胸にトゲが刺さって、チクチクどころか、ジクジクと膿んで腫れてしまっているような、痛みをふとした瞬間に感じる。治らず、ずっとそこにある。
彼女が自死してから、もうすぐ◯年。
多量の睡眠薬と酒を飲んで、天国へ旅立ってしまった。3回目に希望が叶ってしまった。そんなに天国へ行きたかったのか?
いや、違う。ただ、辛くて、ココから逃げたかっただけ。ひとりで居ても、家族と居ても、孤独だった。愛して欲しい、愛して欲しい人から愛されたい、愛し愛されたい、仲睦まじい夫婦になりたい、そんな彼女の願い、望み、欲望、は叶わなかった。子どもがいる夫婦なのに。仲が良い夫婦にしか見えなかったのに。
パパとしては、優しくて良い父親だ、と言ってた。でも子どもを叱らないから、私ばかり叱って、怖い母親だと思われてる、損な役をやらされてる、パパはズルい、と言ってた。そして、夫としては? 妻として求められてない、と言ってた。確かに家族だけれど、それだけ、って。母親だけれど、妻で女だ、女として愛されたい、というのは何もおかしくないと思う。私もそう思うから。
彼女の欲しいもの、埋まらない心、寂しさ、孤独、に寄り添いたかった。せめて、私達=友がいるよ、ひとりじゃないよ、と安心して欲しかった。でも彼女が思い止まる重しにはならなかった。亡くなる2週間前は元気だったのに。決行する前に思い出して、電話やLINEを貰えなかった。何があったんだろう? いや何もなくて、ただ永遠に続くようなこの日常に耐えられなくなったのか? 家族と共に暮らしていても、それぞれが部屋に居たら、家の中でもひとりぼっちだ。
彼女の誕生日が近づく。そろそろ年末、そわそわした忙しない気分が高まる。観光地の賑わいを報じるTV。恋人達や、家族が楽しそうに笑ってるイメージ。「私は寂しくてどうしようもないのに。幸せじゃないのは私だけ? 満ち足りたいのにどうしたら良いの? 何も感じなくなれば良いの?ただTVを見ていても孤独を感じてしまう。」毎日しんしんと降り積もるような孤独を、どうしたら減らせたのだろう?
子ども達には言えなかったのだろう。孤独、不安、不満。ちゃんとしている母親として見られたかった、と言ってた。2回、多量の睡眠薬と酒を飲んで意識不明で救急搬送されて助かったから、あと残りの人生はご褒美だと言ってた。子ども達に、もう迷惑はかけない、って。
家族へのプレゼントを買い揃え、クリスマスケーキを予約して、全て手配を済ませて、彼女は旅立った。完璧に準備したからもう大丈夫、と安心したのか? 帰宅した子どもが彼女を見つけた。これで3回目。あの子は何を思ったのか? 私は、お母さんを思い止まらせる存在ではなかった?私は、お母さんの大事なものではなかった? 私のために生きる、という選択をお母さんはしてくれなかった? ああ胸が苦しい。
遺書はなかった。自死した人のほとんどは遺書がないのだと何かで読んだ。それほど突発的なのか? 一時の激しい感情で決行するから、遺書を残そうとすら思わないのか? 家族がどう思うか?とか、その瞬間にそんなこと考えられるなら、そもそも自死なんてしないのか・・・
残された家族は辛い。友も、辛い。どうして死を選んだのか? その気持ちを知りたくてずっと考えている。もっと何かできたのでは? してあげられたのでは? とずっとループしている。最後のあなたの気持ちが知りたい・・・これで終わりにできる、と穏やかにすっきり旅立っていたなら、良い。寂しさと悲しみで泣きながら旅立っていなければ、良い。
そういえば、処方された睡眠薬を服用しないで、取っておいた? なぜあんなに多量の薬があったのか? と家族が不思議がっていた。不眠だと医者に説明して睡眠薬を処方してもらい、飲まずに貯めておく。いざというときのために? うつ病だったから、ずっと、自死する準備をしていたのか? そうだったなら、計画は成功。彼女はうつ病に負けたのか? それとも、長年の望みが叶ったのか・・・