして「え?いや、そんなでも」と否定する李璃子を遮るように
「そんなに痩せてどうするの、何を目指しているの?」
目を見開きながら更に声が大きくなっていく。
(何でこの人にこんなこと言われなきゃいけないの)と心の声をかき消すように
「あのね、はっきり言うと前の李璃子さんの方が良かったわ、ふわっとしていて
そっちの方が全然良かった」一気に老婆は捲し立てた。
「あ、はあ」返す言葉が見当たらない李璃子に
「あんまり頑張らない方がいいわよ、前の李璃子さんに戻ってほしいわ、お願い」
すがるような祈るような、それでいて何か高圧的に感情をむき出しにするその表情。
だが、同情はできない哀れさに
「いえ、そんな」
半分以上馬鹿らしい、いや、苛立ってきている李璃子だが、
その老婆からの逃げ道が見つからず李璃子の眉間に皺が入り始めてきた。
「お疲れ様です、何かマシンに不具合ありましたか?大丈夫ですか?」
と、少し甘めの明るい声がした方へ視線を向けると、
オリオン座の青年がニッコリと笑みを浮かべて立っていた。
「あ、」と李璃子が声を発するよりも前に老婆が
「あらあ、楠木くん」と今まで李璃子に向けていた空気をさっと着替えて、
うっとりするような目と粘り気と湿り気を混ぜた声を携えて、オリオン座の青年に近寄る。
クスノキっていうんだ、と李璃子が心の中でつぶやくと
楠木は李璃子に向かって「こんにちは、お久しぶりです」と言いながら、
大きめの甲を持つ右手を軽く挙げた。
つづく