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「硫黄島からの手紙」


硫黄島からの手紙

12/31 丸の内ピカデリー にて


惜しむべくは…


監督:クリント・イーストウッド
原作:栗林忠道、吉田津由子
脚本:アイリス・ヤマシタ
出演:渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、中村獅童、裕木奈江、他


 戦況が悪化の一途をたどる1944年6月。
 アメリカ留学の経験を持ち、西洋の軍事力も知り尽くしている陸軍中将の栗林忠道(渡辺謙)が、
 本土防衛の最後の砦ともいうべき硫黄島へ。
 指揮官に着任した彼は長年の場当たり的な作戦を変更し、
 部下に対する理不尽な体罰も戒めるなど、作戦の近代化に着手する。
 しかし戦局は空軍・海軍が壊滅的被害を受け、援軍がないという絶望的な状況に追い込まれている。
 そのような状況の中で、やがて米軍がグアムを出発し、大挙して硫黄島に上陸してくる…。


クリント・イーストウッドが太平洋戦争の硫黄島での戦いを
日米双方の視点から描くという【硫黄島2部作】の第二弾。
「父親たちの星条旗」 に続きいよいよ日本側の視点からということで
「硫黄島からの手紙」であります。


噂にたがわずの力作、感動作でありました。
よくアメリカの監督が日本の事を描けたなと思いますし、
よくぞここまで日本の俳優から演技を引き出せたなと思います。
もうここまでくると日本映画として評価したいくらい。


見ていて終始その【悲劇】に我が身を震わせて見ておりました。
が、ここまで力作、感動作であるのは充分同意の上で
あえて「惜しむべくは…」という言葉を使わせていただくならば、
硫黄島の戦いは日本にとっては負けが目に見えている戦いであり
すぐアメリカにやられてしまうのがわかっていながらも
30日以上も【粘り腰】の戦いをした…
その【粘り腰】が作品の中に見えてこなかったことでしょうか。


硫黄島の戦いは日本にとって“負け”が目に見えている戦であった。
海軍・空軍は壊滅的打撃をうけ硫黄島に援軍を出せず
陸軍のみがが大挙して押し寄せる米軍に孤軍奮闘せざるを得ない。
しかし栗林中将が硫黄島に赴任してきた時に部下たちがしていたことは
昔からの“仕事”ばかりにこだわり沿岸の軍装備をしている始末。
栗林中将は援軍がないことを諭し、洞穴からの【地下戦】を指示する…。

ここまでは栗林中将(渡辺謙)の沈着冷静な人となりの解説も兼ね非常に丁寧な描写が続く。

しかし米軍がいよいよ攻めて来るとなると、もう日本軍は悲劇的結末にまっしぐらとなる。
陸・海・空軍の総勢力で襲ってくる勢力に、洞穴からの攻撃は【防戦】一辺倒でしかない。
限界を感じ【自決】を図る部隊が続出するのを栗林中将は
「自ら命を絶つな。防戦せよ」の指示しか出す事ができない…。


確かに歴史的観点から見ると硫黄島の戦いは日本軍がすぐ負けるはずであったのが
30日間以上も米軍をてこずらせた戦いとなっている。
しかしこの作品を見ると日本軍は口悪く言ってしまえば
「30日間期間延長して地獄を体験した」ように見えてしまう。


硫黄島の地形をもう少し作品の中で解説してもらえば、
いかに小人数の部隊が洞穴を延々と逃げ回りながらも
長期間【抵抗】を続けていったかの、その【粘り腰】が少しでも見えたのであろうが、
次から次へと玉砕されていく部隊たちの描写の連続には
残念ながら【粘り腰】は見えて来ないし、
栗林中将の【焦る姿】しかみえてこない…。


繰り返しますが決して「硫黄島からの手紙」を悪く言う気はない
「自ら命を絶つな。防戦せよ」と指示をする栗林中将の判断は
ゼロ戦をだすような末期の日本軍の中では極めて沈着冷静な判断だと思うし、
アメリカ兵をあえて捕虜とし、捕虜との会話を通じアメリカ兵も【一人間】なんだと
自分たちの部隊たちに諭すその判断も新鮮であったろう。


沈着冷静で新鮮な判断をしたからこそ、これだけ米軍をてこずらせたのであろう。
しかしそれならいっそのこと、その【こずらせた様】も作品内でみせてほしかった。
「惜しむべくは…」という表現を使い、あえてその【粘り腰】が作品の中に見えてこないことに
はちょっとした不満を感じてしまったのであります。


