妻の陣痛が始まった。時計を見ると午前4時、
着替え済ませ妻を車に乗せ堺の実家から一路、
吹田の病院へと車を走らせた。


まだ薄暗い早朝という事もあり
阪神高速は渋滞することなくスムーズに流れていた。


40分ほどして病院に到着しすぐに病室へ入る妻に付き添った。


陣痛の間隔がなかなか縮まらない中、
刻一刻と時間だけが過ぎていった。
陣痛の痛みに耐える妻の手を握るぐらいしか、
出来る事がない男は、何と無力なのだろう。


ただ、僕には、一般の父親になる男性と違い
いくつか妻に出来る事があった。
ミラクルタッピング®エネルギーマイスター®
僕には使える。


陣痛の痛みが少しでも和らぐよう
妻に痛みを緩和するタッピングし続ける。
タッピングを続けることで陣痛はかなり緩和されるようで、
妻は少しの間ではあるが、熟睡しているようにみえる。


病室に入ってから徐々に陣痛の間隔は短くなってはきたが
そのまま宿泊することに、私も付添いとして病室に泊まり込む。


翌朝になっても生まれる気配がないまま時間が過ぎていく。
午後から仕事が入っているので、食事もかねて軽く汗を流しに
近くの銭湯へ車を走らせる。


シャワーを浴びている間に妻よりの
メール「分娩室へ移動する」と一言、
私は、急いで着替え病院へもどることになる。


看護師さんに場所を聞き分娩室の扉をあけた。
よかったまだ、生まれていなかい。
私は胸をなでおろし分娩室へ入る。


陣痛の間隔が短くなり娘を産むために息む妻、
タッピングもさすがに使えず僕はただ見守るしかできない、
やはり男は無力だ。

しかし、前日からのタッピングが功を奏しているのか
妻には体力に余裕があるようだ。
がんばれ、声をかけ続ける僕。

少しずつではあるが出てきている。
様子を見に扉を開ける院長先生が入ってきて
「こちらより向こうのお母さんの方が先になりそうだね」
と穏やかに看護師さんや助産師さん声をかけ後ろを向き扉に手をかけた時、
助産師さんが振り返り院長先生にむかって
「もう、頭が出てきますよ」
院長先生は開けかけた扉を閉め妻のもとへ駆け寄り、
助産師さん看護師さんへと何かの指示を始める。


穏やかな御昼前の時間が一気に張り詰めていく
息む妻に合わせるように娘の姿が見えた。


あれ?泣かない、


一瞬、息をのむ。

その直後、産声が分娩室に響き渡る。

時計を見てみると私が分娩室に入ってから10分ほどしかたっていない。
「おめでとうございます」
助産師さん、看護師さん院長先生からの暖かい祝福のことばをかけられる。
僕も妻の手を握り
「お疲れ様、ありがとう」
助産師さんが娘をタオルでくるみながら、
「ご主人、お子さんを抱っこしてあげて」
言われるがままに、娘を抱きかかえる。

手が震えている。腕の中で確かに脈打つ小さな命。
僕の腕の中で気持ち良さそうに眠る娘に
「ありがとう、生まれてきてくれて」

娘と妻と三人で記念撮影、僕は今まで生きてきた中で最高の笑顔を向ける。
妻が落ち着きを取り戻し、病室へ戻る準備をしながら、
私は両親と知らせたい人たちの為に、SNSへ記事を載せた。
iPhoneには次々とコメントが寄せられている通知が入る。
病室に移動した妻を見届け僕は、病院のドアをあけ、車に向かった。
空を見上げると少し曇っている。ちょっと肌寒いが、火照った体を冷やすにはちょうどいい。


あれからもう1年、娘は僕の足元に来て笑顔で僕を見上げる。
娘を抱きかかえあやしていると、妻の声が聞こえてきた。