政界引退を表明した橋下大阪市長は無責任である | 岐路に立つ日本を考える

岐路に立つ日本を考える

 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


人気ブログランキングへ

 大阪「都構想」の是非を問う大阪市民による住民投票において「都構想」は否決され、橋下大阪市長は任期満了を待って政界から引退することを表明したのは、皆さんもよくご存知だと思います。

 さわやかな笑顔で権力に恋々としない姿勢を見せる橋下市長の記者会見を見て、そのあまりの潔さに感服された方もおられるかとは思いますが、私は大きな違和感を感じました。

 橋下市長としては、大阪「都構想」が否決されたら政界から引退するということを公言していた以上、「都構想」の否決を受けてああ言わざるをえなかったのだろうと思います。しかしながら、常に自分の主張が受け入れられるとは限らない政治闘争に一度負けたことで政治を放り投げるというのは、責任ある政治家として行うべきことではなかったとはいえないでしょうか。「都構想」をめぐる今回1回の投票と自らの政治家としての進退とを絡めるようなことは、責任ある政治家としては断じてやるべきではないものでした。今回の政治家引退表明によって、大阪維新の会に対しても維新の党に対しても壊滅的な打撃を与えることになることは、橋下氏に理解できなかったはずがありません。もし「都構想」に対してこれが正しいという信念を持っているのであれば、市民の疑念に応える形で再度「都構想」を練り直して出直すのが筋でしょう。あるいは、「都構想」の実現を断念したとしても、現在の松井知事との協力関係のもとで、「都構想」に近い行政を最大限実現していくために、エネルギーを注ぐべきだったのではないでしょうか。実際にはそうしなかったところに、橋下市長の「都構想」がもともと真剣なものであったのかどうか、疑われても仕方ないところがあったといえるかと思います。

 今回の「都構想」における戦いにおいて、大阪維新の会や維新の党の戦い方は、橋下市長の敗北会見の様子とはまったく違っていて、決してさわやかなものではありませんでした。例えば、内閣官房参与でもある藤井聡氏について、「大阪都構想について虚偽の主張を繰り返して」おり、「藤井氏の存在が広く周知されること自体が、大阪維新の会、大阪都構想について反対している政党及び団体を利することになる」から、「藤井氏が、各メディアに出演することは、放送法四条における放送の中立・公平性に反する」との主張を載せた文書を、各放送局に送付していたことが明らかになっています。これなどは、反対派の言論封殺を狙ったものであり、フェアな戦い方だとは到底いえません。藤井氏の主張に虚偽があるというのであれば、それを具体的に指摘すべきところですが、そうしたことは何もないまま「虚偽の主張を繰り返している」とのレッテル張りは、あまりにお粗末だと思わざるをえませんでした。

 また、例えば大阪維新の会がウェブ上に公開している「都構想のQ&A」の「都構想で住民サービスは良くなるの、悪くなるの?」の回答として、「現在は住民サービスを担う組織は市役所に1つしかありませんが、都構想で5つに増えます。 例えば現在は1つの教育委員会で500校もの小中学校を所管しているので、全く現場を見られていません。児童相談所も1つしかなく対応不可能な状態です。その結果、大阪市は、いじめ、体罰、児童虐待などが全国ワーストです。同様に現在は、子育て世帯を支援する子ども青少年局も1つ、高齢者の皆さんをサポートする福祉局も1つ、働く現役世代をサポートする経済戦略局も1つで260万人へ住民サービスを行っており、全く足りていません。都構想になると、各区にこれらの組織が設置されて5つに増えるので、子育て世代、現役世代、高齢者の支援など、医療・福祉・教育サービスが格段に強化されます。 」というものを載せています。まじめに答えているつもりなんでしょうか。教育委員会の数が1つでもそこで働く職員が多ければ、現場をきめ細かく見ることは十分可能でしょう。児童相談所の数を増やしたり職員の数を増やしたりして、いじめなどの問題に積極対応することは、大阪市を廃止して特別区を設置しないとできないことではないはずです。今のままの大阪市でもいくらでもやり方はある話を、「都構想」が実現できないとできない話にすり替えていると言われても仕方ないところでしょう。
http://oneosaka.jp/tokoso/q-and-a1.html

 別の例を挙げましょう。大阪維新の会がウェブ上に公開している「大阪のひどい現実」の中には「こんなに低い世帯収入」という棒グラフがあります。そこには年収200万円に満たない世帯が、東京特別区が12%、名古屋市が15%、横浜市が10%であるのに対して、大阪市は26%というのが掲載されています。「都構想」を実現していない大阪はそのために低迷していると言いたいようですが、ちょっと待って下さい。ここで気をつけたいのは名古屋市も横浜市も大阪市と同じ政令指定都市であって、大阪市と置かれた立場は変わらないはずです。「都構想」の必要性を示す資料としては、これは冷静に見れば説得力に欠けるものです。

 同じ「大阪のひどい現実」の中には「とまらない経済低迷」というのもあり、ここで述べていることもかなり問題があります。平成13年度から見て全国平均でGDPの縮小が4.5%であるのに対して、大阪市は16%もあるということを打ち出して、改革の必要性を訴えていますが、ちょっと待って下さい。大阪府知事、大阪市長としてこの7年以上大阪の行政を引っぱってきたのが橋下市長と松井知事ではなかったでしょうか。その中でGDPの拡大につながらない政策、つまり大阪を活性化できない政策ばかりを二人が打ってきたということをこの数字は物語っていると捉えるべきでしょう。

 まだまだ突っ込みどころは満載ですが、私が言いたいのは、だから「都構想」はダメだということではありません。大阪維新の会・維新の党が行ってきた議論が、大阪をよくするためにどこをどう変えるべきかを真面目に正直に議論してよりよい方向につなげようとするものではなく、自陣営を有利にするためにはウソやハッタリを展開したって当たり前というものではなかったかと思うわけです。橋下市長はこうした戦いぶりについて「民主主義」だと大きく持ち上げましたが、得たい結果のためにウソとハッタリを平然と展開するのは、あるべき民主主義の姿とは言えないのではないでしょうか。

 そうした「勝つためには何でもアリ」のやり方の中で「負けたら政界引退」を公言する作戦に打って出て、引っ込みがつかなくなったというのが、全ての顛末を物語っているように思います。橋下市長は自分に対する印象を良くするために、敗北後の記者会見でも大芝居を打ち、その結果として橋下氏を信頼して集まって来た大阪維新の会と維新の党の人々に壊滅的な打撃を与えました。それが潔い態度として評価に値するのかどうか、冷静に考えてもらいたいと思います。

 念のために言っておきますが、自陣営を有利にするためにはウソやハッタリを展開するというのは、「都構想」に反対する側にもある程度当てはまるところがあり、何も維新の側だけがおかしいわけではありません。

 私が言いたいのは、橋下氏の姿勢が戦いに敗れたまじめな改革者の潔い態度などでは断じてないということです。記者会見での笑顔は大芝居にすぎません。彼や彼のような人物を持ち上げるようなことは、私たちは決して行ってはいけないと、私は思います。


人気ブログランキングへ