はい、ボクはサーカスのピエロです。

ボクの所属するサーカス団には10人のピエロがいますよ。その中でいつでもボクの人気ランキングは最下位です。
パシリピエロのボクなのです。
ショーのステージに立つ時間はいつもたったの3分間で、先輩ピエロたちに笑いを取られたあとの出演で観客の子供たちは全然笑ってくれません。
あくびをしたり、席を離れ走り回ったり後ろを向いておしゃべりしたり、お菓子を食べたり…勝手してます。

ボクは悲しいピエロです。

ショーが終わると、片付けてお掃除です。
あっ!先輩ピエロたちが来ました。

「おい!なにモタモタ掃除やってやがるんだ!この、うすのろピエロが!!」

また先輩たちに蹴飛ばされました。
でも平気です!
ボクはピエロだから笑顔で

「は~~い!うすのろピエロです。先輩方お疲れ様~」ってね。

先輩たちが帰った後はボクの時間ですよ。さあ、玉乗りの練習だよ。
何度も繰り返し、大玉と格闘します。
玉乗り位出来なくちゃピエロ失格ですからね。
だけど、何回やっても上手に出来ません。

やっぱりボクはダメピエロです…

その日はいつもよりたくさんの子供たちが観にきてくれました。
ボクは子供たちの笑顔が大好きです!

「ピエロは子供の笑顔で本物のピエロになれるんだよ!!」

って尊敬する先輩ピエロに教わりました。
ボクも早く子供たちの笑顔で本物のピエロになりたいです。

「よし、頑張るぞ!」

ってステージに立って玉乗りに挑戦したのに、また失敗。すってんころりん、あいたたた…
痛いのなんて何でもないけど、子供達はちっとも笑ってくれません…トホホ
来る日も来る日も失敗ばかり。
先輩ピエロたちなんかわざと失敗して笑いを取っているのに、ボクがそれやると失敗→失笑です。


今日からアメリカ公演です。
ショーの前のお掃除の時に一番意地悪な先輩ピエロがバケツの水をボクの頭にかけました。
ボクはずぶ濡れです。
悔しくて悲しくて…ボクの顔はバケツの水と涙でグチャグチャです。
その上、先輩ピエロは

「団長、こいつ大事なステージに水こぼしちゃいましたわー」と。

団長は怒り狂い

「なにやってんだー!このクソピエロ!!お前なんかクビだー!」

ボクは本当にダメピエロです。

先輩がやったって言い返す事もできないのですから…


もうダメだ・・・
悲しくて、悔しくてトボトボと街中を歩いていると一軒のハンバーガー屋さんにたどり着きました。
その店のドアには

店員急募!!年齢、経験問わず。。。

ボクはその張り紙を頼りに店の中へ入り店員募集の件を店長に尋ねてみました。
すると店長さんは

「今から働いてください。急だからハンバーガーを作るのは無理だね。
外で風船配って、宣伝しなさい!笑顔でね!笑顔だよ!!」って。

早速、ボクはたくさんの風船を持って店の外へ出ました。

今日は晴天です。
風がものすごく心地いいです。
ボクは風船を抱えてきれいな青空を見上げました。
(あぁ、こんな空を見たのは何ヶ月ぶりだろう・・・あぁ・・・)
すると小さな女の子が

「ピエロさん!風船ちょうだい」

と、とびっきりの笑顔で話しかけてくれました。
ふと、我にかえり

「あ、ごめんごめん!はい!風船だよ!!」

気が付くとたくさんの子供たちがボクのところへ風船をもらいに来てくれました。


ボクのまわりはいつでも笑顔の子供たちでいっぱいです。


ボクの名前は

‘ドナルド’

今はハンバーガ屋さんで働くピエロです。
制服は黄色のサロペットに赤白ボーダーTシャツですよ。


ボクは子供たちの笑顔が大好きです。


本物のピエロです。


「どうも、この頃胃の調子がおかしいよ、重苦しいし、なんか変だよな!
今週の定期健診の時、医者に相談するかな」

(なに言ってるのよ!グルメ気取りで愛人と遊びまわっているくせに・・ 胃が重いのなんてあたりまえじゃないのよ!!)

