こんにちは。

7月3日に広島県福山市立常石ともに学園を視察させていただきました。

レポートにしましたので、ご一読いただければ幸いです。

(1)視察の目的

ドイツのイエナ大学が発祥の教育方法であるイエナプランは、個を尊重する・社会性を育てる・子ども自身の意欲や意思を重視するといった教育方針で、公立小学校で導入した効果、課題等を学ぶ。

 

(2)教育施策年表

・広島県
2014
広島版「学びの変革アクションプラン」
主体的な学びを促す教育活動の充実
2018
「学びの変革」全県展開
2019
「個別最適な学び担当」設置
「イエナプラン教育」導入の研究
2020
「公立高等学校入学者選抜制度の改善」→2023年から実施
15歳の生徒に身に付けてもらいたいカ
自己を認識し、自分の人生を選択し、表現することができる力


・福山市
2015
1・2・3で取り組む「小中一貫教育」
自ら考え学ぶ授業
「大好き福山!ふるさと学習」地域一丸
2016
「福山100NEN教育」スタート
*日々の授業を中心とした全教育活動で21世紀型 スキル&倫理観を育み、行動化できる学びをつくる
2018
「子ども主体の学び」全教室展開〜学びが面白い!〜
2019
一人一人の個性や考え方を大切にする学びづくり
イエナプラン教育校設置準備
2020
固定観念・成功体験のリングから踏み出す「学びが面白い!」の深化→「子ども主体の学び」を加速
2021

リアル&デジタル

認知のしくみから学習方法を見直す「記号接地」

 

(3)イエナプラン教育

福山市では2019年からイエナプラン教育校設置準備が始まりました。異年齢でのクラス編成で、上から下の関係だけでありません。3学年が一緒だと学び直しもできます。それぞれのペースを尊重し、助け合い、一人一人の良さを見つける特徴があります。


 

精神

20の原則 1~5 めざす理想の人間像 6~10 理想の社会像 11~20 その実現に向けた学校像

人間について、どの人も …

1 世界にたった一人しかいない。(かけがえのない価値)

2 自分らしく成長していく権利を持っている。

3 自分らしく成長するために、他者、自然や文化、様々なものとの関係を大切にしなくてはならない。

4 その人にしかない人格を持った人間として受け入れられ、尊重されなければならない。

5 文化の担い手、改革者として受け入れられ、尊重されなければならない。

社会について私たちは …

6 それぞれの人がもっている、かけがえのない価値を尊重しあう社会をつくる。

7 それぞれの人のアイデンティティを伸ばす社会をつくる。

8 人と人との違いやそれぞれの人の成長や変化を受け入れる社会をつくる。

9 地球と世界を大事にし、よりよい社会をつくる。

10 自然や文化の恵みを、未来に生きる人たちのために、責任を持って使う社会をつくる。

学校について学びの場では…

11 かかわっている全ての人にとって、独立かつ共同して作る組織。 社会からの影響も受けると同時に社会にも影響を与える。

12 働く大人たちは、1から10までの原則を子どもたちの学びの出発点として仕事をする。

13 教えられる教育内容は、実際の暮らしの世界、知識や感情を通して得た経験の世界、社会が持っている文化の恵みの中から引き出される。

14 教育活動は、教育学的によく考えられた道具や環境を用意して行う。

15 教育活動は、対話・遊び・仕事(学習)・催しの4つの基本的な活動を交互にリズミカルに行う。

16 子どもたちがお互いに学び合い・助け合いができるように、年齢や発達の違う子どもたちを組み合わせたグループをつくる。

17 一人でできる遊びや学習と、グループリーダーが指示・指導する学習を交互に行う。

18 学習の基本である、経験・発見・探究と、ワールドオリエンテー ションが中心的な位置を占める。

19 子どもの行動や成績の評価は、成長の過程を見るという観点を大切にし、子ども自身と話し合いをする形で行う。

20 何かを変えたり、より良いものにしたりする活動を常に行うことが必要。そのためには、実際にやる、それについてよく考えることをいつも交互に繰り返す態度が大切。

 

(4)常石ともに学園について

・2022年 開校した常石ともに学園は、福山市立の公立小学校で入学は地域優先としていますが、校区はありません。子ども主体で、ここならではの学びを追及しています。

 