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新年あけましておめでとうございます。

謹賀新年


本年も昨年同様よろしくお願い致します。


今年も映画を見て、演劇を観て、歌舞伎を鑑賞し


そして落語・演芸を見て聞いて


このblogで報告させてください。


忌憚なきご意見、TBのほどを引き続きよろしくお願いします。


今年こそはblogを溜めぬよう心がけます。


やっぱり見たものの率直な意見をこういうところで整理して発表しておかないと


後日、自分の意見がフラフラ揺れ動いちゃっていけません。


もう公開や公演の終わった作品の感想をも後日しっかり発表しておいてね…

本年もありがとうございました

今年は一時ブログを中断してしまったのが何より心残り。
これからは更新しつつも過去の記事も思い返しつつ
中断の溝をも埋めていきたいと思ってます。

なお12月も、【見た】【観た】ものが多かったのに記事更新ができなかったので
今後の更新予定を発表しておきます。
また来年もよろしくお願いします。


12月分更新予定記事

 ●クリント・イーストウッド「ルーキー」(1990)
 ●イッセー尾形のとまらない生活2006 in 12月の東京公演
 ●国立演芸場12月中席「六代目柳家小さん襲名披露興行」
 ●ケン・ローチ「麦の穂をゆらす風」
 ●ケン・ローチ「ケス」(1969)
 ●小沢昭一「小沢昭一的 新宿末廣亭十夜」
 ●ナイロン100℃「ナイス・エイジ」
 ●「元禄忠臣蔵 第三部」
 ●ヤン・シュバンクマイエル「ルナシー」
 ●NODA・MAP「ロープ」 up!
 ●クリント・イーストウッド「硫黄島からの手紙」 up!
 ●林徹「大奥」 up!


…年内最後が「大奥」なんて本当今年は変わった年でしたなァ(笑)。

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NODA・MAP「ロープ」


ロープ

12/29 シアターコクーン にて


作・演出・出演:野田秀樹
出演:宮沢りえ、藤原竜也、渡辺えり子、宇梶剛士、橋本じゅん、三宅弘城、
    松村武、中村まこと、明星真由美、明樂哲典、AKIRA


 プロレスは八百長だとわかってて観客は見ている。
 だからどこかで歯止めがきくものだから見ていて、もっと【刺激】がほしくなってくる。
 場外乱闘しかり、流血戦しかり、「もっとやれ!もっとやれ!」状態になってくる。
 しかしその【刺激】がマヒしてくるるとともに、人はプロレスを【テレビ】で見ているものだから
 テレビに同様の【刺激】を求めてくる。
 テレビで悲惨な場面が展開されると共に人は「いやだーっ!」と目をそむけながらも
 心の中では「もっとやれ!」「もっと刺激を!」になってくる。


 数年前、某国で「9.11」なるテロがあり
 やがてそれが「戦争」まで発展していった。
 テレビに映されるのは言葉を失わんばかりの悲惨極まりない光景。
 しかしテレビの画面に映る光景は流血戦のプロレスと同じ。
 【刺激】にマヒした人々は心の中でつぶやいている…
 「もっとやれ!」「もっと刺激を!」
 そのつぶやきに我々はフト背筋が寒くなる思いをする…。


ストーリーではありません。
この戯曲の【私なり】の解釈であります…。

年末の12/29、今年の舞台の見納めとして鑑賞したのが
渋谷シアターコクーンでのNODA MAP公演「ロープ」


NODA MAPの公演は2年前、 夢の遊眠社時代の戯曲の再演「走れメルス」 を見まして
野田秀樹のあの溢れんばかり台詞で埋め尽くされた劇の展開に
夢の遊眠社の舞台を見て「わからなくてもわかったような顔」をしてた
昔の自分を思い出して苦笑してしまったといいますか、
今は、もう付いて行けないなと思わされたといいますか(笑)
すっかり舞台に【置いてけぼり】をくらわされてしまったのです。

ですから正直、今回チケットは買ったものの…しかも新作だということを差し引いても
劇自体にまずは付いていけるか、というのが最大の心配でした。
これでやっぱりついて行けなかったら、もう舞台見るのは控えようかというくらい。


そして見た結果…付いて行けました(笑)。
と、いいますか野田秀樹もすっかり変わりましたね作風が。
プロレスを題材に、驚くべきスピードで台詞が劇が進むその展開は
夢の遊眠社時代から何も変わってませんが、
激しく展開していきながら徐々にストーリーが、そして劇自体が
【テーマ】に向かって一直線に進んでいき、それが見ている者が手に取るようにわかる
…とにかくわかりやすいし、
…テーマも時事問題を含み現代へのメッセージとして説得力がある。
そこが「エッ!これが野田秀樹?」という驚きで、見ていて新鮮でした。

