「なーぁ、ユノ
   そんなに落ち込むなって
   別の女、探せばいいじゃん」

「うるさいよ、お前…」

人が目一杯、落ち込んでる時に
いちいち、うるさい
ほっといてくれよ

初めて連れてこられたバーの
カウンターで
飲めないお酒に、酔って
潰れかけてる俺

昨日、2年も付き合った彼女に
振られたことを、
親友のドンへに話したら、
気晴らしにこの店に
連れてこられた

クラブと違って、落ち着いた雰囲気
大人の男女が行き交う
出会いの場にもなっているようだ

だけど、振られたばっかりだし
そんなに簡単に気持ちを
切り替えれない

「うー、飲み過ぎて気持ち悪い
   トイレ行ってくる」

そう言って、俺は
ふらふらと席を立って
トイレに向かった

狭い通路をふらふらと歩いていたら
前から歩いてきた人と
肩がぶつかってしまった

「あ、すみません…」

俺は謝りながら顔を上げた

目の前に立っていたのは
栗色のふわふわの髪に
ちょっと隠れた丸い大きな瞳
白い肌に映える、
濡れたように、艶めく紅い唇をした
男?
女と言ってもおかしくないくらい
綺麗な顔をしている

薄い胸はどう見たって、男だろうが
少し胸の開いたシャツから
見える白い肌は
絹のようにきめ細やかで
思わず、触れたくなる

「何、見てんの?」

俺があまりに、じっとみつめるから
彼は、不機嫌な声で聞いてきた

「あ、ごめん…君があまりに
   綺麗だから、つい、みとれて…」

俺が慌ててそう言うと
彼はクスッと笑った

「僕を誘ってるの?」

「ち、違うよ!そんなんじゃ…」

俺が慌て否定したら

「なんだ、違うの?
   お兄さん、僕の好みだから、残念」

そう言うと、俺の頬に
軽いキスをして、去って行った

見知らぬ人からの
いきなりのキスに驚いて
俺は、彼が触れた頬を撫でながら
呆然と
彼のうしろ姿を見つめていた