学校基本情報

1年生から3年生,4年生から6年生の3学年による異年齢集団を基本単位として教育活動を行います。

学級別児童数 159名

・低学年クラス 3クラス 23名~25名

・高学年クラス 3クラス 22名~20名

・特別支援(自閉・情緒)16名

・特別支援(知的) 8名

 

教員

・校長 1名

・教頭 1名

 

・低学年担当 6名

・高学年担当 6名

(このうち各1名ずつ教務主任・保健主事・生徒指導主事の他、研究主任を設置)

 

・特別支援学級 3名

(特別支援教育co 1名)

 

・養護教諭 1名

・事務主任 1名

・介助員 3名

・学校支援員 1名

・学校図書館補助員 1名

・校務補助員 1名

 

基本理念

21世紀型”スキル&倫理観”を、日々の授業を中心とした教育活動の中で育み、日常の様々な場面で行動化できる確かな学びにしていきます。 福山100NEN教育が描く未来は、 変化の激しい社会の中で「子どもたちは,自分の夢の実現に向かって、ローズマインド(思いやり・優しさ・ 助け合いの心)を胸に福山で、日本で、世界で、たくましく生きている。 そして、環境・貧困・人権・平和・開発等、現代社会の様々な問題を自らの問題として捉え、それらの課題解決のために、様々な人々と協働して、持続可能な社会を創造している。」というものです。

 

めざす子どもの3つの姿

・自立 学ぶ面白さを実感し、自ら考え学ぶ子

・共生 持ち味を生かし合い、協働する子

・自己実現 自己を認識し、自分らしく成長する子

 

めざす子どもの3つの姿に向け,身に付けさせたい21世紀型 スキル&倫理観は、次の7つ。

日々の教育活動全体を通して、これらの能力を高める取り組みを行っていきます。

物事に進んで取り組む・計画する・協働する・生み出す・プレゼン テーションする・リフレクションをする (内省)・責任を持つ。

 

学びの特徴

・年長者が年少者を助けたり,教えたりということが、より日常的に行われるようになります。

・個性や発達の程度の違いが当たり前のように受け入れられるようになります。

・教科等の学習では、学年を超えた学びの展開が可能となります

・学習指導要領に基づき、自ら学び、考え発見を促す。

 

時間割

・4つの基本活動である対話・遊び・仕事・催しをもとに教育活動を行います。

・機械的に時間を区切るのではなく、子どもの状況に応じて、活動の時間を延ばしたり縮めたりしながら行います。

・ リズミカルに活動が循環するよう、学校の日課を設定していきます。

4つの基本活動

1 対話(サークル対話)

個人を尊重する気持ちを育み,学級を信頼関係のある集団に育てていきます。サークル対話は円座になって行います。朝と帰りの時間だけでなく、一日の中で必要に応じて行います。

2 遊び

「遊び」そのものが「学び」であり、考える力や協働する力を付けていきます。

 一日の教育活動の中に「遊び」を入れていきます。様々な場所で、子どもがやりたいことを自由に選択して遊ぶことができる環境づくりを行います。

3 仕事 (子ども達は「仕事の時間」と言っています。

(ブロックアワー)子どもが学習計画を立て、自分で学び続ける力を付けていきます。子どもの状況に応じて学習を進めます。 自立学習やインストラクション(教師による指導)、学年の内容を超えた共通の問いについて考えることなどを、組み合わせて行います。

 

(ワールドオリエンテーション)生きた本物の題材から問いを見出し、探究し続ける力を付けていきます。教科の内容を関連付けて学習していきます。本物の問いと向き合い、異年齢集団で協働的に探究していくことで、教科・学年の枠を超えて学んでいきます。

1年間の活動をまとめビデオを次の年に見て参考にしています。

 


4 催し

子どもたちが喜びや悲しみなどを一緒に分かち合います。運動会や学習発表会などの行事だけでなく、誕生日のお祝いをしたり、その週の学びを簡単なプレゼンテーションや演劇にして発表したりします。他の学年や保護者,地域の方と共有したりすることも行います。

 

コア・クオリティ(大切にする関係性)

