~プロローグ・私の記憶~
私の最初の記憶。
覚えているのは、私がどことも知らない道に立っていたこと。
泣いている私に声を掛けてきたのは長老さまだった。
私は長老さまの住むアヌの村で生きることになった。
子供のいない夫婦・・・お父さんとお母さんに引き取られ、名前はルクシェと名づけられた。
”ルクシェ”というのは、この世界に伝わる女神”プォルカ”さまに仕えた天使の名前。
そして、私が村に住み始めて五年がたった頃、狩りに出たお父さんが森で死んだ。
お母さんもそれからすぐ病気になって、お父さんのいる空の向こうへ行ってしまった・・・。
それから私は長老さまの家に住むことになり、また三年という時が経った。
~世界~
今私たちが生きているこの世界は決して幸せなものとはいえない世界だ。
なぜなら世界は戦乱の世の中になってしまったから。
きっかけは世界を統治しようとする西のゴゾンの国が武力による他国への侵攻を始めたことだった。
周辺の小さな国々は瞬く間に制圧され、ゴゾンの国は勢力を拡大していった。
ゴゾンの国に抵抗する勢力として名乗りを上げた三つの大国があった。
一つは北のカルガラの国。
北の大陸のほとんどを統治しているゴゾンの国に並ぶ大きな国だ。
しかしこの国もゴゾンや他の国を討ち滅ぼして世界をその手にしようとする思惑は、ゴゾンとなんら変わらない。
南の大陸のオーダ。
他の国と陸続きでない唯一の国。
ノグマ国王はゴゾンやカルガラの武力支配から世界を救うべく、二大勢力に宣戦布告したのだ。
そして東のウィルノム。
先代の国王が亡くなり、現在は後を継いだ王女・マルマナさまが治めている国。
ウィルノムは周辺の国々と手を結び、他勢力に劣らない力をつけている。
世界はこの大きな四つの国の争いにより、いつ終わるとも知れない混乱の世に状態に陥っていた・・・。
~アヌの村~
私たちの住むアヌの村はウィルノムに近い小さなエンバという国の中にあった。
エンバの国王・ミルキンスさまは戦争を嫌い、エンバをどの国とも協力、戦争を行なわない中立国家と宣言し、私たちはこの混乱の世界の中で、比較的穏やかな日々を過ごしていた・・・。
森の中。
いつものように小鳥たちの声がする。
森で子供たちと木の実を集めた私は村へ帰る途中。
道の途中にはレマお姉さまたちがいつも鍛錬をしている場所がある。
私は子供たちを先に村に帰してそこへ寄ってみる事にした。
「私はお姉さまたちの所に寄ってくから、あなたたちは先に村へ帰ってなさい。」
「え~お姉さまたちのところなら、私も行きたい~。」
当然のように駄々をこねる子供たち。
「あなたたちはお姉さまたちの邪魔をするからダメ。お姉さまたちにも危ないから鍛錬場に近づいちゃいけないって言われてるでしょ?」
「ルクシェはいいの?」
「私はもうすぐお姉さまたちの仲間入りできる年齢になるからいいの。あなたたちのように邪魔もしないし。」
子供たちは不満そうにブツブツ言いながら村への道を帰っていった。
鍛錬場の近くまでくると、お姉さまたちの勇ましい声が聞こえてくる。
レマお姉さまたちは村に伝わる”神の像(人型マシーン)”に乗ることを許された七人の神官さま。
村の女の子たちの最高の憧れの的だ。
「・・・わあ、やってる、ステキ・・・。」
剣を交えているお姉さまたち。
勇ましくて美しい・・・私も早くお姉さまたちの仲間入りがしたいなあ。
「ルクシェ」
一休みしていたシーナお姉さまが私の姿に気づいたようだ。
他のお姉さまたちも訓練の手を止めた。
「また寄り道しにきたのね。」
しょうがない人ね・・・と言いながらも笑顔を見せるレナお姉さま。
「えへへ・・・でもただの寄り道じゃないですよ?ほら、森で採った果物とか・・・差し入れです。」
私はそう言って果物屋木の実でいっぱいのカゴを差し出した。
~つづく~