校門の前の道を少し歩いて右手に曲がると商店街のアーケードが見える。その位置からだと横に伸びて見えるのだけど。
十字路を四つくらい過ぎるとアーケードの横から商店街に入る形になる。
私と綾香ちゃんが並んで前を、その後ろをちひろとりっちゃんが歩いているような形で、真由はその間を行ったり来たりという感じだ。
道を進むにつれ行き来する人の数が増えていく。
浴衣で集合のはずだったが、真由は裏切り者だった。隙間が多くて服を着ている感じがしないのが嫌なのだそうだ。
アクティブな真由には確かにちょっと不向きな格好かもしれない。
夕陽もすっかり落ちて、うっすらと残った空のオレンジ。街頭も点いて、アーケードから漏れてくる照明が一際明るく見える。
「綾香ちゃんは夜市に来るの初めてだよね。」
「・・・小さい時に何度か来たわ。」
そっか、おじいちゃんの家がこの町にあるならそういうこともあったか。
商店街に入ると一気に人が増えた。右も左も人だらけ。
お祭りなんだから当たり前なんだけど。
でもこういうイベントのときとかって、この町にこんなに人いたっけっていうくらい人があふれ出てくるよね。
「迷子にならないようにね。」
りっちゃんが後ろから声を掛けてくる。
「小さいちひろとりんはとくにね。」
”小さい”は余計中の余計だ。
なるべく固まるようにして商店街の中を歩いた。
知っているお店が多いのと、学校の子たちももちろん来ていたりするから、何歩も歩かないうちに見知った顔と会うことになる。
短い挨拶を交わしながらお祭りの雰囲気を味わう私たちだった。
夜市の一つの目玉といえるのが、商店街を抜けて少し先にあるわが町唯一のデパートだ。
デパートも夜市のときは夜9時まで開店している。
最上階のレストランは定時に閉店するけど、それ以外は普段と変わらずお買い物ができるのだ。
もちろんお買い物も目当てではあるけれど、私の場合もう一つ。
それはデパートから見下ろす町の夜景だ。
店内の照明があるので、目を覆うようにして窓に顔を近づけて外を見る。
そこから見える夜景はこの時期だけの限定イベントだ。
一通りデパート内を見て回ってレストランの一階下のフロアから外を見た。
晴れているから遠くの山も星も見渡せる。とってもいい景色。
・・・しばらく見てると息で窓が曇ってきちゃうんだけど。
「・・・とっても綺麗。」
綾香ちゃんも嬉しそうに言ってくれた。
デパートで一時間くらいブラブラしてからまた商店街に戻ることにした。これもいつものルートだ。
明るいデパートから暗い外に出ると、ちょっと足元がおぼつかない感じになる。
デパートを出てすぐの段差に私はつまづいて転びそうになった。
横にいた綾香ちゃんがさっと手を出して抱き支えてくれたけど・・・
「すず、大丈夫?」
「え・・・」
”すず”・・・綾香ちゃんが口にしたのは私の名前ではなかった。
綾香ちゃんの表情が変わった。
「・・・ごめんなさい・・・私・・・」
綾香ちゃんは明らかに動揺していた。体が震えているのが分かった。
「綾香ちゃん・・・?」
「私・・・」
今にも泣きそうな綾香ちゃん。綾香ちゃんは振り返りながら走っていってしまった。
「綾香ちゃん!」
人の多さと夜の暗さに綾香ちゃんの姿はすぐに見えなくなってしまった。
茫然としたした感じで立っている私のところに綾香ちゃんが走り去るところを目撃していたらしい真由たちが来た。
「なに、どうしたの?」
「綾香ちゃん泣いてたようだったけど、ケンカしちゃったの?」
「・・・ううん、ちがうけど・・・。」
”名前を間違えた”・・・言ってしまえばそれだけのことなんだけど。
どうして綾香ちゃんはあんなにショックを受けたようになっていたんだろう。
私は走り去った綾香ちゃんがもうどこにも見えない方を見ているだけだった・・・。
~つづく~