「シンデレラマン」 | こだわりの館blog版

「シンデレラマン」

シンデレラマン

10/2 丸の内ピカデリー にて


ボクシング界で起こったこれほどの奇跡があまり知られていないとはもったいない!
これもアメリカ大恐慌という時代が産んだ悲劇なのでしょうか…。


監督:ロン・ハワード
出演:ラッセル・クロウ、レネー・ゼルウィガー、ポール・ジアマッティ、クレイグ・ビアーコ、
    ブルース・マッギル、他


 無敗を誇っていたボクサー、ジム・ブラドックは試合で負った怪我で現役引退をせざるを得なくなる。
 時は1929年。
 アメリカは【大恐慌】に陥り、一夜にして失業者が溢れかえる。
 悠悠自適の生活を送る予定だったブラドックもこの大恐慌の波をモロにかぶり、
 日々肉体労働の日雇いの職探し。
 しかし大恐慌時にそうそう仕事は見つからない。
 やがて家族を養える金もなくなり、生活保護を受け、
 仕舞にはボクジング関係者たちが集まるクラブへ出向き金を恵んでもらうお願いまでする破目に。
 元ボクシングチャンピォンにとっては屈辱とも言っていい日々。
 そんな彼にチャンスが回ってきた。
 最後の試合と決めてリングに上がったマディソンスクエアガーデンでの試合で、
 予想に反し勝利を収めてしまったのだ。
 この試合はちょっとした話題となり、彼の元に改めて試合の引き合いが来るようになる。
 やがて彼は一つ一つのチャンスを活かしながら、
 再起の階段を一歩一歩進んで行く事となる…。


ボクシング映画の代表作といえばシルベスター・スタローン「ロッキー」
 しがない3回戦ボーイがチャンピォンの気まぐれから突然チャンピォンとの対戦相手に指名される。
 コテンパンにやられるてしまうと思いきや、
 ロッキーは全力を振り絞ってチャンピォンと15ラウンドフルに戦う。
 自分を信じて努力すれば成功は向うからやってくる…
 まさにアメリカン・ドリームが実現した瞬間であった。
「シンデレラマン」を見ながら自然と「ロッキー」を思い出していました。
時代的にもジム・ブラドックは1930年代の選手ですから、
スタローンもさぞかしこの伝説のボクシングヒーローを参考にしたに違いない、と。
しかし「ロッキー」はモハメッド・アリとガムシャラに15回戦戦ったボクサーがモデルとの事。
他にもボクシングというとモハメッド・アリや最近で言えばマイク・タイソンと
圧倒的に70年代以降のヒーローが取り上げられますから
つまりジム・ブラドックは今から70年も前のヒーローながら、
この奇跡のボクサーは半ば忘れられた存在であったということです。
何とももったいない話です。

しかし彼が半ば【忘れ去られた存在】になってしまったのもある意味うなずけます。
それは彼が1930年代の【大恐慌】を生きたボクサーであったから。
時代が悪すぎたのです。
【大恐慌】は一夜にして失業者が溢れかえったまさに【闇の時代】
今日のように「強いアメリカ」を自認する国にとっては【闇の時代】など
できれば「なかった事」にしたいくらいの気持ちでありましょう。
ましてやその時代を生きたヒーローなど、「時代を忘れたい」くらいなのに
人物にスポットがあてる事などまず考えられません。
ジム・ブラドックはまさに時代が産んだ悲劇のヒーローでもあったわけです。


ロン・ハワードの「シンデレラマン」はこの【時代が産んだ悲劇のヒーロー】に
改めてスポットを当てるとともに、その時代に彼と共に生きた【周りの人々】もあわせて
暖かい視線で描いた重厚な人間ドラマであります。
この【周りの人々】の描き方がよかったため作品に、より一層の深みが出たのではないでしょうか。

特にレネー・ゼルウィガー扮する奥さんと、ポール・ジアマッティ扮するマネージャーが秀逸でしたね。

レネー・ゼルウィガー
は可憐でやさしくて、いかにも下町の奥さんといった感じの好演。
いよいよ旦那が大一番の対戦をするという時に、本当は喜ばなくてはいけないにもかかわらず
相手があまりにも強敵で「もしかしたら旦那は死んでしまうかもしれない」と思った時の
心配で仕方のない表情の見事なこと。
それでも奥さんの気持ちも知らず、旦那が家で子供たちとパンチのフザケ合いをするものだから、
思わず「家にボクシングを持ち込まないで!」と怒鳴ってしまうその心情は、
見ているこっちまで心が痛くなってしまいました。

ポール・ジアマッティはジム・ブラドックを信じているにもかかわらず、
ショウビジネス界を生きていく上にはずる賢いところも見せなければ、と
ブラドックをダマしたりもするマネージャー役で本当に彼にピッタリ(?)の役どころ。
「サイドウェイ」の彼はそれほど好きではありませんでしたが、この作品はイイですね。
あまりにも彼がブラドックをこき使うように試合をブッキングするもので、
レネー・ゼルウィガーが彼の家に抗議しに訪れると、
彼の家は実はブラドックの試合のブッキングをするための接待費を作るため、
家財道具を一式売り払っていており、も抜けの殻になっているのがわかる。
コトの事実が知れ何ともバツの悪そうな彼の表情などは、極めて印象深かったですね。


最後にちょっと気になった点を一つ。
ジム・ブラドック役のラッセル・クロウはかなりシェイプアップしての熱演でよかったのですが、
ラストで【相手を殺してしまう】強敵と15ラウンドフルに戦う大試合をしたにもかかわらず、
顔がちっとも腫れてないのが妙に気になりました。
前述の「ロッキー」でも最後スタローンはもう目もあてられないような顔になっていたのに
ラッセル・クロウは相手にいくら鼻の骨を強打されようが、顎にパンチが当たろうが
次のラウンドでは“すっきりした顔立ち”で出てくるんですね。
他愛ない事かもしれませんが、
試合のリアリティを考えた上でも、見ていてどうも【迫真の試合】に見えなくて、
私は残念に思ってしまいましたね。

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