遠距離恋愛を経て結ばれて5年になります。
いわゆる、‘イケメン’の夫は交際当時からモテモテでした。
私は、ライバルたちに勝ちたい一心で結婚にまでたどり着いたのです。
結婚式の当日から夫の女癖の悪さに悩まされてきた私には夫への愛情なんて微塵もなく、5年経った今では憎しみしかありません。
次から次へ、女をとっかえひっかえ・・・
離婚・・・
それは、もう少し先です。
今はまだ離婚の為の準備段階で、証拠品の押収や慰謝料請求の時に有利になるようにいろいろと動いているのです。
夫は週に3日は愛人のマンションやホテルに外泊します。
清々します!私は夫を愛していないし、好きな人がちゃんといますからね。


それから3週間ほど経ったある日、夫は今日は愛人宅に泊まらずに帰宅して、帰ってくるなりお風呂に入るのにお風呂場へ直行です。
きっと、愛人とのセックスの獣臭を感じ取られるのが嫌だったのでしょうか。
私はいつものように夫の鞄と携帯のチェックです。
無防備で軽率な夫は携帯にロックもせずにたくさんの写メをファイルに残しています。
私はその写メや、ラブラブハート絵文字メールを自分の携帯に転送することが日課になっています。もちろん送信履歴なんて削除してしまうので決してバレることなんかありません。
今夜も新しい写メを写したようです。
女はベッドの上でアグラをかき煙草を吸いながらコーヒーを飲んでいます。
(下品なおんな!!)でも、そんなことどうだっていいのです。
私は夫を愛していませんから。
次に夫の鞄を開けると封筒が出てきました。
先日の健康診断を受けた病院の封筒です。あきらかに開封されておりません。
このところ、仕事も忙しく開封する暇がなかったのでしょう。
私はその封筒をサッと鞄から抜き取り、夫が寝静まるのを待ち開封してみました。


「胃がん」の疑い!!

その封筒と結果報告書は破いて生ゴミと一緒に捨てました。
どうせ、見もしないで忘れているのだから、わかりゃあしません!
夫は毎年、健康診断の結果などみたこともないのです。

そういえば、夫は最近めっきり痩せてきました。
食も進まないし・・・
昨日も一昨日も朝食を食べません。。。。
相変わらず胃が重苦しいらしい・・・・

次の日に私は仕事を休み、家のPCでありとあらゆる「胃がん」の項目を検索をしました。
図書館へも行き「胃がん」の書物を読み漁りました。

夫は胃がんに間違いない!!

症状の一つに「嗜好が変わる」と。
子供の頃から漬物が大嫌いで絶対に食べられなかった夫が一週間前頃から、たくあんを丸ごとボリボリとむしゃぶりかじっているのです。

胃がんって胃薬を飲んで痛みを止めてしまうと発見が遅れ、病状が進むので、痛み止め作用の胃薬は厳禁なんです。


しばらくしたある日、私は近所の100円ショップで小さなスリ鉢セットを買いました。ゴマすりグッズです。

その夜から、私はそのスリ鉢に市販の強力痛み止め胃薬を入れて細かく滑らかにスリあげるのです。

ゴリゴリゴリゴリ・・・・

今日も夫は愛人宅で寛いでいるのでしょうか。

ゴリゴリゴリゴリ・・・

その音が、夫不在で私だけの静まり返った部屋に鳴り響きます。
たっぷりすりおろしたその粉末は夫の食事に処方されます。
胃の痛みを和らげる大切なお薬ですよ!

夫はますます痩せてきました。
ですが、胃の不快感や重みはあるようですが痛みはそんなに無いみたいです。


夏も近いある日の夜、私はいつものように

ゴリゴリゴリゴリ・・・

そのとき、居間の電話が鳴りました。

『今井高史さんのご家族の方でしょうか?加藤総合病院ですが、ご主人様が大喀血を起こしまして当病院に搬送されてまいりました。只今、ショック状態で意識不明です!大至急病院までおいでください。』

おそらく、夫は愛人宅で倒れたのでしょう。

私はとても冷静でした。
落ち着いて部屋の中を片つけました。
スリ鉢セットは病院へ向か途中で捨てようと思ってます。

ゆっくりとタクシーを呼びました。

金銭感覚の皆無の夫も生命保険だけはかかっていて、死亡時の保険金はかなり多額の金額のはずです。
タクシーの中でつい、口元から笑みがこぼれてしまうのを必死でおさえました。
この先、夫に先立たれた哀れで悲しい人妻を装わなくてはならないのですから・・・
5年間の屈辱をはらせる時が今、まさに訪れようとしているのです。


タクシーが病院の玄関口に着くや否や、私は慌てたふりをして病院内のICUまで走りました。
ICUの入り口であの女が泣き崩れ「ごめんなさい!ごめんなさい!!」と。間違いなく、あの写メの下品なアグラ女でした。
私は眼を合わせることもなくICUの中へ入りました。



さあ、今から私は女優になるのです!