~どうして~
お願いって何だろう。
見ていたすずちゃんのアルバムから顔を上げて綾香を見た。
綾香は私と目が合うと顔を伏せてしまった。
・・・こんなおっきいお家でお小遣いに困ってるとも思えないけど・・・。
そっちの願い事と決まったわけじゃないか。
「なに?綾香。」
「・・・ん・・・。」
なんか言いづらそうだなあ。クッションをいじって・・・。
”カラオケでデュエットしましょ”とか全然おっけーなんだけど、そういうことでもないらしい。
「私にできることなら、何でも言って。」
聞く気満々の念を押してみる。
「・・・私の・・・わがまま・・・聞いてもらえる?」
少し間があった後に下を向いたままの綾香が言った。
「わがまま?・・・うん、私でよかったら。」
”カラオケで・・・”くどいな。
綾香はクッションをいじっていた手をギュッと握り締めた。
「・・・もう一度・・・」
綾香の声が震えていた。
「・・・もう一回だけ・・・りんをすずって呼んで抱きしめてもいい・・・?」
綾香の頬に涙が流れた。
ああ・・・。
綾香のお部屋いる私の姿がすずちゃんと大きくダブって見えたのかもしれない。
・・・無理もないよね。
声だけじゃない、綾香の体も震えて見えた。
「・・・りんはりんだからって・・・おばあちゃんたちには言ったくせに・・・こんなこと言うのひどいと思うんだけど・・・ひどいよね。」
綾香・・・。
私は別に迷わなかった。
「・・・いいよ。」
私の言葉に反応して、綾香が顔を上げた。
「綾香がそうしたいなら。・・・私はいいよ。」
すずちゃんを抱きしめてあげて。
「・・・りん・・・。」
すずちゃんのアルバムをそっと置いて綾香を待った。
「・・・ごめんね・・・。」
近づいてきた綾香の腕が私を包んだ。初めて出会ったときのように綾香は強く私を抱きしめた。
「・・・すず・・・すず・・・。」
窓から差し込む光・・・。
すずちゃんの名前を呼ぶ綾香の声だけが聞こえる・・・。
悲しみにかすんだ声・・・。
『・・・どうして・・・』
『・・・どうして神様は・・・こんなに愛されているすずちゃんを綾香たちから取り上げてしまったんだろう・・・』
~つづく~