昔の夢の遊眠社公演あたりだったら溢れる台詞に見ているうちに頭の中が埋れてしまって
テーマに至った時には遥か後方をノロノロとついていくしか術はなかったのに…。


それとやはりNODA MAPの公演からは外部の役者陣を使うということが
野田戯曲の【わかりやすさ】の一つの手助けとなったのかもしれません。
今回も宮沢りえ藤原竜也の【有名人級】が熱演して舞台を盛り上げ、
橋本じゅん三宅弘城松村武などの今の【劇団俳優陣】が脇を固めて、
そして渡辺えり子…野田秀樹と「小劇団ブーム」を共に牽引してきた【同士】が引き締めをする。
その役者層の厚さが、よいコラボレーションを生んで
劇自体を見応えのあるものにしていると思います。
やっぱり渡辺えり子が舞台にいると舞台がピシッと引き締まるような感じがしましたもん。

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「ルナシー」


ルナシー

12/24 K's cinema にて


常人にはお奨めできません!


監督・脚本:ヤン・シュバンクマイエル
出演:パヴェル・リシュカ、ヤン・トジースカ、アンナ・ガイスレロヴァー、ヤロスラフ・ドゥシェク、他


 精神病院の職員に拘束される奇抜な悪夢をみたジャン・ベルロ(パヴェル・リシュカ)は、
 無意識のまま大暴れして宿の部屋を滅茶苦茶にしてしまう。
 しかし、たまたま居合わせた侯爵(ヤン・トシースカ)が弁償し
 ジャン・ベルロを自分の城へと招待する。
 しかしその夜ジャン・ベルロが盗み見した光景は、
 侯爵を中心に繰り広げられる快楽とグロテスクな饗宴の世界であった…。


旧チェコのシュールな人形アニメーション作家、ヤン・シュバンクマイエル
そうですね今から15年ほど前でしょうか
かの有名なルイス・キャロルの「不思議な国のアリス」を
人形アニメで描いた「アリス」をレイトショーで見ました。
しかしこれが想像以上のグロテスクさにあふれた強烈な作品で
ルイス・キャロルの原作自体、相当グロテスクですけど、
そのルイス・キャロルがうなされてしまうであろうくらいの、
グロテスクな夢をさらに増長させたような世界が展開されてました。


そして15年以上経って再びシュバンクマイエル作品を鑑賞するに至ったわけですが
今回の「ルナシー」は「アリス」とは比にならないほど、さらにグロテスク
もうエロスグロテスクが2時間弱の中にトグロを巻いてるようであります。


なにせベースになっているのが精神病院を舞台とした
エドガー・A・ポー「タール博士とフェザー教授の療法」の原作に
13年間精神病院に監禁された、
かのマルキ・ド・サド公爵の史実だというのですから、
この時点でもうスゴイ(笑)、尋常ではない。
しかもこの作品をシュバンクマイエル自身【芸術作品】と言わず
【ホラー】だと言い切ってしまっているのですから
その異常さ、グロテスクさには歯止めがきかない状態。

そしてそのグロテスクなストーリーに
シュバンクマイエルお得意のストップモーションアニメ
からんでくるのでありますが、これがもう趣味が悪い。
なにせ動く対象物が【肉の塊】
【舌】であったりステーキ肉かなんかの【肉片】
シーンの合間に微妙に、そして象徴的な動きをして
メインの物語にからんでくるという趣向。
もう、こう書いていても思い出して気持ちが悪い。


精神病院を舞台とした狂気の沙汰のストーリーに
グロテスクなストップモーションアニメが絡んで
人間の愚かな行動を皮肉るというというのが
シュバンクマイエルの本作での趣向らしいのですが
まぁここまでグロテスクに描いてくれれば強烈なイメージが残って
それはそれで成功なのでしょうが、
どこからが正常で、どこまでが異常なのかの境界線もあやふやな
この作家の精神構造すらも疑ってしまう結果というのは
果たして成功なのか、失敗なのか…

常人からはとても判断できない結論であります。
パゾリーニの「ソドムの市」を見た時の感覚に近いですね。


ここまで映像で描いてしまう作家が世界にいるんだ…と
「ルナシー」は一見の価値はある作品ですが、気分が悪くなることうけあいなので
くれぐれもそれなりに【覚悟】の上でご鑑賞を(笑)


■まだこっちの方が見やすいかも(笑)

 ヤン・シュヴァンクマイエル アリス
 

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