ずっと千葉で育ってきた僕が、
静岡の大学へ入学することが決まり、
下宿先を探すことになった。
親元を離れる条件として、
学生寮に入ることを義務付けられたので、
不動産屋や、大学の学生課に問合せてみたところ、
たった一つ見つけたのが
民間企業が運営している、優生寮だった。
優生寮は、元々は造船業を営む会社が、
そこで働く独身社員のために、
30年近く前に建てたものらしかった。
その後、業界の衰退、会社規模の縮小にともない、
借り手がいなくなったので、学生相手に貸し出すことになったとのこと。
朝晩の賄い付きで、電気代は無料。便所・風呂は共用。
社員寮として使われていた時は、1室辺り3名で使用していたが、
現在では1室1名の契約となっており、
かなり広く使える部屋を想像してしまった。
結局、実際の優生寮を見ることもなく、郵送で契約を済ませた。
食費を含めた家賃は月4万円でお釣りがくるほど安かったし、
寮生活が一人暮らしをする絶対条件だったので、他に選びようも無かった。
初めて寮を訪れたのは、3月最後の日曜日だった。
新生活は4月からとなるが、既に部屋は空いており、
荷物を運び入れても構わないとの許可が下りたためだ。
父親の運転するセダンのトランクに、引っ越しの荷物を積み込み、
助手席には母親、後部座席に僕が座り、渋滞を避けるように
早朝から静岡を目指して出発した。
首都高3号線を抜ける時、遊びなれた渋谷を横目に、
「都落ち」という言葉が浮かんでいた。
自宅を出て、3時間も経たない内に優生寮の前に立っていた。
ウソだろ・・と思わず口に出てしまうほどボロかった。
それまで見たことはなかったが、刑務所とか隔離病棟を連想した。
窓に鉄格子が付いていたら、誰も疑わないだろうと思う。
父親が「すげーな。」と苦笑いし、
母親は「へー。」と何かに感心している様だった。