自分自身との関係

1.1 自分の長所と短所を自覚し、向上のために努力する

1.2 学習と計画づくりに自分で責任をもつ

1.3 自分の進歩を評価する

1.4 自分の発達についてリフレクションして話し合う

他の人との関係

2.1 異年齢グループの中で発達する

2.2 協働し、助け合い、振り返って考える

2.3 調和のある共同生活に責任

世界との関係

3.1 生きた本物の状況の中で学ぶ

3.2 周囲の環境を大切にする

3.3 学習内容をワールドオリエンテーションの中で応用する

3.4 リズミカルに組まれた日課に沿って学ぶ

3.5 自分自身の関心や問いから主体的に取り組む

 

教室

学園の設計者はオランダでイエナプラン教育の施設や長野県大日向小学校を視察して参考にしています。

子どもたちにとって居心地のよい「リビングルーム」であるとともに、多様な学びの形態に柔軟に対応できる空間をめざしています。先生と子どもたちが、いつでもサークル対話できる場所や、子どもたちがグループで作業したり、一人で学んだりしやすいように考えて設計しています。

職員室でも学習スペースがあり、子ども達は自由に学んでいます。

さらに学びが面白くなるオープンスペース。校舎1階部分の空間は,子どもたちの多様な学びが展開できる空間としました。子どもたちが催しを行ったり、のんびり読書をしたり、語り合ったりする場所です。

廊下には台があり机として使用できます。子ども達は自由に使っています。

 

 

 

 

 

その他

・一人一人の学びを尊重しており、子ども達とともにルールを決めます。一人一人の分かる大切にし、自分の考えを持てるように接しています。
・何もすることがない子どもがいないように注意している。

・答えでなく自分の言葉で説明 問うていくのが大切。「分からないことは、みんなで考えよう」を大事に。

・教科書は学年に合わせているので、業者合わないことがあり、教員で作成することもあります。単元のテストはします。
・保護者にポートヒアリング。3者懇談は、まず、子どもによく話を聞いてから、子どもが分からないところを自分で保護者に説明をします。

・新入学は、年度途中は受け入れていない
市内優先で1〜4年は枠が埋まっています。
・本読みは、本文だけ並べているだけでは、すらすら読めても分かっているとは言えない。作中に出てくる例えば、花の仕組みの話も広げて他教科の学習になります。
・数でつまずき、間違えても自分なりに考えている話ができることが大切。子どもの思い込みはなかなか変わりにくいいのですが、グループワークなどで意見を出し合いながら気づきを待ち、自分で発見し納得できることを重要視しています。

・地域企業などへの取材は聞きたいことを整理して取材し、中学、高校の教科書を参考にすることもあります。
・地域に出てインタビューをして取材しているので、住民も学園に関心が高まり地域からボランティアサポーターやイベント開催など、地域から自主的に協力の声があり、活性化にも貢献しています。

・近隣に造船所があり、環境、水素船、企業を通じて世界中の課題、問題を考えました。

 

・図書室の司書は月・火・水曜日の午前中に勤務。

・「常石日和」活動誌を発行し地域の方のも見てもらえるようにしています。
・運動会、種目を考え、それまでのものを作り替える
・支援学級はありますが柔軟に子どもに合わせています。子どもが主体で何時間いなければならないという考えはなく、個に応じた対応をしています。学びの場であるので教室では全体授業もしていました。
 

感想

2016年に市が掲げた「福山100NEN教育」にフィットすると考え、また、地元に小学校がなくなってしまう恐れがあった地域の企業から資金援助を受け2019年イエナプラン教育を取り入れた常石小学校が開校しました。
入学は市内優先ですが、全国から受け入れており校区はなく、定住された方もおられます。年度途中の入学は受け入れていないそうです。
イエナプラン教育は、子どもの主体性を育む教育で常石小学校では3学年が一クラスと異年齢で構成され、遊びそのものが学びと考え、自分で学びのテーマを見つけて取り組んでいます。
地域の企業にも積極的に取材をし、中学高校の教科書も必要なときは使います。
地域の方の協力も多く、地域と学校のイベントも活発に行われ、子どもを中心に地域活性化にもなっています。
一人一人の学びに合わせて、学習が進んでいる子どもが飽きないよう工夫し、対して、一回では聞いたことを覚えてないことは多く、学年の学習をしがちな授業を異学年にすることで学び直しができます。
子どもの可能性を高める、素晴らしい取り組みですので、尼崎市もですが、まず、各自治体の公立の小学校、中学校でモデル校を増やして、全国、どこでも主体的な学びが誰でも受けられるようになって欲しいと願います。