その日、仕事が終わってから
約束通りに、菩提樹の下に向かった

だけど
チャンミンの姿は、まだ無かった

昨日と同じ
外灯の灯りに照らされて
昼間とは違う姿を見せる菩提樹

昼間は、緑が生い茂り
優しい木陰を作るこの木も
夜に見ると、枝が灯りを遮り
辺りを物寂しく感じさせる…

そうやって、いろんな姿を見せながら
ここに在り続けてくれたこの木が
俺たち2人を
ここに導いてくれたんだ…

木の下に座って
昔の事を思い出していた

初めて出会った時
陽の光の中のチャンミンは
天使の様に可愛かった…

今のチャンミンは
その頃の面影を残したまま
想像以上に、美しくなり
きっと周りの視線を釘付けにしてしまう
そんな、華やかな雰囲気さえも
身につけている

男のあいつに…
こんな事を言うと怒られるかな…?
心の中で、そう思いながら
菩提樹を見上げて、笑みを浮かべた

ふと、人の気配を感じて
そちらを見ると
チャンミンが微笑みながら
俺の方を見つめて立っていた

「ヒョン…待たせてごめん」

そう言うと、俺の隣に腰を下ろした

菩提樹の木の下に
2人並んで座るのは…
本当に何年ぶりのことだろう…

「驚かすつもりはなかったんだけど…」

チャンミンは
朝、いきなり出会った事を
気にしているようだった

「本当…ビックリしたよ
看護師になってたんだな…」

「う…ん
医者になる事も考えたけど
それだと、もっと時間がかかってしまう

早く、ここに戻って来たかったから
看護師になることに決めたんだ…」

俺とは違って
病気を治す所から
始めなければならなかった

たくさん、努力をしたんだよな…?

チャンミンの横顔を見つめて
肩をそっと抱き寄せた

「よく…頑張ったんだな…」

いろいろ…言ってやりたい言葉は
たくさんあったけど
胸が詰まって、そう言うのが
精一杯だった

チャンミンはそんな俺の顔を
じっと見つめ続けていた

しばらくして
すっと、視線を菩提樹に向けて

「ヒョン…菩提樹の花言葉
知ってますか?」

唐突に、そんな事を言い出した

「花言葉…?
木にもそんなものあるのか?」

チャンミンはふふっと笑って
振り返って、俺を見た

「ありますよ…
樫の木には勇気、力
プラタナスには天才、非凡
まだまだ、いっぱい
あるんです…」

チャンミンの瞳が
外灯の灯りに反射して
薄茶の綺麗な輝きを放っている

その瞳に吸い寄せられるように
チャンミンの顔をじっと見つめた

チャンミンも、視線を逸らさずに
俺の事を見つめ返している

そして…チャンミンは
ゆっくりと話し出した

「菩提樹の花言葉は…
結ばれる愛…
そんな意味があるそうです」

チャンミンのその言葉に
呼応するように
急に風が吹いて
菩提樹の枝が大きくしなり
ざわざわと葉の揺れる音が聞こえた

それは…俺達の再会を
菩提樹が喜んでくれているように
俺には感じられたんだ…

手を伸ばして、チャンミンの身体を
引き寄せて抱き締めた
そして…どちらともなく近づいて
唇を重ねていった…